9月27日、参院選期間中に凶弾に斃れた安倍晋三さんの国葬がしめやかに行われていました。豪運のように見えた安倍さんの壮絶な最期には、驚きとともに悼む気持ちでいっぱいです。

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 私の実家の近くでは、左翼の皆さんが集まって太鼓打ち鳴らしてお昼寝中の長女(3歳)を叩き起こすなど面倒くさいことになっていましたが、元気があってよろしいと感じます。

 巷では、安倍さんの葬儀に献花をするために数時間並んだ国民の数と、官邸前や新宿などで集まった反国葬の左翼とのどっちが人数多かったかで論争が起きているようですが、ぶっちゃけ賛成もあり、反対もあったってことでいいじゃねえかと思うんですが、なぜどっちが多いかで競り合ってるんでしょう。賛否両論ありましたね、で済ませられない野鳥の会魂をお持ちなんでしょうか。

国葬による岸田政権の支持率の低下

 一方で、なにぶん統一教会問題でかねて万単位の日本人の人生と家庭を壊し、財産を寄付・献金の名目で巻き上げて韓国に送金することを暗に認めておきながら、どちらかと言えば国粋的な民族主義者の皆さまも含めたネトウヨの多くが安倍さん支持者であったことを思うと複雑な心境です。

 政治というのは白黒つけられない複雑な世界であって、国民が信じるような単純な世界観や人間性ではやっていけないのだと教えてくれたのが安倍晋三さんだったのだなあと思います。いまなお右派が安倍さんのなしてきたことの真実を受け入れることのできないまま、認知的不協和の極みで混乱をしているようにさえ見えます。


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 生きている側からすれば、故人が何を考え、どうであったかにかかわらず、目の前の現実に対処して生きていかなければなりません。国葬儀をやっている横では静岡で多難な水害があり、その静岡の県知事をめぐっても別の意味で国難が起きていたわけですが、振り返ると岸田文雄政権の目を覆わんばかりの支持率の低下は「参院選後、3年間は国政選挙のような大きな選挙はないのだ」とフリーハンドを謳歌するはずだった岸田官邸の政策遂行能力に大きな傷をつけてしまっています。

東京オリンピック汚職が名物創業者の逮捕劇にまで発展

 それもこれも、この安倍さん国葬の問題と、その背景にあった統一教会にまつわる事件や経済政策の根幹である成長戦略不在と構造改革の遅れが関係するインフレ・物価高と並んで、大きな国際的スキャンダルに発展した東京オリンピック汚職が背景にあると言えます。

 文春他マスコミでも繰り返し報じていますが、東京オリンピックをめぐる五輪組織委員会元理事・高橋治之さんおよびその周辺の受託収賄と企業側の贈賄とによるおカネの流れが明らかになるたび、「そもそも安倍晋三さん、菅義偉さんが総理の座にあるうちにすでに問題だと指摘されてきていたのに、なぜ彼らが権力の座から去ったあと岸田政権になってからこの問題が大きく弾けることになったのか」は強く問われなければならないと思うんですよ。

 事件当初は紳士服チェーンのAOKIが、次いで出版大手のKADOKAWAが、おのおの名物創業家の逮捕劇にまで発展し、おカネをもらっていた側の高橋治之さんもまた、半ば開き直るような発言をしながらも再逮捕・追起訴を繰り返しています。

 いまなぜか日本維新の会にいる元東京都知事・猪瀬直樹さんが東京オリンピック誘致にあたり「カネのかからない五輪」と主張しながらも、開催にかかる資金は雪だるま式に膨れ上がりました。そればかりか、菅義偉さんのリーダーシップのもとコロナ禍であるにもかかわらず、無観客での東京オリンピック開催を強行して国葬かと思うようなしめやかな観客動員で粛々と実施されたのも良い思い出です。

東京のレガシーが負債のような状態になってしまっている事例も

 もちろん、イベントをやると決めたからにはちゃんと最後までやる、ビジネスのことでもあるので約束は守る、というのは大事なことです。一方では、一連の五輪汚職にまつわる報道を見ていると、これが分かっているなら昨年の五輪開催は見送るべきではなかったかといまさらのように思う国民は私だけではないとも思います。

 単にスポンサーによる組織委員会への適切ではないおカネの流れだけでなく、おそらく次の本丸はイマイチ正当性に欠ける謎のプロジェクトと化した旧国立競技場の解体と新国立競技場の建設、さらには神宮外苑再開発も含めた、今回の東京オリンピック開催で目指した東京のレガシー(次の時代・世代へ引き継ぐ遺産)をどうするかっていう各種事業の推移です。

 まだ読者のご記憶にあるのか分かりませんが、世界的建築家であったザハ・ハディドさん(故人)が当初デザインした国立競技場の旧案を俺たちの森喜朗さんが「生牡蠣がドロッと垂れたみたい」と酷評し、すったもんだの末に建設コスト高を理由に廃案として、強引に設計変更してとにかく建設した国立競技場が、いま「これどうすんの」というレガシーというより負債のような状態になってしまっている事例があります。

