2021年1月6日の米議会乱入事件(写真:ロイター/アフロ)

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「新情報入手」で下院特別委公聴会続行

 2021年1月6日の米連邦議会乱入事件に対するドナルド・トランプ前大統領の介在を調査している下院特別委員会は6月23日に行われた5回目の公聴会の後も7月公聴会を続行すると発表した。

 続行の理由は「トランプ氏の介在を示す新たな情報を入手したため」としている。終了後、報告書を出すことになっている。

 メディアの中には、民主党による中間選挙をにらんだ「政治ショー」といった冷ややかな見方をする者も少なくない。

 公聴会を「魔女狩りだ」と批判してきたトランプ氏は「召喚に応じた証人たちは皆ペテン師だ」」と反駁(同氏は12ページに及ぶステートメントを発表したが、乱入事件ついては直接言及することは一切避けている)。

「我が国が直面している物価上昇、粉ミルク不足、失業、教育問題、供給不足、メキシコとの国境問題の責任は100%民主党にある。それらの問題から米国民の目を逸らすためにごまかしだらけのペテン師的なショーをやっている」

「2020年の大統領選挙は不正に操作された選挙であり、私が勝った選挙を民主党が掠め取った」

(https://thehill.com/homenews/administration/3522080-trump-releases-12-page-response-to-jan-6-hearing/)

 政治献金で集めた資金の大半は、「2020年の大統領選挙は不正操作で行われ掠め取られた選挙だ」キャンペーンに費やされているという。

(https://www.npr.org/2022/06/16/1105279623/jan-6-committee-trump-campaign-legal-defense-fund)

 トランプ氏の長男が設けたサイトでは、「サイン入り特注MAGA(Make America Great Again)帽」や自叙伝(実は写真集)を販売、代金として政治献金を公募するメッセージが連日発信されている。

(https://secure.winred.com/save-america-joint-fundraising-committee/jj22-signed-maga-hat/)

一枚岩ではなくなってきた共和党

 当初、共和党執行部も「民主党は公聴会を通じ、インフレやガソリン価格急騰といった難題から有権者の目をそらしたいだけだ」(トランプ派のエリス・ステファニク下院議員総会議長=ニューヨーク州選出)などと強く反発した。

 だが、公聴会が続く中で党内も一枚岩ではなくなってきた。

 各州レベルの党支部の中からは、「トランプ有罪」を半ば認め、距離を置く共和党員も出始めている。

 トランプ氏の命綱、保守系フォックス・ニュースは、初日の公聴会中継をボイコットしたが、3大ネットワークはじめCNN、MSNBCなど主要メディアが中継して高視聴率を上げていたのを見て(?)か、公聴会2回目から中継に踏み切った。

 トランプ批判をするコメンテーターが現れてきた。普段はテレビを見ない若者層も公聴会の様子はオンラインで見ている。

 筆者がチェックした「レッド・ステート」(共和党支配州)の地方紙も公聴会報道を一面で報じている。

「スイング・ステート」(大統領選ごとに共和党が勝ったり、民主党が勝ったりする州)の主要保守系地方紙の中には、同州選出の共和党議員に「民主主義を守るために勇気を出せ」とはっぱをかける編集主幹も現れた。

(https://wisconsinexaminer.com/2022/06/20/needed-some-courageous-wisconsin-republicans/)

 民主、共和両との対立が激化の一途をたどる中で、どっちつかずの無党派層の多数は、今回の公聴会を「公正な公聴会」だと受け止めている。

 少なくとも1回目の公聴会テレビ中継を観た米国民は2000万人、2回目は1100万人が観ている。

 これにオンラインやSNSで見ている人たちを併せたらどのくらいの米国民がいるだろうか(正確なデータは目下のところない)。

(https://www.nytimes.com/2022/06/10/business/media/jan-6-hearing-ratings.html)

 今回の公聴会は証人喚問だけでなく、これまで公開されなかった事件当日の映像や同委員会の調査員が行った非公開事情聴取の録画、関係者たちのツイッターやメールが大型スクリーンに映し出される新方式が導入された。

