そうすると、実際には、長時間の時間外労働を恒常的に労働者に行わせることを予定していたわけではないことを示す特段の事情が認められる場合はさておき、通常は、基本給のうちの一定額を月間80時間分相当の時間外労働に対する割増賃金とすることは、公序良俗に違反するものとして無効とすることが相当である。」
その結果、この手当は残業代の支払いとしては認められなくなりますので、会社としては、この手当も含めた金額を残業単価として計算し直したうえで、未払分を払う義務を負うことになります。
サイバーエージェントの採用条件は、働き方改革法が成立してから4年も経った時点で発表されているものですが、80時間分もの残業代を含むという固定残業代の定め方は、働き方改革を推進していこうという時代の流れに逆行していると言わざるを得ません。
●そもそも裁量労働制が適用されるのか?
他にも、採用条件の中には「職種、能力などに応じて2年目以降裁量労働制を適用」という記載がありますが、これにも問題があります。
裁量労働制とは、高度な専門性が求められる業務等に従事する従業員に対し、労使協定の締結等を条件に、実際には何時間働こうとも事前に決められた時間分働いたとみなすという制度です。
いったん制度が適用されたとしても、実際には業務の進め方や時間配分の決め方などの面で、従業員に具体的な指示がされてしまっているという場合には、裁量労働制を適用することはできません。裁判例の中には、裁量労働制が濫用されているとして、適用を認めなかった事例がいくつも存在します。
サイバーエージェントでは、入社2年目から裁量労働制を導入することがあるとのことですが、果たして本当に、新卒で入社したばかりの入社2年目の社員に、高度な専門性・裁量が与えられているのでしょうか。この点にも疑問が残ります。
(笠置裕亮弁護士の連載コラム「知っておいて損はない!労働豆知識」では、笠置弁護士の元に寄せられる労働相談などから、働くすべての人に知っておいてもらいたい知識、いざというときに役立つ情報をお届けします。)
●サイバーエージェント「恒常的に月間80時間の時間外労働を行わせるという趣旨のものではございません」
【追記】サイバーエージェント広報室は以下のように回答した。(8月9日20時30分追記)
「まず大前提として、当社では法令順守のもと社員の勤務時間管理を行っております。 当然ながら長時間労働を奨励するものでもなく、恒常的に月間80時間の時間外労働を行わせるという趣旨のものではございません。
そしてなぜ固定残業代80時間/月を含む給与としているのかという点について、当社事業の特性上、年間を通し、社員はその日・月ごとに業務量・時間に波がある状況です。例えば新規サービス・ゲームのリリース前、また広告事業におけるコンペの前などに対応できるよう、このような給与体系にしております」
【取材協力弁護士】
笠置 裕亮(かさぎ・ゆうすけ)弁護士
開成高校、東京大学法学部、東京大学法科大学院卒。日本労働弁護団本部事務局次長、同常任幹事。民事・刑事・家事事件に加え、働く人の権利を守るための取り組みを行っている。共著に「新労働相談実践マニュアル」「働く人のための労働時間マニュアルVer.2」(日本労働弁護団)などの他、単著にて多数の論文を執筆。
事務所名:横浜法律事務所
事務所URL:https://yokohamalawoffice.com/