左から、Sean Bonner氏、スプツニ子!氏、Kawaii SKULL氏

■「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2022 web3 Summer Gathering @Tokyo〜未来からのテクノロジーの波をサーフしろ〜」の全体紹介記事はこちら!

  NFT市場がゲームやアートの分野で活性化し始めている。NFTやオープンメタバースが展開されるブロックチェーンの世界は「web3」と呼ばれる。これはアーティストにとって、また日本文化にとって、どのような転換点になり得るのだろうか。6月14日に都内で開催されたデジタルガレージのグローバル・カンファレンス「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2022 web3 Summer Gathering @Tokyo〜未来からのテクノロジーの波をサーフしろ〜」に登壇したアーティストたちの声を紹介する。

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web3で起こる転換が、アートにとって重要な理由

 トークンとはブロックチェーン上の資産の総称だが、ビットコインやイーサリアムなどの暗号資産は代替可能なトークン、NFT(Non-Fungible Token)は非代替性トークンと呼ばれる。NFTは替えがきかない、唯一無二の価値を持つ資産であるということだ。

 NFTはよく「世界に1つしかないTシャツ」に例えられる。これまでのクローズドなメタバースの世界では、Tシャツは購入した店舗内でしか着られなかった。そのTシャツをどこにでも着て行けるようになるのが、オープンメタバースであり、web3の世界だ。ブロックチェーンがシームレスにつながり、Tシャツ、つまりNFTが所有者のものであることを、どこででも証明できるようになる。

 もう1つのNFTの重要な側面は、これまで中央集権的だった所有権の在り方を根本的に変えるということだ。ブロックチェーンは、主となる管理者が存在しない自立分散型のシステムであり、これまでGAFAのような企業が展開していたプラットフォームを介さずとも、価値を取引することを可能にする。このことは投機的なチャンスや、アーティストの権益保護になるだけでなく、全ての参加者に自由と権利を与える。

 web3が、アーティストにとって、また日本の文化にとって、どのような転換点になるのだろうか。「THE NEW CONTEXT CONFERENCE 2022 web3 Summer Gathering @Tokyo〜未来からのテクノロジーの波をサーフしろ〜」のセッション2で行われた、「NFTの真の価値と未来のアーティスト」と題した2組のパネルディスカッションから、探っていきたい。

自由で全ての人に開かれたNFTコミュニティー

 パネルディスカッションの1組目には、テクノロジーによって変化していく人間の在り方や社会を反映させた作品を制作するスプツニ子!氏、NFTコレクション『Kawaii SKULL』制作者のKawaii SKULL氏が登壇。

 モデレーターを務める、web3アドバイザーでありストリートフォトグラファーとしても活躍するSean Bonner氏は、コンピューターを介したジェネラティブが自分の作品にどう影響を与えるか、自身の実験も踏まえながら「web3でアートのつくり方が変わり、アーティストにとって革新的な時代が来る」と述べた。

 スプツニ子!氏は、テクノロジーやジェンダーをテーマとして映像やインスタレーションを制作している。昨年はNFTオークションで、月面にハイヒールの足跡を残す映像作品「ムーンウォークマシン、セレナの一歩」が落札された。これについてスプツニ子!氏は「私の映像作品はデジタルなフォーマットであり、販売しにくい形態です。同じく動画やオンラインで活動するアーティストにとっても、NFTは全く新しい発見でした」と語った。

 さらにスプツニ子!氏は「現代アートの限定的、閉鎖的な世界に比べて、NFTのコミュニティーは多くの人が入りやすいオープンなものだと感じました。また、実験の価値を非常に高く認めている社会でもあり、とてもワクワクしています」とNFTの可能性を語る。スプツニ子!氏は今年、リアルな空間でNFTアートを展示するロンドンのBright Momentsに出品予定だが、その作品は100個のジェネラティブ作品であり、花のつぼみのような形状が40週間かけて少しずつ成長し変化していくものだという。「私が昨年、出産を経験したことでインスピレーションを受けたものです」とスプツニ子!氏は語る。

