米海兵隊の高機動ロケットシステム発射訓練(6月8日、米海兵隊のサイトより)

 かつての朝鮮戦争(1950年)では、停戦ラインは最終的に38度線だった。なぜそうなったのか。理由は、戦闘の推移にあった。

 具体的には、朝鮮軍の南進、国連軍の反攻、中共・朝鮮軍の反攻・国連軍の押し戻し、そして一進一退の後の膠着の結果、両軍の動きが止まった。

 そこが、現在の38度線である。

 ロシア・ウクライナの戦争では、戦線が膠着するライン、つまり停戦ラインはどこになりそうなのか、そしてその時期はどうなるのか、注目するところである。

 この戦争を見ると、当初は一方的なロシア軍の侵攻だった。

 その後、ロシア軍の作戦失敗とウクライナ軍の攻勢により、ロシア軍がキーウとハルキウから国境付近まで押し返された。

 5月には、ロシア軍は押し返された戦力をウクライナ東部のドンバス地方に集中して猛攻撃をかけ、都市セベロドネツク全域の制圧を目指した。

 これに対するウクライナ軍は、相撲でいう徳俵で何とか持ち堪えているという状態だ。

 東部のドンバス地方を除くと、北のハルキウ正面や、南西部のヘルソン正面は、ウクライナ軍が、徐々にではあるが押し返している。

 ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、6月中旬には反攻すると発言していた。

 今、その時期になったのだが、これからどのような戦況予測になるのか、その後の両軍の攻防が停止するラインはどこになるのか、その時期はいつ頃なのかを考察する。

 考察にあたっては、

?現在のウクライナ軍の動きに関する情報

?ウクライナ軍の戦力増強状態

?これまでベールに包まれている兵器の狙い

?今後の戦況予測と両軍攻防の停止ラインの順で、解説する。

[JBpressの今日の記事(トップページ)へ]

1.ウクライナ軍の情報発信に隠された意図

 私は、ウクライナ軍参謀部の情報発信をほぼ毎日見ている。

 6月に入り、その数は減っている。情報分析の長年の経験上、情報の発信量の変化があれば、そこには、「何か異常なことがある前兆だ、あるいは意図が隠されている」と感じる。

 また、バイデン政権は「秘密主義」ゼレンスキーのせいで、ウクライナ軍の作戦や損失について情報を共有されていないことに不満を漏らしていると、米紙(6月14日)が報じている。

 ウクライナ政府は機密情報や作戦計画の詳細を米国側に伝えていないというのだ。

 ウクライナ政府関係者も米国にすべての情報を渡しているわけではないと認めている。

 これを受けてなのか、6月15日になって突然、ウクライナ軍兵站責任者は、次のように語った。

 戦車約400両、歩兵戦闘車約1300両、ミサイル発射システム約700基など、それぞれ最大で50%を失った。東部戦線では、1日の死傷者が約1000人(戦死者200〜500人)に上っている。

 ウクライナは、米国から要求されたからか、それとも何か意図があって、この情報を発信したのか。

 これまで、ウクライナに関する情報を提供しなかったにもかかわらず、米国の大型追加支援が発表されてから、ウクライナの被害の大きさを発表した裏には、何か意図があるとしか思えない。

 それは、ウクライナ軍がこれまで、本当に苦境に陥っていたことを秘匿していたか、あるいは、本格的な反攻をロシア軍に気づかれないように秘匿している、また、反攻ができないのだという偽編をやっているかのどちらかだろう。

