「女は所詮、金やステイタスでしか男を見ていない」

ハイステータスな独身男で、女性に対する考え方をこじらせる者は多い。

誰も自分の内面は見てくれないと決めつけ、近づいてくる女性を見下しては「俺に釣り合う女はいない」と虚勢を張る。

そんなアラフォーこじらせ男が、ついに婚活を開始。

彼のひねくれた価値観ごと愛してくれる“運命の女性”は現れるのか―?

◆これまでのあらすじ

経営者の明人はマイと婚活アプリで出会うが、彼女は自分より高学歴の経営者であることが判明する。

自身に好意を寄せているマイに戸惑いながらも、明人の心は10年ぶりに再会した美女・恭香へ向かっており…。

▶前回:食事会で意中の人が美女とイイ感じに…。彼を取られたくないあまり、女が皆にばらした彼との秘密


Vol.6 高嶺の花


― そういえば恭香ちゃん、誕生日近いんだよな。プレゼントはどうするか…。

朝9時の新宿。

明人は『ベーカリー沢村』のイートインで朝食のクロワッサンを堪能し、腹ごなしに新宿御苑にあるクライアントの元へ歩いて向かっていたところ、ふとそのことに気がつき足を止めた。

そこは新宿通りに面したとあるビルの前。ターコイズブルーが印象的なブランドの路面店がある場所だ。

実は明人は、かねてから、愛する人ができたらそのブランドのジュエリーを贈ろうと心に決めていた。

少年期を過ごしたバブル時代。おしゃれな大人たちはみな水色の紙袋を手にしており、美しい女性の胸にはそのブランドのネックレスが輝いていた。

愛する女性には、自分が選んだ品物を着けていてほしい―。

支配欲、といったらそうなのかもしれないが、それは漠然とした憧れだった。

明人は彼女の喜ぶ顔と、オープンハートが光る胸元を想像する。

しかし、例の夜におやすみLINEを送って以来、恭香からの返信はない。

2週間も経っているのに…一体どうしたんだろう。

明人は戸惑いを隠せずにいた。


恭香から連絡が途絶えた…。焦燥感ゆえに明人は…!?


