久保はソシエダで熾烈なポジション争い
今夏のプレシーズンでは様々なクラブが2年間自粛していた海外遠征を実施し、コロナ禍前のような日常が戻ってきたなか、ラ・リーガの2022−23シーズンが開幕する。
久保建英の完全移籍によりとくに日本で注目されるレアル・ソシエダは、昨季のリーガを6位で終え、ヨーロッパリーグ(EL)出場権を確保している。今季はさらなる高みを目指し、チャンピオンズリーグ(CL)出場に向けた戦いに挑むことになる。
今夏、18歳のモハメド=アリ・チョー(フランス)、ブライス・メンデス(スペイン)、久保を計3100万ユーロ(約43億4000万円)で獲得。さらにマルティン・メルケランス(スペイン)がレンタルから戻り、Bチームから5人が昇格している。
チームを率いるのは、レアル・ソシエダ監督として5季目を迎えるイマノル・アルグアシル。2018−19シーズン途中から暫定監督を務め、翌年正式に監督に就任するとチームを33年ぶり3回目の国王杯優勝に導き、3季連続でEL出場権を獲得した。その手腕は高く評価されている。
チームの特徴は、堅固な守備をベースとしたポゼッションサッカー。GKアレックス・レミロ(スペイン)やリーガ最高峰のセンターバック(CB)との呼び声が高いロビン・ル・ノルマン(フランス)を中心に、昨季のリーガ総失点は37と、20チーム中4番目の好成績だった。またイエローカード数は最少と非常にクリーンなチームである。
一方、攻撃陣に多数のタレントを抱えながらも、エースのミケル・オヤルサバル(スペイン)のケガが大きく響き、総得点はリーガ11番目の40と物足りなさがあった。
イマノル監督はプレシーズンで4−3−3と中盤ダイヤモンド型の4−4−2を併用し、様々な組み合わせをテストした。その成績は6試合2勝1分3敗、5得点6失点と負け越し、昨季同様の得点力不足を露呈した。
合流が遅れた久保は4試合(先発2試合)、206分出場。新天地デビューとなったボルシアMG戦は4−4−2のトップ下、初先発のオサスナ戦は4−3−3の右ウイングと右インサイドハーフ、ボーンマス戦は4−3−3の右インサイドハーフ、アスレティック・ビルバオ戦は4−3−3の右ウイングでプレー。
得点、アシスト共になかったものの、GKとの1対1のチャンスや、あと一歩でゴールという惜しいシュートを放つなど、随所で持ち味を発揮し、現地紙は概ねポジティブな評価をしていた。
久保はシーズンを通じて、例えばトップ下ならダビド・シルバ(スペイン)、右ウイングならブライス・メンデス、右インサイドハーフならミケル・メリーノ(スペイン)といったように、2季前のビジャレアル時代同様、経験豊富な選手たちと熾烈なポジション争いを強いられることになる。
しかし今季はリーガ、EL、国王杯の3大会を戦うため、出場機会が多くなると予想され、本人が望む成長の助けにもなるはずだ。
クラブ史上初の6冠に挑むレアル・マドリード
レアル・マドリードは昨季、7季ぶりに監督復帰したカルロ・アンチェロッティ指揮下でCL、リーガ、スペイン・スーパーカップの3冠を達成。今季の目標はクラブ史上初の6冠にほかならない。
今夏、パリ・サンジェルマンFWのキリアン・エムバペ(フランス)獲得には失敗したが、CBや左サイドバック(SB)でプレーできるアントニオ・リュディガー(ドイツ)をフリー、カゼミーロ(ブラジル)のバックアップとして期待されるオーレリアン・チュアメニ(フランス)をクラブ史上4番目の移籍金8000万ユーロ(約112億円)+出来高ボーナス2000万ユーロ(約28億円)で補強し、戦力の上積みに成功している。
7月8日からプレシーズンを開始。その後に実施したアメリカツアーの成績は1勝1分1敗4得点3失点。初戦のバルセロナとのクラシコは0−1で敗れたが、カリム・ベンゼマ(フランス)合流以降、調子を上げ、昨季のCL決勝リバプール戦と同じスタメンで臨んだ3試合目のユベントス戦は2−0で快勝した。
また、鎌田大地や長谷部誠を擁する昨季のEL王者フランクフルトとのUEFAスーパーカップにも2−0で勝利し、順調な仕上がりを見せている。
今季のレギュラーのベースは昨季のCL決勝と同じで、システムはいつもどおりの4−3−3。右ウイングのみ、フェデリコ・バルベルデ(ウルグアイ)、ロドリゴ(ブラジル)、マルコ・アセンシオ(スペイン)と選択肢が多数ある。