 自国軍の情報を詳細に発信してしまえば、自国軍の意図・問題・弱点を暴露してしまう。だから、当然のことだろう。

 それにしても、ウクライナ軍の動向についての情報発信が少なくなった後、6月15日になって損害の大きさを改めて発表したことには、かなり違和感を覚える。

 これは、何かの前兆と見るのが妥当だろう。

 両軍が厳しい戦いをしているのは、東部のドンバス地域であって、キーウは稀にミサイル攻撃があるだけで概ね穏やかであ。

 ハルキウとヘルソン正面では、ウクライナ軍が攻勢に転じてはいるが、その速度は緩やかである。

 戦闘が劣勢になり苦境で情報発信ができないのではなく、何かを隠そうとする意図があると見た方がよいだろう。

 その意図とは、ウクライナ軍の本格的な反攻作戦の準備や企図を隠しているということだろう。

 ゼレンスキー大統領は、ウクライナは6月中旬頃から反攻に出ると発言していた。

 現状は、本格的な反攻を開始しているとみてよいのか。本格的反攻は、これからなのか。これからだとすれば、準備は進行中なのか。

2.現在は本格反攻作戦の態勢づくりか

 ウクライナ軍とロシア軍の戦況を見ていると、ウクライナ東部ドンバス地方、特に都市セベロドネツクに対して、ロシア軍は戦力を集中し、完全制圧に向け攻撃を強めている。

 ウクライナ軍も必死に抵抗し、阻止している。この地域の攻防は、ゼレンスキー大統領も言う通り、凄まじい戦いが展開されている。

 一方、ウクライナ北東部のハルキウ正面では、4月上旬頃から反攻し、5月上旬頃には、概ね奪回し、その後もウクライナ軍の攻勢が続き、両国の国境線付近まで押し返している。

 その後、両軍の一進一退が続いているものの、ウクライナ軍が東部地域を北から包囲するように行動するロシア軍に、さらにその北から圧力を加えている。

 南西部のヘルソン正面では、3月下旬頃から反攻を開始し、ロシア軍は防御用の簡易な壕を掘り、防御戦闘を行っているが、その進展速度は緩やかである。

 ロシア軍は、その正面の全域にわたり、徐々に後退しつつある。ヘルソンまであと20キロという情報もある。

 両軍の現在の全般状況を見ると、ウクライナ軍は、ロシア軍が総攻撃しているドンバス地域を何とか食い止めている。

 一方、ロシア軍が弱点を形成している占領地の両端を攻撃し、少しずつロシア軍を押し出している。

 今、ゼレンスキー大統領が言っていた6月中旬の反攻の時期になった。6月15〜16日のNATO(北大西洋条約機構)国防相会議で、各国による大型の支援が決定した。

 ウクライナ軍としては、ロシア軍に反攻を開始して、大きな損害を受けたとしても、その後の、復旧のために軍事支援は取り付けた。

 ロシア軍の東部からの中央突破の継続が功を奏するのか、ウクライナ軍による反攻、特に両端の攻撃が功を奏するのか、現在は、ちょうどその境目にあるようだ。

3.攻撃型兵器の供与が始まった

 ゼレンスキー大統領は、6月中旬には本格的な反撃を行うと言っていた。

 両軍の戦いを見ている限りは、ウクライナ軍が攻勢に出ている正面はあるが、本格的な反撃を行っているようには見えない。

 NATOは、ウクライナ軍に各種兵器を与えてきた。

 戦争当初は、ロシアの戦車軍団や戦闘機の攻撃を防ぐために、対戦車ミサイルとロケット、携帯対空ミサイル、自爆型無人機を提供した。

 4月上旬頃から、損失が多かった戦車を補強するために、米国は同盟国からウクライナへ旧ソ連製の戦車の供与を支援すると表明した。

 4月下旬には、米国から、ロシア軍の砲兵部隊を攻撃できる長射程榴弾砲90門と誘導砲弾(18万発)、戦車・装甲車を攻撃できるスイッチブレードなど自爆型無人機700機が供給されることになった。

 また、ドイツからは防空用の対空機関砲搭載ゲパルト戦車が、フランスやオランダから榴弾砲が供与されることになった。

 これらの兵器は、主に戦場で攻撃に使用されるが、長射程砲の誘導砲弾や自爆型無人機「スイッチブレード600」は、攻撃を妨害する砲兵部隊、攻撃を阻止する予備部隊、これらを統制する指揮通信所を破壊できる。

 同時期に、米国から「M113」装甲車約200両、装甲強化型車両数百両、ポーランドから戦車200両以上、装甲歩兵戦闘車、自走砲など、英国やオランダから多数の装甲車が供与された。

