写真提供:リツデザイン一級建築士事務所

写真拡大 (全3枚)

多くの人が家を建てる際に重要視する「耐震性能」。重視する一方で、耐震性能・耐震基準についての正しい知識はあまり知られていません。今回は、住まいるサポート株式会社代表取締役・高橋彰氏が、耐震性能の専門家である、株式会社M’s構造設計の代表取締役社長にして、「構造塾」塾長である佐藤実氏にインタビューします。

建築基準法レベルの耐震性能、死は免れても…

今回は、ほとんどの方が住まいづくりの際に最も重視する項目の一つである耐震性能について積極的に情報発信されている、構造塾の運営主体の株式会社M's(エムズ)構造設計 佐藤実社長に話を伺いたいと思います。

株式会社M’s構造設計 代表取締役社長 「構造塾」塾長

佐藤 実

1968年新潟県生まれ。1990年東北工業大学工学部建築学科卒業。株式会社佐藤住建を経て、2006年株式会社M’s構造設計設立。2010年東京大学大学院修了。2010年「構造塾」を設立、木質構造に関するセミナー、構造計算技術者育成講座を開催、構造計算サポート業務を行っている。

高橋:住まいづくりをされる方が最も重視する要素の一つが耐震性能だと思います。ただ、耐震等級等については、一般の方はあまり知識をお持ちではないようです。そのあたりについて、第一人者である佐藤社長にお話をお伺いしたいと思います。まずは、建築基準法における耐震性能の基本的な考え方について教えてください。

佐藤:1981年の建築基準法改正により、「新耐震基準」と呼ばれる最低限の耐震性能が定められています。この耐震性能は、数百年に一度程度の地震(震度6強から7程度=東日本大震災、阪震度神・淡路大震災クラス)に対しても倒壊や崩壊しない、また、数十年に一度程度に発生する地震(地震5程度)では住宅が損傷しないという程度の耐震性能です。

気をつけたいのは、震度6〜7の地震では、「倒壊・崩壊しない」という点です。建築基準法が要求している耐震性能は、「人が死なない」ということです。つまり、人が建物から避難する時間を確保するためには、大きな揺れがきても倒壊しないという性能レベルということです。言い換えれば、倒壊はしなくても一定の損傷は許容しているということです。

つまり、建築基準法が要求しているのは、震度6〜7程度の地震で倒壊しないけれど、そのまま住み続けることはできないかもしれない耐震レベルでしかありません。

また、あくまでも1回目の地震で倒壊崩壊しないということですから、熊本地震のように複数回の大地震が来ると、それ以降の地震では倒壊崩壊する可能性があるわけです。そのレベルの耐震性能で十分なのかは、ぜひ慎重にお考えいただきたいと思います。

高橋:なるほど。建築基準法が要求する耐震性能レベルでは、大地震で家は倒壊しないけれども、住み続けることができない損傷を受ける可能性が高いということですね。そもそも、家を新築する場合、この建築基準法レベルの耐震性能は必ず確保されているものなのでしょうか?

佐藤:実はそれがそうとも限らないのです。そもそも建築基準法では、木造2階建ての住宅に構造計算は求められておらず、地震や風圧に耐えられる壁の量を求める壁量計算で許されています。

さらに木造2階建てまでの一般的な家には、確認申請の際に壁量計算書を提出しなくてもよい「4号建築物確認の特例」があります。構造計算を行わなくても、簡易的な壁量計算レベルで許されています。つまり、家を建てる際には、実は誰も構造をチェックしていないケースも多い、ということは知っておくべきでしょう(法改正により対象建築物は縮小される予定)。

耐震性能については、確認申請が下りているから大丈夫というわけではないので、第三者である住宅性能評価機関による確認があるかどうか、施主側が確認するべきだと思います。

できれば許容応力度計算による耐震等級3を確保したい

高橋:なるほど。普通に家を建てたり買ったりする場合、耐震性能が不十分である可能性があるわけですね。では、十分な耐震性能を確保したい場合は、どうしたらいいのでしょうか?

