1969年(82分)/東宝/2750円(税込)

 近年の韓国映画を観ていて、羨ましく思うことがある。

 それは、大きく構えた作りでなくとも、ピリッとアイデアが効いていて、しかもアクションやサスペンスの面白さが「当然のこと」として盛り込まれた娯楽映画が、次から次へと生み出されている点だ。日本映画は作家・文芸系の映画でそれなりの作品が出てくるようになったが、残念ながら実写の娯楽映画で目を見張るようなのがあまりない。

 自分が生まれる前の日本映画が魅力的なのは、まさにそこだ。映画史に残るような名作・大作でなくとも、「こんな小作品でも、こんなに凝ったアイデアが盛り込まれ、こんなに面白いんだ」と感心する作品に数多く出会える。

 今回取り上げる『死ぬにはまだ早い』もまた、そんな一本。前に本連載でも取り上げた『白昼の襲撃』『豹(ジャガー)は走った』『ヘアピン・サーカス』といった、ハードボイルドな名作アクション映画を撮ってきた西村潔監督のデビュー作だ。

 本作でまず目を引くのは、その設定だ。不倫カップル(高橋幸治、緑魔子)が夜のドライブの途中、バー風のドライブインに立ち寄るところから物語は始まる。店内には彼らの他にも客がいた。

 そこに一人の若者(黒沢年男)が現れ、職務質問に来た警官を射殺。ドライブインは警官隊に囲まれる。男は、この店に現れることになっている、恋人をたらし込んだ相手を探していた。それが誰かは男も観客も分からない。

 限られた空間だけで展開される、一晩の群像劇。この設定だけでも、いかにも面白くなりそうな設定といえるが、もちろんそれだけではない。

 徹底して抑制の効いた西村のソリッドな演出と、今にも暴発しそうな黒沢のピリピリした演技、そして彼が命を狙う相手をめぐるミステリー――。これらの要素が見事に絡み合い、作品全体を緊迫したサスペンスが貫いている。

 特に西村の演出が秀逸だ。店の外を見せない構成が、緊張感を途切れさせない。BGMはほぼないのだが、それが人間の息遣いを生々しく伝え、時おり店内に流れるジュークボックスからの爆音の流行歌が刺激を与える。

 加えて、人物の動きの緩急、個々の感情のグラデーション、その変化に合わせて動きが大きくなるカメラワークにより迫力が増幅。物語展開も、狂気の加速する怒濤の終盤から、ラストの皮肉などんでん返しに至るまで、完璧だ。派手なことをしなくとも、細部まで工夫を凝らせば、刺激的な娯楽たりうるのだ。

 こうした小粒でも充実した娯楽映画をサラッと出せるかどうかに、映画界の体力の違いが出てくる気がする。

(春日 太一/週刊文春 2022年9月29日号)