 これらは、攻勢作戦時に移動しながら攻撃ができる兵器だ。

 供与されてから戦場で使用できるように訓練が行われ、訓練期間の3週間が過ぎた。

 これらの兵器は、5月頃までは、主にロシア軍の攻撃を止めるために使用され、徐々に北東部と南西部の攻勢に転じて使用されているようだ。

 とはいえ、また、戦況を大きく変えてはいない。

4.攻撃型兵器を集めた軍に変貌中

 6月14日には、米国から提供された数台の長射程多連装ロケット「ハイマース」数門(数が少ない)、長射程榴弾砲90門の訓練が終了し、逐次、戦場に投入されている。

 自爆型無人機スイッチブレードの使用も慣れてきている。

 ロシア軍は、兵器の大量損失が多い。それに比べてウクライナ軍は、大量とまでは言えないし、逐次増強されている。

 攻勢作戦に使える兵器も増加し、訓練も行き届いてきた。これからは、反攻計画に基づき、増加された兵器を各正面に配分し、攻勢作戦を本格的に始めるだろう。

 これまでの兵器をいかに組織的・効果的に使用するかで、反撃の成果が出る。より多くの成果が出始めるのは、これからであろう。

 正面ごとの作戦において、東部のドンバス地方では、ロシア軍が戦力を集中させて攻撃していることから、ウクライナ軍は、しばらくは阻止することに集中する。

 ロシア軍の弱点である北部のハルキウ正面と南西部のヘルソン正面に攻撃を集中して、ロシア軍の両翼への攻撃を進めるであろう。

 ハルキウ正面は、ドンバスの北からの包囲網となっているイジュームを攻略すること、ヘルソン正面は、ヘルソンを奪還し、その後は、ドニエプル川を渡河して、クリミア半島とマリウポリ方向への攻撃を進めるであろう。

5.攻撃用兵器はロシア兵器を破壊できるか

 ジャベリンなどの携帯型対戦車兵器は、兵士が肩に背負って、戦車に向けてミサイル・ロケットを発射する兵器だ。

 主に、敵と対峙している第一線の戦いに使用される。

 携帯地対空ミサイルは、第一線部隊の兵士を敵の戦闘機による攻撃から守るもので、防御的兵器である。

 5〜6月までに供与された兵器、6月以降にさらに増加される兵器は、長距離火砲、遠距離の自爆型無人機、長射程多連装ロケット「ハイマース」である。

 これは、友軍の戦車・歩兵戦闘車・装甲車の部隊が攻撃前進するときに、それらを妨害する敵の第一線部隊から遠く離れた火砲、防空兵器、指揮通信部隊、予備部隊を攻撃して、抵抗できなくするものだ。

 つまり、攻勢に出る場合には、必須の兵器である。

 旧東欧諸国から供与された戦車や歩兵戦闘車などと同一行動をとり、協同して戦う米国の装甲車、装甲強化型車両ハンビー、移動しつつ第一線部隊の防空戦闘を行うゲパルト対空戦車などは、攻撃行動に絶対に必要な兵器である。

 これらが供与されたということは、ウクライナ軍が攻勢に出て、ロシア軍を撃破し、ロシア領土に後退させることが可能となったということだ。

 攻撃の主な目標は、ロシア軍の火砲と多連装砲、次に戦車や装甲車などだ。

 火砲などを15%叩けば約50%の損耗率に達する。戦車や装甲車を10%叩けば、約40%の損耗率に達する。

 第一線部隊が40%、戦闘支援部隊(火砲部隊)が50%の損耗率になれば、通常であれば戦えなくなり、やむを得ず応急陣地を離脱して後退するであろう。

ロシア軍侵攻3か月後のロシア軍の損耗率と今後の損耗率予測

出典:ミリタリー・バランス、ウクライナ軍参謀部の資料を参考に、筆者が作成

6.現状維持か後退か、ロシア軍最終接触戦は

 ロシアとウクライナ軍の戦闘の行きつく先はどこになるのか。最終接触線は以下の4つが考えられる。この線が、一時的な停戦ラインとなるだろう。

予想される最終接触線(一時的な停戦ライン)

出典:筆者作成  ?は、国境線なので省略した

?現在(6月20日)の両軍の接触線

 ウクライナ軍が大反攻できない場合、またロシア軍の攻撃衝力(攻撃前進の勢い)が尽きて、これ以上攻撃前進ができない場合は、現在の接触線で戦線が膠着する。

 ロシア軍の攻撃衝力は、東部戦線の攻撃、特にセベロドネツクの完全制圧で尽きてしまうだろう。

 その理由は、ロシア軍の損耗率が、戦車・装甲車などが約30%、火砲が30%を超え、戦死者数が3万人を超えていること、さらに、兵士の士気が落ちていることから、これ以上、攻撃前進を継続することは無理であると考えられるからである。

