○Raptor LakeのIntel 7プロセスはIntel 7+相当か?
まずRaptor Lakeの基本的な情報をまとめると、P-Coreは最大5.8GHz駆動であり、またL2キャッシュの容量がP-Coreあたり2MB、E-Core×4あたり4MBに増量された(Photo01)。加えてE-Coreの数も最大16個になっている。ちなみにこの16個のE-Coreは、Alder Lake同様に4coreのクラスタ×4という構成になっているそうだ。
Photo01: IPCが15%向上、ではないことに注意。
そしてSingle Thread Performanceで15%、Multi Thread Performanceで41%の向上が実現した、としている。この15%というのは複数のアプリケーションでの性能向上率の平均を取ったものである。ではどうやってこれを実現したのいか? という話である。Raptor LakeとAlder Lakeの表に見える差は、L2キャッシュの増量と、DDR5-5600までのサポート(Alder LakeはDDR5-4800まで)ということになる。残りは? というと、動作周波数の向上で実現している(Photo02)。実はRaptor Lakeで利用されているIntel 7プロセスは、Alder Lakeのものと同じではない。説明では「Intel 7+というかIntel 6と言った方が良いかもしれないが(笑)」と冗談を交えて説明していたが、若干プロセスそのものに改良が加えられ、同じ消費電力でより動作周波数を引き上げることが可能になった、としている(Photo03)。ちなみに何を変更したのか? を確認したところ、構造とかジオメトリ、材料などは基本的に同じであるが、電荷移動量を増やした、という話であった。あとこのPhoto03にあるL2Pであるが、説明によればデータのアクセスされ方をK2側で判断して、Prefetchを(L3なりMemoryなりに)掛ける仕組みが新たに入った、とのことである。
Photo02: CacheやMemoryの性能向上に占める割合はそれほど大きくない事が判る。
Photo03: 濃い青線がIntel 7、水色がUpdated Intel 7である。同じ電圧なら200MHz動作周波数が引き上げられ、Turbo動作は600MHz上乗せになっている。
さて、Single Thread性能はそんな訳で主にプロセスの変更による動作周波数向上が主な要素であるが、ではMulti-Threadは? というと、こちらはAlder LakeよりもE-Coreをブン回せる様にした、という事だ。実際、デモでRaptor Lakeの稼働状況が示された(Photo04,05)。これは要するにThread Directorの改良で、よりE-Coreの稼働率を引き上げる事で、Multi-Thread性能の底上げを図った、という訳だ。Photo02でMulti-Threadの方の性能向上要因を見ると、Frequency(周波数向上)と同じくらい"Threads"とあるのはこの事である。ただこうなると、高負荷な処理ではP-CoreとE-Coreを分ける意味は薄くなっていくという気もしなくはない。
Photo04: P-Coreの負荷増大にあわせてE-Coreも稼働率を上げているのが判る。
Photo05: P-Coreの負荷が減ってもE-Coreの負荷は高いまま維持されるシチュエーションもある。
ちなみにこれをフルに生かすためには、Windows 11 22H2が必要になるとのこと(Photo06)。Thread Directorに正しくOSから指定をしてやらなければ、E-Coreをフルに活用するというのは難しい。同じ話はAlder Lakeが投入された時にもあった訳で、これは別に不思議ではない。
Photo06: Thread DirectorはPerceptronベースのclass boundaries制御が追加されたそうだ。ちなみにDynamic Tuning Technologyは現時点でもまだ詳細は不明なままである。これはMobile版のRaptor Lakeの登場時に明らかにされるだろう。
逆に言うと、Raptor LakeのコアであるRaptor Coveそのものは、Alder LakeのGolden Coveと同じ、という説明であった。勿論バグフィックスなどは行われているとは思うが、パイプライン構成とか内部のWindows Size、Dispatch UnitやExecution Unitなどには変更はない、という話であった。つまり動作周波数の向上とThread Directorで、この性能を稼いだということになる。
メモリ回りに関しては、1DPCでDDR5-5600まで、2DPCでDDR5-4400までという数字が今回示された。またL2の大容量化に伴い、L3のアクセスが従来のNon-inclusiveのみからInclusive/Non-Inclusiveを動的に切り替えられるようになったそうだ(Photo07)。
Photo07: Alder Lakeは最大構成で14MB L2/30MB L3でまだ1:2程度の比率だったが、Raptor Lakeは30MB L2/36MB L3とちょっとバランスがおかしくなっている。
さてその性能であるが、Gaming Performance(Photo08,09)でも相応の伸びが見られるし、もう少しCPU性能が結果に直結しやすいContents Creationでもそれなりに伸びがあるのが判る(Photo10)。特にVideo WorkflowとかGame Developmentなどでは、その効果が大きいとする(Photo11)。
Photo08: ゲームの場合、CPUの性能向上率とフレームレート向上率は必ずしも連携しないことを考えると、結構大きな伸びであると言える。
Photo09: こちらはRyzen 9 5950Xとの比較。さて、Ryzen 9 7950Xとだとどんな感じになるだろう?