 Kawaii SKULL氏は大学で写真を学んでいたが、昨年、卒業に際してNFTで活動するアーティストの道を選んだ。その理由を「コロナ禍を機にデジタルが活性化するのを目にして、これからアートの世界にもデジタルの革命がくると感じた」と説明する。Kawaii SKULL氏は8月から12月にかけて1万点のNFTコレクション「Kawaii SKULL」を制作し、今年2月には完売となった。現在、約4150人が保有しており、日本のNFTコミュニティーとしては村上隆氏の「Murakami.Flowers」に次ぐ規模となる。

「私の作品はジェネラティブではなく、ハンドメイドのGIFアニメーションであること、また4カ月という作成期間のストーリー性が特徴です。今後はリアル店舗とのコラボレーションも企画しています。自分のアーティスト人生の中で成長させていきたいです」とKawaii SKULL氏は今後の展望を語った。

リアルとデジタルをマージする、web3におけるアーティストのポテンシャル

 パネルディスカッション2組目には、m-floなどで活躍するラッパーで、自身のファッションブランド「AMBLISH」も展開するVERBAL氏、株式会社Fictionera代表でミュージシャンでもある草野絵美氏が登壇した。

 モデレーターのJeason Ma氏は、web3クリエータープラットフォームであるOP3Nの共同創業者でもあるが、「NFTは暗号資産と文化が交差するものであり、web3におけるアーティストのポテンシャルは非常に高い」という見解を示し、VERBAL氏、草野氏がどのようにNFTに関わっていったかを掘り下げた。

 VERBAL氏はまず、NFTの有用性に驚いたという。2020年後半にJPEG作品を購入し、プロジェクトのコミュニティーに参加してメタバースにNFTを表示することができた、という自身の体験から「リアルとデジタルがマージする楽しさ」を実感し、これが参入のきっかけになったと語った。

 自身のジュエリーブランド「AMBUSH」のNFTコレクション「POW!」のキーワードは「コミュニティビルディング」だ。もともと「POW!」は、カスタムジュエリーとしてデザインし、仲間うちに配るうちに評判になり、世界的なブランドに成長したものだ。NFTとして最初につくった99個の「POW!ENERGON」はファッション界、音楽界の友人に配布(エアドロップ)し、次に一般向けに2022個の「POW!REBOOT」を発行。そして、今年の3月には「POW!GLOW IN THE DARK」を、自社で開発しているメタバースでゲームをクリアした人だけが発行できる形でリリース。いずれも数分のうちに完売している。

 このメタバースでは「AMBUSH」のNFTを持つ人が、買い物やライブストリーミングが楽しめる空間を実装中であり、VERBAL氏は「ここでクリエイターエコノミーを広げていきたい」と語る。

 草野氏は、コロナ禍で音楽イベントが開催できなくなっていた昨年4月、NFTに音楽ビデオを出品した。「その頃はまだ分からないことも多かったのですが、昨年の夏に、当時8歳の息子が『NFTに出品したい』と夏休みの自由研究にコレクションを制作し始めました。息子を手伝うことで、結果的に私もweb3の世界に入っていったのです」と振り返る

 草野氏の息子「Zombie Zoo Keeper」のプロジェクト「Zombie Zoo」は、ミュージシャンのスティーブ・アオキが購入したこと、FWB(Friends With Benefits)というDAO(Decentralized Autonomous Organization:ブロックチェーン上の自律分散型組織)で話題になったことから評判になり、最大4ETHで取引されるまでになった。今では日本で最も知られるNFTコレクションだ。「彼の250作品を使って、どんな世界をつくりたいか話し合い、いろいろなコラボレーションを実現させています」

 草野氏自身もこの経験から学び、親友でイラストデザイナーの大平彩華氏とともに「Shinsei Galverse(新星ギャルバース)」というNFTプロジェクトを始めた。「かっこいい女性が主役のSFアニメをつくる」という目的で、8888体のキャラクターを出品し、6時間で完売。世界最大のNFTマーケットプレイスであるOpen Seaで売り上げランキング1位を記録した。草野氏は「制作資金がそろったので、これからスタジオに掛け合い、アニメーションをつくっていきます」と今後を語った。

 2つのセッションで語ったアーティストに共通することは、「ワクワク感」ではないだろうか。新たな世界に対する感動が、アートだけでなく、さまざまなビジネスの原動力になるだろう。

筆者:会田 晶子