 そのインパクトは大きく、結果は世論調査に即、表れた。

 4月上旬には、「トランプ氏に責任あり、有罪だ」としていた米国民は46%(「無罪」は48%)だったのが、4回目の公聴会終了時の6月20日時点では「トランプ有罪」は58%に急増した。

(https://poll.qu.edu/poll-release?releaseid=3842)

(https://www.washingtontimes.com/news/2022/jun/20/nearly-60-americans-say-donald-trump-should-be-cha/)

民主主義を守った英雄か、明智光秀か

 これまでに公聴会で明らかになった「事実」をかい摘んで拾ってみるとこうだ。

一、トランプ氏の家族や当時の政府高官への聴取映像を開示。

 この中で軍制服組トップのマーク・ミリー統合参謀本部議長は、マイク・ペンス前副大統領が何度も軍に鎮圧を命じたのに対し、マーク・メドウズ前大統領首席補佐官が「副大統領が全権を握っているように見えてはいけない」と阻止したことを明らかにした。

二、現場で負傷した警官や、襲撃に加わった極右団体「プラウドボーイズ」の記録映像を撮影した監督も公聴会に出席。

 暴徒らがトランプ氏のツイートに駆り立てられ、武装し、組織だって行動していた様子を証言した。

三、ペンス氏の側近らが証言、大統領選を「不正」と主張するトランプ氏が襲撃当日、選挙結果を最終確認する上下両院合同会議に出席していたペンス氏に選挙結果を覆すように執拗に迫っていた。

 襲撃が起きた2021年1月6日、議会では選挙結果を最終確認する上下両院合同会議が開かれ、一貫して拒否するペンス氏にいら立ち「臆病者」などとなじった。

 トランプ氏は「ペンスは度胸がない」とツイート。これを見たトランプ氏の支持者らが「ペンスを絞首刑にしろ」などと叫びながら議事堂になだれ込んだ。

 暴徒らは、安全確保のため議事堂の地下へ避難するペンス氏まで十数メートルに迫っていた。

四、トランプ陣営のビル・ステピエン選対本部長やウィリアム・バー前司法長官が録画で証言。

 大統領選に「不正」の証拠はないとトランプ氏に進言したものの、トランプ氏が聞き入れなかった。

五、トランプ氏は敗北した州の議員や選挙管理人対し、「足りない票を探し出せ」などと圧力をかけ、ジョージア州のブラッド・ラフェンスパーガー州務長官に電話し「私が見つけたいのは(同州の選挙結果を覆すのに必要な)1万1780票だ。再集計したと言えば問題ない」と架空の得票をでっち上げるよう迫った(その録音音声が公開された)。

六、ジョージア州で票の集計などに携わる選挙管理人(ボランティア)を務めたシェイ・モスさん(黒人女性)は、トランプ氏の顧問弁護士だったルドルフ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長(トランプ氏の個人弁護士兼相談役)に名指しで選挙不正の容疑をかけられた後、トランプ・シンパの極右団体「ゲートウェイ・パンデット」から自身や家族の命に関わる脅迫を受けた。

 こうした公聴会の証言を聞き、観ても共和党の親トランプ派はこう言う。

「民主党員や共和党の裏切り者が御託を並べているが、百歩譲って、トランプ氏が議会襲撃を教唆した証拠があるのか」

 だが、ペンス氏の言動については共和党支持者の間でも意見が分かれている。

 特にトランプ・ペンス正副大統領にとって岩盤のような支持層である宗教保守、エバンジェリカルズが、「トランプ有罪」是非をめぐって分裂したのだ。

 ペンス氏はカトリック教徒だがエバンジェリカルズだ。

 信仰には無関心なトランプ氏がペンス氏を副大統領に指名したのは、エバンジェリカルズの票獲得を期待したからだ。

 そのペンス氏がジョー・バイデン氏の当選の最終確認の印を当然のこととして捺したのだ。

 ペンス氏にすれば、4年間仕えてきた「主人」よりも米国憲法、大統領よりも「神の声」に従ったという、エバンジェリカルズとして当然のことをしたのだ。

 まさに「本能寺の変」で織田信長を暗殺した明智光秀である。

 この行動に民主党支持者は党利党略を絡めて「民主主義を守った英雄だ」と褒めそやした。

 公聴会で証言台に立ったエバンジェリカルズと思われるペンス氏の弁護士や側近は、同氏にアドバイスをする際に「トランプの圧力」を撥ね返した根拠に聖書の聖句*1を挙げている。