注目は昨季のCLとリーガで得点王に輝き、バロンドールの最有力候補に挙がるベンゼマと、得点力を大幅に向上させたヴィニシウス(ブラジル)。チームが今季も成功を収める上で、この2人の活躍は欠かせないだろう。
唯一の不安材料はこれまで同様、ベンゼマのバックアップだ。アンチェロッティはこの問題に対し、エデン・アザール(ベルギー)の‟偽9番起用"をプレシーズンでテストした。アザールは今年3月に足首のプレート除去手術を受け、長年の痛みから解放されて復活を誓っている。
バルセロナ注目の新トリデンテ
昨季のリーガを2位で終え、CLではグループステージ敗退と大失態を犯したシャビ・エルナンデス政権2季目のバルセロナは、クラブの威信をかけ大幅補強を敢行した。
これまでフランク・ケシエ(コートジボワール)、アンドレアス・クリステンセン(デンマーク)をフリー、ラフィーニャ(ブラジル)、ロベルト・レバンドフスキ(ポーランド)、ジュール・クンデ(フランス)を合計1億5300万ユーロ(約214億2000万円)で獲得した。さらにウスマン・デンベレ(フランス)の残留に成功し、チェルシーDFマルコス・アロンソ(スペイン)との契約間近という報道も出ており、復活に向けて並々ならぬ意気込みが感じられる。
しかし多額の借金やサラリーキャップといった問題がいまだ山積みで、新たに補強した選手を開幕直前まで登録できていない。回避策として選手に給与カットを迫り、テレビ放映権の25%(25年間)と子会社の25%を売却した。ここまでオスカル・ミンゲサやリキ・プッチ(共にスペイン)などを移籍させたが、人員過多の状況は変わらず、さらなる放出が必要である。
プレシーズンを7月4日にスタートし、アメリカツアーを実施した。プレシーズン全6試合の成績は4勝2分0敗18得点3失点。1試合平均3得点と高い得点力を発揮し、手応えをつかんでいた。とくにリーガ開幕前最後のテストマッチとなったジョアン・ガンペール杯プーマス戦では、レバンドフスキ、ペドリ、デンベレ、ラフィーニャらがすばらしい共演を見せ6−0で大勝し、13日のラージョ・バジェカーノ戦に向けてサポーターの期待感を高める結果となった。
ラージョ戦に向けたスタメンでは、デンベレ、レバンドフスキ、ラフィーニャの新たなトリデンテ(三又の鉾)に注目が集まりそうだ。さらにアンス・ファティ(スペイン)やピエール=エメリク・オーバメヤン(ガボン)なども控えており、世界屈指の攻撃陣と言える。
中盤はワールドカップで日本の脅威になり得るガビ、セルヒオ・ブスケツ、ペドリのスペイン代表勢で形成される。DFではジェラール・ピケ(スペイン)が控えに回る可能性が高く、クリステンセンやクンデがスタメン入りしそうだ。またロナルド・アラウホ(ウルグアイ)が右SBで起用される可能性がある。
プレシーズン好調のアトテレィコ
ほかに今季注目すべきチームを挙げるとしたら、まずは昨季3位のアトレティコ・マドリードだろう。ルイス・スアレス(ウルグアイ)が退団した一方、ナウエル・モリーナ(アルゼンチン)やアクセル・ヴィツェル(ベルギー)を補強し、アルバロ・モラタ(スペイン)がレンタルから復帰。ユベントス、マンチェスター・ユナイテッドなどとのプレシーズン4試合すべてに勝ち、13得点1失点と調子のよさをアピールした。2季ぶりの優勝を目指すことになる。
大きな補強はないが、プレシーズンで好印象を与えていたのが昨季8位のアスレティック・ビルバオ。エルネスト・バルベルデ監督を再々招聘し、チームの信条である激しいプレーが健在であることをレアル・ソシエダ戦などで証明した。守備の要イニゴ・マルティネス(スペイン)にバルセロナ行きの可能性があり不安視されるが、EL出場を視野に入れた戦いに注目したい。
昨季15位のヘタフェはマジョラル(スペイン)を筆頭に6人を獲得し大幅に戦力を上げているが、さらに5〜6人の補強を目指しているという。このチーム作りが成功した場合、キケ・サンチェス・フローレス監督指揮の下、面白い存在になるかもしれない。
一方、不安視されるのは昨季4位のセビージャ。元レアル・マドリードのイスコ(スペイン)を獲得したが、昨季のリーガ最少失点の原動力となったクンデとジエゴ・カルロス(ブラジル)というCB2枚を同時に失ったのは大きな懸念材料である。
リーガ開幕は8月12日だが、移籍市場は9月1日に終了するため、各クラブともぎりぎりまでチーム強化に努めると予想される。11〜12月にはカタールW杯が開催されるため、今季のリーガは来年6月上旬までの長丁場となる。