「天空の茶屋敷」オーナーの坂本治郎さん

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 コロナ禍で大打撃を受けた宿泊業界。特にインバウンド客をターゲットにしたゲストハウスは、この2年で廃業が相次いだ。しかしそんな苦境の中でも、悠々自適に経営を続けているオーナーがいる。福岡県在住の坂本治郎さん(Twitter:@skyteahouse)だ。

 坂本さんが営む「天空の茶屋敷」は、コロナの影響で宿泊者がゼロになった時期がある。にもかかわらず、彼の生活は貧することなく豊かだという。その背景には、ゲストハウス開業にまつわる特殊すぎる経緯と、田舎ならではの経済事情があった。

◆「田舎に人を呼びたい」海外帰りの青年の挑戦

 福岡県八女市笠原地区の、標高500メートルに位置する一軒の屋敷。一見、何の変哲もないように見える古民家だが、知る人ぞ知る秘境のゲストハウスだ。

 実はこの宿、‟タダで貰った家”を活用して開かれている。一体どういう事なのか。それにはオーナーである坂本さんの生きざまが深く関わっている。

「僕は2015年まで5年間海外放浪をしていて、帰国してから福岡県八女市に移住しました。当時は空き家になっていた祖父母の家に住み、地域の手伝いをしながら食いつないでいたんです。ある程度生活が落ち着いてきてからは、SNS経由で外国人旅行者を泊めてあげるようになりました。バックパッカー時代の縁もあり、移住して一年後には国内外から多くの人が集まる家になったんです」

 田舎暮らしが板につくにつれ、地域の人はもちろん、旅行者とのつながりも増えていった。一年ほどは平和な暮らしが続いたが、地元との関わりが増えるにつれ、田舎特有の問題を目の当たりにする。人口流出による過疎化、農家の深刻な跡継ぎ不足だ。

 地域への訪問者を増やしたい。田舎の魅力を知ってほしい。そう考えた坂本さんは、自宅に集まる外国人旅行者を連れ、「八女茶ガイドツアー」を企画する。この活動こそが、ゲストハウス開業への布石だった。

◆地域の信用を得て、タダで家を貰う

「ガイドツアーを企画した際、地域の重鎮である大橋さんという方とご縁ができました。その方から、ある日『家を貰わないか?』と声がかかったんです」

 その家こそが、現在「天空の茶屋敷」になっている古民家だった。元々の所有者が高齢化により土地を離れてしまったため、取り壊しが検討されていたそうだ。

「大橋さんは『こんな立派な家を壊すのはもったいない。何らかの方法で活用できないものか?』と考え、住んでくれる若者を探していたそうです。そこで白羽の矢が立ったのが僕でした」

 八女茶ガイドツアー以前から、人手不足のお茶農家に若者を紹介していた坂本さん。そうした活動が地元民の信用につながり、古民家を無料で譲り受けることとなった。

 活用方法を考え浮かんだのが、ゲストハウスだった。

「バックパッカー時代の経験を活かして、宿業をしようと決めました。改修には地域おこし協力隊の方々もサポートしてくれて、SNSでの呼びかけもあって多くの人が手伝ってくれたんです」

 大勢の支援を得て生まれ変わった古民家。初めて屋敷を訪れた際のインスピレーションから「天空の茶屋敷」と名付け、2017年に開業した。

◆コロナで売上が激減。田舎ならではの多角経営で乗り切る

 SNSやリアルでクチコミが広がり、国内はもちろん、海外からも注目されるようになった天空の茶屋敷。特に旅慣れた外国人旅行者たちの間では、‟知る人ぞ知る秘境の宿”として人気が広がっていった。

「普通の旅行客が行かないような、ユニークな場所へ行ってみたい。そういう気持ちを持った人のニーズとマッチングしていたんだと思います」

 しかし新型コロナウイルスの感染拡大で、宿の状況は一変する。訪れる外国人が激減したのだ。