?ウクライナ軍がハルキウ州とへルソン州の全域を奪回する線

 ウクライナ軍が反攻によりへルソン州とハルキウ州を奪回し、両軍の接触線で戦線が膠着する。

 ウクライナ軍のこれまで米欧諸国などから供与された兵器は、兵士の訓練を終えて戦線に出てくるだろう。

 ウクライナ軍がこれらの兵器を使用すれば、ロシア軍の砲兵部隊を攻撃して、投入した火砲の約50%あるいはそれ以上破壊できるだろう。

 ハルキウとへルソン正面のロシア軍は、現在でも押され気味であることから、守り切れず、ウクライナ軍の攻撃が進展する可能性が高い。

?ウクライナ軍が、?の他に、ザポリージャ州とクリミア半島を奪回する線

 クリミア半島は、ウクライナにとって、海上交通路を確保するために必須の領土である。奪回しなければ、ウクライナの生命線を守れない。

 クリミア半島奪回作戦は可能なのか。ロシア軍の抵抗が少なく、ウクライナ軍の攻勢が?のケースよりも進展が早い場合は、ザポリージャ州やクリミア半島まで奪回できる可能性がある。

 クリミア半島を守るロシア軍は、他の領土と異なり陸続きではないので、孤立する可能性がある。海軍基地と艦艇を破壊すれば、奪回の可能性は高い。

 4月下旬に米国が供与を決定した兵器の中で詳細が不明な兵器が2種類ある。

 一つは、新型ドローン「フェニックス・ゴースト」だ。121機以上提供されている。

 飛行時間が6時間以上(巡航速度が時速100キロ以上なので600キロ飛行可能か)、GPS誘導で、夜間も飛行可能である。

 この兵器は、写真も公開されず、秘密のベールに包まれている。米国は、ロシア国内を攻撃できる兵器は、ウクライナに提供しない方針であるはずだが、これは、オデッサからクリミア半島のセバストポリ海軍基地を攻撃できる。

 もう一つが、遠隔操縦が可能な無人水上艦だ。

 沿岸防御用とされているが、対水上・対潜水艦・対機雷戦が可能な各種兵器を備えている。写真も含め詳細が全く不明である。黒海内で水上艦や潜水艦を攻撃できる。

?ウクライナとロシアの国境線

 ウクライナ軍がドンバス地方を奪回することは難しい。

 ドンバス地方ではロシア人の勢力が強く、ロシア軍の残りの兵力をかき集めれば、ロシア軍がこの地域の防御は可能であろう。

 ウクライナ軍がこの地を攻撃すれば、多くの犠牲を強いられる。

 ウクライナはこの地を、奪回したい願望があることは当然のことだ。だが、ウクライナにとって、今、多くの犠牲を払って、時間をかけて奪回するほどの戦略的価値があるかというと、答えを出すのは難しい。

7.一時停戦ラインはどこか

 米欧諸国は「この戦いは長期戦になる、消耗戦になる」といった見方をしている。

 ウクライナ軍が本格的な反攻作戦を実施すれば、ロシア軍はハルキウ正面とへルソン正面を死守することはしないで、後退する可能性がある。

 反攻する時期は、やや遅れて、多連装砲の「ハイマース」が前線に届く6月末になるかもしれない。

 反攻を開始さえすれば、ロシア軍の砲兵部隊を上手く叩くことで、戦闘の進展は早いだろう。ロシア軍の士気が低いことも併せてそうなる可能性が高い。

 7月の終わりから、遅くとも8月頃には、一時停戦ラインが見えてくるのではないだろうか。

 最も可能性が高いのは、?のラインだろう。

 ウクライナ軍の作戦が上手くいけば、?まで進むことができる。

 ロシアは、米欧の経済制裁では、ロシア経済を崩壊させることはできないと強気だが、戦線が膠着して動かなくなれば、停戦交渉に臨まなければならなくなる。

 長引けば、ロシアにとっても不利になるからだ。

 ロシア軍に対して無理に攻撃を命じても、ロシア軍は動かないだろう。プーチンも、どこかで終わりにしたいはずだ。

 ロシアにとっては、現在の接触線を固定することが、領土的には最も有利なのだが、プーチンの面子が立たない。

 ウクライナは、これまで犠牲を払って戦ってきたので、現在の接触線で終わるわけにはいかない。できる限り、国境線まで近づきたいのだ。できればクリミア半島も奪回したいところだ。

 ここで奪回しなければ、永久に国境線が固まってしまい、今後取り返すことはできないだろう。

筆者:西村 金一