全生徒の“快適”を目指した。「ジェンダーレス制服」開発の裏側
時代とともに少しずつ変化してきた制服だが、ここに来て大きな転換期を迎えている。性別に関係なく着用できる「ジェンダーレス制服」が全国的に拡大しているのだ。
これまで、女子はスカート、男子はスラックスと性別による違いが存在していた。しかし、現在はジャケットやボトムの組み合わせが自由になっているというのだ。

今回は、学生服の大手メーカーである
「トンボ学生服」
を取材。
1930年から制服を制作し続けているトンボ学生服。ジェンダーレス制服の制作をするだけでなく、定着させるまでの工夫や今後の動きなど、ライブドアニュースの看板犬「ドアふみ」が話を聞いた。

羨ましい…! 今どきの制服がめちゃくちゃ快適そう

「ジェンダーレス制服」って最近聞くようになったけど、今までの制服とどう違うんだ?
性別に関係なく着用できるデザインでして、ジャケット・ボトム、ネクタイ・リボンなどの組み合わせが選択できるようになっています。
バリエーションが豊富で個々で着こなしを選ぶことができる。
これは自由度があっていいな!制服を着るのが楽しくなりそうだぜ。
ありがとうございます!

今は、自由度の高さだけでなく利便性もかなりあがっているんですよ。
洗濯機で洗えるうえに、シワになりにくい素材が使われていたり。
成長に合わせてサイズアップできることは、いまや当たり前に。
ニット生地を使用した動きやすいジャケットも登場しているそう。
おぉ! これはラクそうだ。こんなに進化してたのか。

ポイントは「性差を感じさせないデザイン」

最近の制服は「着心地のよさ」を考えて作られているってことがよくわかったぜ!

他にも力を入れたポイントってある?
初めにお話した「選択肢を増やすこと」はもちろん、「性差を感じさせないデザイン」にも力を入れました。
性差を感じさせないデザインって?
例えば、シルエットです。今までの女性用制服は、ウエストがキュッと締まりヒップが出るようなデザインでした。そのような女性らしい曲線を極力出さないような設計にしています。

あとは、スカートとスラックスの柄や色の差異をなくし、より統一感のあるデザインを意識しています。
たしかに「統一感」があると思ったぜ。色も柄も同じだ。
こういったデザインが増えてきているため、セーラー服と詰襟学ランから、ブレザーを選択する学校が増えています。ブレザーは性別によるデザインの差異が少ないことが理由です。
たしかにセーラー服や学ランって見なくなったぜ。そんな意図があったんだな。

スタートは、「話を聞くこと」からだった

私は、実のところ「ジェンダーレス制服」の企画をスタートした時はLGBTQという言葉すらきちんと理解していませんでした。

何が悩みなのか、どういった苦労があるのかを知るために、LGBTQアドバイザーである山口颯一さんが主催している交流会に参加しました。
トンボ学生服のアドバイザーを務めた「一般社団法人ELLY」の代表理事である山口颯一さん。女性として生まれ、男性として生きる道を選んだ自身の経験をもとに、LGBTQ講演会などを実施している。
まず知ることから始めたんだな。
はい。実際お話を伺うと制服1つで苦しい思いをしていたことがわかりました。

スカートをはくことに抵抗があったこと、コスプレをしている感覚になったという意見、スカートを採寸されてる姿を周りに見られたくないなど、想像もしない様々な悩みがあることがわかりました。

そして、当事者の方々からアドバイスを頂きながら商品開発を開始したんです。
実際に話を聞くと、制服がどうあるべきなのか見えてくるな。

盲点だった…ジェンダーレス制服“導入後”に出てきた課題

ジェンダーレス制服を開発して、すぐに導入は広がったのか?
じつは、最初のころは「ジェンダーレス制服を採用しました」と発表した学校では、女子生徒さんたちがスラックスを選択しにくくなっていることがわかりました。

それを選択することで、自分がトランスジェンダーだと思われるのではないか、と気にする人が多かったのです。

すごくナイーブな問題なのだと痛感しました。
言われてみればたしかに…。
「ジェンダーレス制服」というワードは、学校でも使ってしまいがちなんです。

LGBTQの方々を救うべきものが、苦しめるものになってしまってはいけない。そこで私たちは、「ジェンダーレス制服」よりも、利便性を重視した制服であること、選択の自由であることをアピールするように配慮しました。
伝え方を変えたんだな。
はい。私たちの中でも、提案する際には「ジェンダーレス」と打ち出すよりも、「あくまで企画の名称」としています。そうすると、スラックスを選択される生徒さんがすごく増えました。実際、寒さ対策や動きやすさを理由に選ぶ方も多いですね。
結果的に、生徒全員に喜ばれる制服になったということだな。

伝え方次第でこんなにも変わるもんなんだな。
学校側への講演も行ってます。

生徒・保護者、先生にLGBTQについて知っていただくために、LGBTQアドバイザーによる「学校現場におけるLGBTQの理解、実際にLGBTQに取り組んでいる学校の事情」といった内容を対象者に応じて講演していただいております。

生徒さんの強制カミングアウトにならないよう今後も続けていきたいと思っています。
素晴らしい取り組みだな。

制服を売って終わるのではなく、その後までサポートするのはあっぱれだぜ。

学生制服の「これから」について

今後も制服はどんどん変わっていくんだろうなぁ。
「ジェンダーレス制服」も拡大していますが、コロナ禍になってから「抗菌素材」の制服も増えてきています。
時代によって少しずつ変化してるんだな…。
時代背景によって課題は変わってきます。生徒さんが心地よく着られる制服を常に目指していきたいと思っています。
よくSNSで「男性用のスカートもあるべきだ」という意見を見かけるけど、今後どうあるべきなんだろうな。
制服に限らず、ファッションとして男性がスカートをはくことが一般的になると違ってくると思います。性的マイノリティの男性が「スカートを選択すること=カミングアウト」に繋がることが、なかなか浸透しない理由だと思っています。
女性のパンツスタイルは一般的だが、男性のスカートスタイルはあまり見かけないもんな。制服だけが変わっても、普段のファッションにおいても変化が起きないとなかなか行動に移せないかもしれないな。
今後の商品開発を進めることにおいて、まだ課題はあると思っています。

性的マイノリティの生徒だけでなく、時代背景によって生徒が抱えている悩みも違ってくるので、これからも時代を捉えながら真摯に制作していきたいと思っています。
ジェンダーレス制服をきっかけに、「ファッションの当たり前」が変わっていくといいな。

時代を感じる…!制服の歴史を漫画化

今回の取材先:
株式会社トンボ
1876年創業の老舗学生服メーカー。品質にこだわり、ブランド独自の基準=「トンボ品質」を設定し、生徒の着心地のよさを徹底追及した制服が評価されている。制服だけでなく体育着やスポーツウェア、介護・メディカルウェアの製造・販売も行っている。
取材・文/ドアふみ
撮影・ドアふみの手伝い/編集部
漫画/ぐっちぃ