パリ・オペラ座による4つのジェローム・ロビンズ作品をスクリーンで~ミュージカルファンにもオススメ

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パリ・オペラ座バレエ シネマ『ジェローム・ロビンズ・トリビュート』が、2022年6月24日から全国で上映中だ。ジェローム・ロビンス(1918年10月11日 - 1998年7月29日)はニューヨーク・シティ・バレエ(NYCB)のダンサーにして振付家、そして映画監督であり演出家。世間一般的には『ウエストサイド物語』『王様と私』『屋根の上のヴァイオリン弾き』などの振付家と語った方が通りがいいかもしれない。いずれにしてもアメリカをはじめ、バレエやミュージカルを含めた世界のダンスシーンを語るうえでは欠かすことのできない人物だ。

今回のパリ・オペラ座バレエ シネマ『ジェローム・ロビンズ・トリビュート』は、2018年10月、ロビンス生誕100年を記念してパリ・オペラ座ガルニエ宮で行われた公演の上映である。この時、パリ・オペラ座バレエ団は、ロビンスの代表的な4作品を取り上げた。ロビンスが拠点としたNYCBは、肉体からほとばしり出る圧倒的なエネルギー&パワーが特徴。その作品がパリ・オペラ座にかかるとエレガントさ、優雅さをともなって醸され、その対比は実に興味深い。さらにカール・パケットやステファン・ビュリョン、ユーゴ・マルシャンら、パリ・オペラ座の誇る名ダンサーらの魅力も大スクリーンで目にすることのできる、絶好の機会だ。またミュージカルファンにもぜひ、「ジェローム・ロビンス」やその作品を知るうえでも、足を運んでいただきたい。

【動画】パリ・オペラ座バレエ シネマ『ジェローム・ロビンズ・トリビュート』日本劇場予告編


■ロビンスとバーンスタインの出世作『ファンシー・フリー』

『ファンシー・フリー』の初演は1944年、メトロポリタン歌劇場。当時25歳のロビンスと、まだ無名だった音楽家、レナード・バーンスタインが世に名をとどろかすきっかけとなった作品である。海兵たちの1日の休暇の一コマをテーマに、ジャズ、社交ダンスを盛り込んだ寸劇風の作品は大人気を博し、のち『オン・ザ・タウン』としてブロードウェイミュージカルに。さらにはジーン・ケリーやフランク・シナトラが出演した映画『踊る大紐育』の邦題のもと、日本でも大人気となった。

3人の海兵を踊るのは、今は引退したパケットやビュリオン、先日エトワールに昇進したフランソワ・アリュ。バーを訪れ2人の女性たちを巡って喧嘩になるが女性たちに愛想をつかされ……という、コメディタッチのストーリーだ。おそらくアメリカ人が演じれば大きなアクションにドタバタという、分かりやすいコメディになるだろうなという作品も、パリ・オペラ座にかかるとキッチュで小洒落た味わいが加味される。


 

■バリシニコフに振り付けられた作品をエイマンが踊る『ダンス組曲』

名ダンサー ミハイル・バリシニコフのために振り付けられた作品で、初演は1994年。曲はバッハの無伴奏チェロ組曲から4曲が使われる。ダンサー一人とチェロ奏者一人で上演される、いわばダンサーと音楽家による対話であり、パ・ド・ドゥともいえる作品だ。

これを踊るのがパリ・オペラ座のエトワール、マチアス・エイマン。冒頭のインタビューで「振付をこなす以上に、作品のムードやフィーリングなどを表現することがより強く、求められている作品」と語るように、音楽が始まった瞬間、音楽に身を任せて踊るエイマンの姿は、しみじみと眺めながら頁を繰る画集、あるいは詩集のようでもあり、ひとえに絶品。至福のひとときと言える名演を、存分に堪能していただきたい。
 

■ダンサー同士、時には音楽も映し出す多面鏡の白昼夢『牧神の午後』

3作目は『牧神の午後』(1953年初演)。音楽はクロード・ドビュッシーで、ニジンスキーの作品が非常に有名だが、ロビンスは舞台をバレエスタジオに置き換えた。この作品を踊ったユーゴ・マルシャンは幕間のインタビューで、「ダンサーの日常の延長。作品の中では自分のナルシズムや欠点などと向き合う必要があり、最初は戸惑った」という。

「牧神」を踊るマルシャンに、それをときには冷ややかに、ときにはインスピレーションを与えるミューズの如し「ニンフ」がアマンディーヌ・アルビッソン。「二人の間には架空の鏡があり、お互いがお互いを映し合う。そしてダンサーは音楽をも映し出す鏡だ」(マルシャン)とも。まるで多面鏡のような世界のなかで繰り広げられる世界は、夢と現実が交差するような空気も漂い実にファンタジック。ひとときの白昼夢のような世界観にゆるりと身を置きたい。
 

■幾何学的世界の中にも醸されるパリ・オペラ座のエレガント

本公演の最後を飾るのはフィリップ・グラスの音楽に乗せた『グラス・ピーシズ』。初演は1983年5月12日、ニューヨーク・ステート・シアター。1991年にパリ・オペラ座のレパートリーに加わった。幾何学的なミニマルミュージックに白あるいは黒のどちらかに原色を合わせた衣装はマス目のような背景も伴ってか、繰り広げられる世界はモンドリアンの絵画を思わせられる。ダンサーは若手が中心で、ソリストを勤めるのはセウン・パク(現エトワール)、フロリアン・マニュネだ。縦横斜めに跳躍と、平面から3Dへと発展する世界を、やはりエレガントさを持って、パリ・オペラ座の若手たちが魅せる。伝統の味わいはバレエ団が培い、バレエ団の隅々まで浸透しているのだと、改めて思わせられる作品だ。

ロビンスは本拠地のNYCBとともに、パリ・オペラ座を第二の故郷と考えていたという。炸裂するパワーとエレガント。個性の異なる2つのバレエ団が自身の作品を表現することで生まれるその違いを、もしかしたら一番楽しんでいたのは当のロビンスかもしれない。趣異なる4作品を、ぜひこの機会に楽しんでいただきたい。

文=西原朋未