セオリーだと、3回目のデートまでが勝負だという。

まだ2人きりで会うのは2回目だが、明人は、次で早くもゴールを決めてしまおうと目論んでいた。彼女の誕生日という絶好のタイミングでもある。

ちなみに恭香の誕生日は、検索して見つけた彼女のInstagramから知ることができた。どうやら去年は女友達と寂しく祝っていたようだ。

このまま彼女からの返信が来ないと、誕生日を祝うチャンスを逃してしまう。

返信を待てば待つほど、明人の彼女への想いは募っていくのだった。




「―社長、聞いてます?」

「あ、ごめん。もう一度言って」

午後からの新規事業提案の会議中、恭香のことで頭がいっぱいだった明人は、上の空になっていた。

力をこめてプレゼンを行っていた営業職の若手社員・関本絵理沙も、ぞんざいな彼の態度に涙目だ。

絵理沙が明人のためにもう一度最初から説明し始めても、彼の態度は変わらない。

彼女はついに声を詰まらせ、プレゼンを無理やりに終わらせると、会議室から勢いよく出て行ってしまった。

心配した久保が絵理沙を追いかけ、部屋を出て行く。その一部始終を見ていた若手エンジニアのリーダー格である田川は苦笑いして言った。

「社長…関本さんのこと、小バカにしすぎじゃないですか」

「え、そう?」

正直、そのような感覚はなかった。それなのに被害者ヅラで出ていかれ、自分が加害者だと責められているようで、明人は納得がいかない。

つい不機嫌が表に出て、資料を机に叩きつけると、田川は声を少々震わせ、彼に尋ねた。

「ど、どうしたんですか?ここ数日、情緒不安定ですよ」

思い当たるフシのある明人は何も返せなかった。

「知識や統率力はあるしマネジメント力や根性もある。でも、人間性が少々難ありなんだよな…」

ガラス張りの社長室でスマホをじっと見つめる明人を眺めながら、久保はオフィスの片隅でつぶやいた。

彼は今、若手へのフォローがてら、田川や絵理沙とコーヒー片手に一息ついている。

「明人さんはね、苦労してきた分、他人に厳しくなっているんだよ。特に甘えているように見える若い世代や女性への僻みもあるのかな。若干こじらせているというか…」

いまだ涙目の絵理沙に久保は諭す。その隣の田川は首を傾げた。

「え、僕もゆとり世代ですが、そこまで社長からのあたりが強いと感じたことはありませんよ」

「君は彼と同じ早稲田だから。それに、好みの女性をいつも飲みの席に用意してくれるだろう」

その言葉に絵理沙は眉をひそめ、富士山のような形に口を歪ませる。

「やだぁ、ムリムリ。苦労人、っていっても私だってコロナ入社だし、他より割りを食っているんですよ!?」

「まぁ、彼も悪い男ではないから…。フォローは俺がするから何でも言って」

和らいだ表情の絵理沙に、久保はほっと胸をなでおろす。

次の瞬間、見計らったかのように明人が社長室から出て来た。一同の背筋がピンと伸びる。

「おい久保!」

「なんでしょうか…」

「今度もメシどこかたのむ。あのコから連絡が来たんだよ!」


恭香からやっと届いた返信。連絡がなかったその理由とは


恭香によると連絡がなかったのは、スマホを落としていたから、だという。

美人で隙がなさそうにもかかわらず、なんとおっちょこちょいな女性なのだろう…約束を取り付けられた安心感もあり、明人は彼女を許すことにした。

「女は、ちょっと何か足りないほうが可愛いもんな…」

明人は恭香のメッセージに薄笑いを浮かべながらつぶやく。

久保は今回もいい感じのレストランを提案してくれた。しかも、勝負をかけると言ったら個室のある店を選んでくれたのだ。

明人は、彼のことを公私ともに真の相棒だと改めて感じるのだった。

そして、約束の日。

愛用するヴィトンのグラン・サックの中に水色の小袋を忍ばせ、明人は約束の場所へ向かった。

今日は気合を入れ、2軒目と、その先の用意もしてある。

場所は広尾と南青山のちょうど間、日赤通りにある『リストランテ ペガソ』。季節の素材の味を引き立てた、安定感ある味わいで評判の名店だ。

予約していた地下の個室に通されるなり、彼女は何かの予感を抱いたのだろうか、緊張の面持ちになった。

「個室なんて、ドキドキしちゃいます…」

「そう?恭香ちゃんのために頑張ったよ」

ムーディーな雰囲気だからか、積極的な言葉と裏腹に明人も乾杯をする手が震えてしまう。

ひとまず鴨のローストをメインとしたお任せのディナーコースを堪能した。




食事中、彼女は頬を両手で押さえ、その美味しさに舌鼓を打っていた。相変わらず美しい恭香の笑顔も味付けのひとつ。明人はずっと胸がいっぱいだった。

― さて、本題に入るか…。

デザートを食べ終わると、明人は姿勢を正し、鞄に手をかけた。そして、水色の小箱を彼女に差し出す。

「これ、誕生日プレゼント…開けてみて」

明人に強引に促され、恭香は箱を開ける。中には明人がセレクトしたシルバーのオープンハートのネックレスが入っている。

「え…私に?」

「君に似合うと思って」

彼女はどこか困ったような顔だった。その表情に、プレゼントがベタすぎただろうかと不安がよぎるが、もう止められない。

「僕と交際してほしい」

自信満々に恭香の目を見つめ、明人は告げた。

しかし、答えは予想だにしないものだった。

「ごめんなさい。私、結婚しているの」

「…え?」

いわく、現在、商社勤務の夫は海外に単身赴任中。彼女は仕事の関係で日本に残っているだけだという。仕事は旧姓のままで行っており、指輪も水仕事ゆえ、普段は外しているということだ。

「なら、なぜ誘いに…」

「正直、お仕事につながると思ったので」

自業自得の部分もある。明人は、自社のオフィス装花の依頼をちらつかせていたのだから。

「そうか…」

「勘違いさせたようでしたらごめんなさい」

平静を装い、うまい返しをしようと思うが、頭に浮かぶのは負け惜しみばかり。口ごもっていると、恭香は明人に微笑みかけた。

「私より、マイさんはどうですか」

「え」

「クールな振る舞いが素敵だと、明人さんのことを話していますよ。この前同席したご友人の方々も『彼の前ではマイさんが乙女になっている』って言っていました」

恭香はあの会食でマイと意気投合し、時折食事をする仲になったのだという。言葉の端々に明人に恋する様子が伝わるのだそうだ。

― 大きなお世話だ…。

人はなぜ身内を無理やりくっつけたがるのか。

そこには本人の好みや意思など全く存在していない。ありがた迷惑なことが多く、明人は以前からこの類の言葉にはほとほと迷惑してきていた。

地球最後の2人になっても、彼女だけはごめんだ。

レストランを出て恭香と別れた後は、予約をしていたアンダーズ東京に1人チェックインした。

2軒目に予定していたルーフトップバーにも向かう気にならず、ベッドの上で肩を落とす。すると、ある連絡が入った。

その知らせは、明人の傷ついた心をさらに落胆させるものだった。

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八つ当たりにも近いマイへの怒りが募る明人。狂った彼はついに…。