「牧神」を踊るマルシャンに、それをときには冷ややかに、ときにはインスピレーションを与えるミューズの如し「ニンフ」がアマンディーヌ・アルビッソン。「二人の間には架空の鏡があり、お互いがお互いを映し合う。そしてダンサーは音楽をも映し出す鏡だ」(マルシャン)とも。まるで多面鏡のような世界のなかで繰り広げられる世界は、夢と現実が交差するような空気も漂い実にファンタジック。ひとときの白昼夢のような世界観にゆるりと身を置きたい。
■幾何学的世界の中にも醸されるパリ・オペラ座のエレガント
本公演の最後を飾るのはフィリップ・グラスの音楽に乗せた『グラス・ピーシズ』。初演は1983年5月12日、ニューヨーク・ステート・シアター。1991年にパリ・オペラ座のレパートリーに加わった。幾何学的なミニマルミュージックに白あるいは黒のどちらかに原色を合わせた衣装はマス目のような背景も伴ってか、繰り広げられる世界はモンドリアンの絵画を思わせられる。ダンサーは若手が中心で、ソリストを勤めるのはセウン・パク(現エトワール)、フロリアン・マニュネだ。縦横斜めに跳躍と、平面から3Dへと発展する世界を、やはりエレガントさを持って、パリ・オペラ座の若手たちが魅せる。伝統の味わいはバレエ団が培い、バレエ団の隅々まで浸透しているのだと、改めて思わせられる作品だ。
ロビンスは本拠地のNYCBとともに、パリ・オペラ座を第二の故郷と考えていたという。炸裂するパワーとエレガント。個性の異なる2つのバレエ団が自身の作品を表現することで生まれるその違いを、もしかしたら一番楽しんでいたのは当のロビンスかもしれない。趣異なる4作品を、ぜひこの機会に楽しんでいただきたい。
文=西原朋未