 これ、後から「とにかく建てろ」と言われて奔走した大成建設や梓設計、隈研吾事務所の責任ではなく、いちゃもんのような建設費高騰を理由づけにしながら、なぜ日建設計とザハ事務所が進めようとした案を撤回しなければならなかったのか。事故調査委員会が立ち上がるレベルの不祥事だったんじゃないかと私なんかは思います。この決定の裏側に、誰か大物の意向が影響したんでしょうか。

トカゲのしっぽ切りのような不正義を放置しないでほしい

 本当にコストが高くて問題だったのだとするならば、オリンピック全体でどれだけのおカネを使ったのか、また、それらの使途は本当に適切であったのかが問い直されなければならないはずです。

 実際には、2022年6月30日に東京オリンピックの組織委員会は解散してしまい、だからこそ用済みとなった今回の高橋治之さんの摘発もスムーズにいったのかもしれませんが、それでも使われたのは国民の税金であり、その金額も1兆4,000億円あまりが費消されたと言われています。安倍晋三さんの国葬で使われる警備費込みの16.5億円が問題になっている、その約1,000倍が使われたのが東京オリンピックなわけですよ。

実は3兆円超え?試算も 東京五輪「1.4兆円」に関連経費含まれず | 毎日新聞
https://mainichi.jp/articles/20220621/k00/00m/050/111000c

 岸田文雄さんにお願いしたいのは、この途方もないどんちゃん騒ぎで国を挙げてカネを使った結果について、きちんとした決算が行われないまま、なんか適当な感じで高橋さんも群がった企業も悪かったですねとトカゲの少し太めのしっぽが切られて終わるような不正義を放置しないでほしいという点です。

悪弊を一掃する良いタイミングなのでは

 ここには、東京オリンピック・パラリンピックで「人材サービス」カテゴリーにおける『東京2020オフィシャルサポーター』契約を締結していたパソナグループが受託していた日当35万円という異様に高騰した人材派遣を認めた構図も含まれています。他にも、オフィシャルサポーターの名目で社名を連ねてしまえば、オリンピックにまつわる支出を割高で独占的に受注することができるという、文字通り商業主義に侵された五輪の構造が浮き彫りとなります。

 AOKIが提供したダサいとも酷評された謎の五輪スーツも、KADOKAWAが求めた公式プログラムの発行も、すべては「一度カネを入れてオフィシャルサポーターになれば、利益率の高い五輪関連ビジネスが転がり込んでくる」のであり、それを知っているからこそ、森喜朗さんが亡くなられたご子息絡みのスキャンダル報道があったからか、これを報じた講談社を外そうとしたのも、単なる私怨ではなく利権構造がハッキリしているからでしょう。

 他方で医療や通訳も含めた大会運営には酷暑のなか広く国民都民のボランティアを招集しておきながら、ほとんど税金つかみ取りのような構造で湯水のように利権に群がる状況にしてしまったのは真の意味で日本政治の悪しきレガシーであって、まさに統一教会と結託した自民党の保守傍流・清和会のドンたる森喜朗さんや、亡くなられた安倍晋三さんの拭うことのできなかった悪弊を一掃する良いタイミングなのではないかとも思うのです。

 そこには、我が国の構造不況とも言える成長戦略不在の種もまた潜んでいます。本来であれば合理的な労働法制のなかでより自由な就業と研鑽ができるようにするべき政策を実現していくべきところ、民間企業から地方自治体までビッシリとパソナグループほか人材会社が派遣労働の受け皿として機能している現状があります。契約社員・派遣社員が本来もらうべき所得をピンハネしてしまって収入が上がらず、結果的に国民の所得の伸び悩みとともに生産性が上がらず、世帯収入不足で結婚もできず子どもも儲けられず少子化に歯止めがかかりません。

日本経済を再成長へと載せ直せる政策の実現を

 もちろん、パソナ以下人材会社にも正当な言い分はあると思いますし、先日パソナの取締役を辞任された竹中平蔵さんも自身の動画の中で釈明を重ねています。しかしながら、雨後のタケノコのように人材サービス会社がどんどん誕生し、便利で合理的な人材サービスが栄える一方で、ピンハネ率や紹介料の歯止めがないうえに民間企業が転職希望者のリストを作って人工知能を使い、その人の「値打ち」を決めてしまうのは果たして望ましい社会なのかという問いはいま一度冷静に考えるべきことです。

 奇しくも来年4月に統一地方選挙を控え、人口減少で衰退の一途をたどる地方も含めて岸田政権の最初の試練がやってきます。ここで与党が惨敗見込みとなってしまうと、まだ任期を残しながらも「岸田おろし」が本格化してくると岸田政権はレームダック化を余儀なくされ、死に体のまま3年間を過ごすというオプションも取りづらくなってきます。延命しても総辞職しても、いずれにせよ日本政治は停滞することとなります。

 起爆剤のない岸田政権を支持する理由を作る必要に迫られたいま、思い切って戦後自民党政治の旧弊を振り払い、適切な規制の敷き直しをし、日本経済を再成長へと載せ直せる政策の実現をお願いできればと思っております。

 それができて初めて、国民からは不評だった国葬議を経て、安倍晋三さんの墓前で「頑張りました」と報告できる日が来るのではないかなと。

(山本 一郎)