佐藤:2000年に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」で、施主に判りやすい耐震性の判断基準として、耐震等級が定められています。これは等級1から等級3まで3段階に分けて表されます。耐震等級1は先ほど説明した建築基準法で要求している耐震性能のことです。

耐震等級2は、耐震等級1の1.25倍の地震に耐えられる性能・耐震強度水準です。「長期優良住宅」の認定条件では、耐震等級2以上が求められています。耐震等級3は、耐震等級1の1.5倍の地震に耐えられるだけの性能・耐震強度水準です。

東日本大震災クラスの地震にも耐える家という観点からは、耐震等級3にすべきでしょう。なぜ、耐震等級3レベルにすべきかというと、2016年の熊本地震で益城町には震度7が2回来ました。震災後に建築学会が全棟調査したのですが、耐震等級3の建物が益城町には16棟建っていたのですが、そのうち14棟が無被害、2棟が軽微な損傷で住んでいました。つまり、耐震等級3の家ならば、震度7の地震が2回立て続けに起こっても、その後も住み続けられる性能であるということなんです。

[図表1]耐震等級

高橋:では、耐震等級3にすれば安心と考えていいのでしょうか?

佐藤:実は、耐震等級3にはいくつかの種類があります。前提として、耐震性能の計算方法には3種類あるんです。もっとも信頼性が高いのが、許容応力度計算による構造計算を行ったもの。その次に信頼できるのが、住宅品質確保促進法に基づく耐震等級の計算によるものです。その下に、簡易的な仕様規定による壁量計算によるものです。

耐震等級2および3は、許容応力度計算もしくは品確法に基づくものでないとなりません。一番下の壁量計算には、耐震等級2・3はありません。

気をつけなくてはならないのは、建築士や住宅会社によっては、耐震等級1レベルの1.5倍の耐力壁を入れることで「耐震等級3相当」と呼んでいることがあるという点です。これは壁の量が多いだけで、接合部とか全体のバランス等を考えているわけではないので、本当の耐震等級3の性能はない可能性があることに注意が必要です。

一方で耐震等級3レベルできちんと設計しているものの、長期優良住宅同様に第三者のお墨付きをもらっていないものを「耐震等級3相当」と呼んでいるケースもあります。「耐震等級3相当」の場合は、このいずれなのかは確認が必要です。

[図表2]計算基準

劣化対策を考えないと耐震性能は維持されない

高橋:耐震性能というのは、竣工時の性能がその後も維持されるものなのでしょうか?

佐藤:そうではありません。竣工時の耐震性能がずっと維持されるわけではないことを注意する必要があります。

木造建築の場合、耐震性能が劣化する要因として、壁の中に水を入ることが挙げられます。耐震性能を維持するためには、雨漏りを起こさない施工精度が重要ですし、それに加えて壁内結露が起きないことが大切です。壁内結露が起きると腐朽菌により木が腐りますし、湿った環境を好むシロアリの発生リスクが高まります。

壁内結露が起きないようにするためには、水蒸気を外に逃がす通気層の確保とともに、高気密・高断熱化も重要です。高気密・高断熱住宅は、省エネや健康・快適性という観点から語られがちですが、耐震性能の維持や劣化対策という観点からも非常に重要です。

高橋:シロアリ対策については、建築基準法で地盤面から1mの高さまで防蟻処理することが求められていますが、この対応で十分なのでしょうか?

佐藤:最近は状況が変わってきています。外来種のアメリカカンザイシロアリの被害が急増しているのです。この外来種は、いままでの地盤面から1mまでの在来種を対象にしたシロアリ対策では通用しなくなっているので、十分に留意したほうがいいでしょう。

高橋:なるほど。アメリカカンザイシロアリや我が国の防蟻処理方法の問題点については、別の機会に詳しくご説明させていただこうと思います。ありがとうございました。

高橋 彰

住まいるサポート株式会社 代表取締役