Z 9用の新ファームウエアは、まず動画関連の大幅な機能アップが前面でアピールされているようなのだけど、個人的には、ソコに刺さってくる要素はなかった。Z 9を動画撮影機であるとは捉えていないからだ。私にとってZ 9は、あくまでも写真を撮るためのカメラ。古き良きフラッグシップ一眼レフのテイストを感じさせる、心地よき重厚感にあふれる希有なミラーレス機との認識だ。なので、動画関係の進化にはまったく興味がない。すみません・・・。
フトした瞬間に一瞬で潜ってしまうので、肝心な瞬間を撮るのは至難のワザだった水鳥が見せるこんな場面も、プリキャプチャにとっては朝飯前の動きにすぎないようで、極めて効率的に撮ることができた。着目すべきは、水鳥の鋭いツッコミによる「水面(みなも)の芸」。ミルククラウンならぬ池の水クラウン(命名センス壊滅)がこんなに美しく形成されていたとは! 30コマ/秒のプリキャプチャで撮影(NIKKOR Z 400mm f/2.8 TC VR S使用、ISO1250、1/8000秒、F3.2)
Z 9の場合、さかのぼれる時間(プリ記録時間)は「なし」「0.3秒」「0.5秒」「1秒」から選ぶことができる。ここを「なし」にしておくと、普通のハイスピードフレームキャプチャ撮影(Z 9にもともと備わっているAF・AE追従で30コマ/秒、もしくは120コマ/秒の連写ができる機能)での撮影になる。つまり、Z 9が新たに実装したプリキャプチャは、ハイスピードフレームキャプチャ撮影の拡張機能であるということ。というワケで、プリキャプチャ撮影時に生じる制限、および係る諸条件は、ハイスピードフレームキャプチャ撮影に準ずることになるので注意が必要だ。
木陰で1/4000秒のシャッター速度にこだわったら、ISO感度が常用上限のISO25600になってしまったおかげで、等倍鑑賞ではどこか絵画的な雰囲気も漂う仕上がりになっているのだけど、凍結された一瞬の風景にはそれもお似合い。30コマ/秒のプリキャプチャで撮影(NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S使用、ISO25600、1/4000秒、F5.6、+1補正)
なにゆえ過去にさかのぼって写真が撮れる(画像が記録できる)のかといえば、シャッターボタン全押しの前からバックグラウンドで記録が始められているから。具体的には、シャッターボタンを半押しにした段階から繰り返し「プリ記録時間」分の画像が上書き記録され続けているってこと。だから、スズメさんの目線バッチリな、偶然を除けば人力だけでは絶対に撮れそうにないこんな瞬間も、軽〜い気持ちのままゲットできちゃうというワケ。30コマ/秒のプリキャプチャで撮影(NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S使用、ISO2200、1/4000秒、F5.6、+0.3補正)
撮るべき一瞬を比較的お気楽に待っている状態なら、瞬間をゲットするための"保険"にもなり得るプリ記録時間「1.0秒」も、撮るべき瞬間に対し意識を集中して待ち受けている状態では、結果として長過ぎ(コトが起こる前の無駄カットが多くなりすぎる)と感じることが多かった。一方、レリーズ後記録時間は、何秒に設定していようとシャッターボタンの押下を解除した段階で「後記録」が停止することから、最終的には「最大」設定での「手動停止」を基本とするスタイルに落ち着くことになっている。このあたりは、集中力維持の度合いに応じてフレキシブルに対応した方がよさそうだ。30コマ/秒のプリキャプチャで撮影(NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S使用、ISO1400、1/4000秒、F5.6、+1補正)
こちらはプリキャプチャではなく通常撮影。測距点自動選択(ワイドエリアAF)時に見せがちな背景へのピントの逃げに悩まされることがままあるZ 9ではあるのだけど、Ver.2.00ではワイドエリアAFの測距範囲の絞り込みが効率的にできるようになり、この点を賢くフォロー(根本的解決にはなっていないが)。そして今回、NIKKOR Z 400mmF2.8 TC VR Sを使ってみたら、このレンズではそもそもピントの逃げが圧倒的に少ないようにも感じられた。単焦点レンズだから? 明るいレンズだから? それとも単なるたまたまの出来事? 卓越した描写力やテレコン内蔵など、すべての要素にわたり価格なりの価値をしっかり有しているレンズだと断言できる(NIKKOR Z 400mm f/2.8 TC VR S使用、ISO100、1/4000秒、F3.2、-1.3補正)
同種の機能で先行した機種にはないメリットや工夫も
この手のさかのぼり撮影機能は、身内以外ではオリンパス「OM-D E-M1シリーズ」や「E-M5 Mark III」、OMデジタルソリューションズ「OM-1」などにはすでに搭載実績がある(機能名称は「プロキャプチャー」)。それらとの比較でZ 9の同様機能が“新しい”のは、まずは「フルサイズミラーレス機としては初」の搭載であるところ。ここは、超高感度時の画質的優位性に繋がる要素であると個人的には捉えている。
また、フル画素45MPで撮れる場合は、画素数的にも有利との認識も可能だろう。こちらは、トリミング耐性に関わるとの受け止めで優位性を実感しやすいかもしれない。ただし、Z 9のプリキャプチャでフル画素撮影ができるのは、30コマ/秒設定時のみ。120コマ/秒時は、画像サイズがサイズS=約11.4MPに限定されることになる。これは、ハイスピードフレームキャプチャ撮影にもとから存在する制限で、記録がJPEG・NORMALのみになるのも同様の“縛り”だ。なお、参考までに、撮影データに関しては、OM-D E-M1 Mark II/Mark IIIとOM-1のプロキャプチャーはJPEG、RAW両記録が可能。キヤノンEOS R7のRAWバーストモードはRAW記録のみとなる。
120コマ/秒のプリキャプチャによる連続撮影も、厳密にはバットがボールに当たった瞬間は撮り損ねている・・・というべきか。でも、かなりお気軽にこういう写真が撮れちゃうところに同機能の大きな価値が備わっていることは間違いない。画像サイズがおよそ11.4MPの「S」固定になってしまうところが120コマ/秒で撮影するときの最大の注意点。あとは、撮影カット数がとんでもないコトになる点にもそれなりの覚悟が必要ではある(NIKKOR Z 100-400mm f/4.5-5.6 VR S使用、ISO3600、1/4000秒、F5.6)