Photo10: 数字はRyzen 9 5950Xとの比較であって、Core i9-12900Kとの差はそこまで大きくは無い。
Photo11: こちらはCore i9-12900K比。
性能という観点でもう一つスライドをご紹介すると、Core i9-12900Kの241W(PL2での動作状況)をベースラインとした場合、Core i9-13900KはTDP 65W動作で同等の性能、115Wで21% up、241Wで37% up、253Wで41% upとされている(Photo12)。要するにプロセスの小変更で、だいぶ性能/消費電力比が向上したという訳だ。だったらもっと消費電力を抑えて使いたいと思う向きもあるだろう。これに関しては"Configurable TDPの設定で低く抑える事は可能"という返答であった。
Photo12: これを見ると、一番効率が良いのは65Wで動かした場合になる訳だが、実際の環境では253Wまで上がることになる。
○Intel Z790チップセットは何が違う?
続いてチップセットの話を。今回Raptor Lakeの発表に合わせて、Intel Z790チップセットも発表になった(Photo13)。実際会場にも、11枚ほどZ790搭載マザーボードが展示されていた(Photo14〜24)。Raptor LakeはAlder Lakeと互換性がある事が既に発表されており、なのでZ790マザーボードではなくZ690マザーボードでも(BIOS Updateさえすれば)Raptor Lakeが利用できる事になる。ではZ790マザーボードはZ690マザーボードと何が違うか? を確認したところ
USBポートの数が増え、USB 3.2 Gen 2x2ポートも追加になった。
PCHから出るPCIe Gen4のレーンがx20になった。これは600シリーズのx12から8レーン増えている。他にPCIe Gen3レーンがx8用意される。
Discrete Intel Thunderbolt 4をサポート
の3点という話だった。ただDiscrete Thunderbolt 4をサポートする位なら、いっそチップセットにThunderbolt 4を入れてしまえばいいのでは? と確認したところ、「いやそれはコストが上がるからDiscreteの方が良い、と顧客(=マザーボードベンダー)が主張するから」という返事であった。
Photo13: まだ統合するWi-Fiは6Eまでか? と確認したらその通りとの事で、7の統合はまだ当分先の様だ。まぁ規格も定まっていないのに統合する訳にもいかないのだろう。
Photo14: ASRock Z790 LiveMixer
Photo15: ASRock Z790 Steel Legend WiFi
Photo16: ASRock Z790 Pro RS
Photo17: ASUS ROG STRIX Z790-E Gaming WiFi
Photo18: ASUS TUF Gaming Z790-PLUS WiFi D4
Photo19: ASUS ROG Maximus Z970 Extreme
Photo20: GIGABYTE Z790 AERO G
Photo21: GIGABYTE Z790 AORUS MASTER
Photo22: GIGABYTE Z790 AOROS ELITE AX
Photo23: MSI MPG Z790 Edge WiFi DDR4
Photo24: MSI MPG Z790 Carbon WiFi
ところで以前こちらのスライドで、液体窒素などを使うと8GHzまで到達するという話がちらっと出て来た。この8GHzという数字は改めて主張された(Photo25)が、実は今回IDC(Israel Design Center)内のLabで、8.2GHzの動作を行っている事を確認してきた。Labの中は撮影禁止ということで証明する方法を持たないのがちょっと残念ではあるのだが。
Photo25: LN2を使ってのOCをメーカーが主張するようになった、というのは個人的にはそれなりに驚くことである。
まぁそうした極端な動作はともかくとして、Speed OptimizerやExtreme Tuning Utilityは相変わらず健在であり(Photo26)、6GHz駆動のデモも行われた(Photo27)。今回Intel Innovationでは6GHz動作品を来年投入すると説明された(Photo28)が、動作デモを見る限りはそう難しくはないだろう。
Photo26: どちらもおなじみのものだが、ちゃんとE-Coreが16コアあるRaptor Lakeに対応したものが用意される。
Photo27: Extreme Tuning Utilityの動作デモ。P-Coreが6GHz、E-Coreが4.3GHz動作している。
Photo28: これはかつてのCore i9-9900KSの様なものであろう。消費電力は凄そうだが。
最後に製品ラインナップについて。今回発表されたのはDesktopの、それもTDP 125W(=PL1)の製品のみだが、今後は35/65WのSKUと、またMobile向けも今年中に発表されるであろうことが既に明らかになっている(Photo29)。今回発表の6製品のスペックはこちら(Photo30)で、既にIntel Arkでも公開されている。
Photo29: Mobile向け製品の投入時期はこちらのスライドを見る限り、今年中であると判断できる。
Photo30:こちらはIntelのプレスリリースより。