*1=旧約聖書のイザヤ書や新約聖書の「テモテへの第二の手紙」などを引用している。「王よりも神の御心に従え」とか、「戦いを全うした後は勝利者に従え」といった「教訓」を挙げている。

 エバンジェリカルズの動向に詳しい主要メディアの記者は筆者にこうコメントしている。

「エバンジェリカルズのトランプ支持は、何も同氏の信仰心から来ているものではない。同氏はむしろ無神論者だ」

「エバンジェリカルズがトランプ氏を支持する理由の一つは、同氏がエバンジェリカルズが絶対に受け入れられない人工中絶に反対しているからだ」

「エバンジェリカルズはペンス支持を経由してトランプ支持になっている。だから議会襲撃事件の最中、トランプ氏が大統領選挙結果を米国憲法に則って確認したペンス氏を裏切り者などと口汚くののしれば、動揺するのは当然だ」

「かといって民主党支持に宗旨替えするわけにはいかない。依然としてトランプ支持をするエバンジェリカルズもいるわけだ」

 最近、エバンジェリカルズで影響力を持つ牧師、アンディ・スタンレー師が新著を出した。

 タイトルは『Not in It to Win It: Why Choosing Sides Sidelines the Church』(それを得るために教会はなぜどちらかを選ぶのか)。

 毎週日曜日の礼拝には3万8000人の信者が集まるジョージア州アトランタ近郊のメガチャーチの主任牧師だ。

(https://www.amazon.com/dp/0310138922/)

 スタンレー師は、コロナ禍、ジョージ・フロイド殺害抗議、2020年の米大統領選挙などで保守とリベラルが真っ向から対立、エバンジェリカルズがトランプ氏の主張に賛同していることについてこう諭している。

「アメリカを救うといっても、アメリカを本当に救うというエネルギー、焦点、世評がその本体からそれてしまうと、もはや教会ではなくなる」

「それは政治の道具に過ぎない。それは単なる投票箱になってしまう。教会がモラル上、倫理上の高台であることを放棄したことになる」

「今一部のエバンジェリカルズの指導者たちが教会を政治化させている。われわれはクリスチャンだから共和党員なのだ、共和党員だからクリスチャンなのだ、という声を聞く」

「こんなクレイジーなことはない。一つの事案に賛同したからといって何から何まで共和党一辺倒になるべきではない」

「クリスチャンは聖書を読み、祈り、神の声に耳を傾け、それを日々の生活で実践することにある」

 明らかにエバンジェリカルズのトランプ支持に対して警鐘を鳴らした本だ。この本をめぐってエバンジェリカルズの教会では論争が巻き起こっている。

(https://edition.cnn.com/2022/06/04/us/andy-stanley-evangelicals-book-blake-cec/index.html)

中間選挙での民主党勝利とは無関係?

 公聴会の報告書の中身次第では、司法省がトランプ氏を刑事罰で起訴することは十分考えられる。

 民主党内にはトランプ氏を弾劾する動きも出ている。

 大統領をすでに辞めている人物を弾劾できるか、の議論はある。法律専門家の間には、弾劾することでその人物を政界から永久追放(一切の選挙に立候補できなくする)できると唱える者もいる。

 そして中間選挙。

 下院特別委員会の公聴会で「トランプ断罪」が明確になり、劣勢が予想される中間選挙で共和党に勝つという保証は全くない。

 その証拠として前掲の世論調査では、公聴会での「結論」が中間選挙での投票に影響を及ぼすことはないと答えた者が50%を超えている。

 上下両院選の民主、共和両党の候補のどちらに入れるかは有権者が「トランプ断罪」だけをどう判断するかだけではなく、バイデン政権の11月の時点での物価政策、インフレ脱却にかかっているというわけだ。

 むろん、立候補する民主党の候補の人品骨柄、政策、実績が当否を決めることは言うまでもない。

筆者:高濱 賛