旧車ブームを牽引しているのが日産のスカイラインシリーズ。その中でもGT-Rは、50年を超える歴史を持ち、現在でもその名前を残している(写真:日産自動車)

近年、国産旧車の中古車価格が高騰している。高価な旧車といえば、ちょっと前であればメルセデス・ベンツやポルシェ、フェラーリやランボルギーニといった輸入車というイメージが強かった。だが、ここ数年で国産車、とくに1980年代以降に生産されたスポーツカーを中心に、販売価格がうなぎのぼりに上昇している。しかも国内だけでなく、欧米など海外でも1000万円を超える高値で取引されているモデルさえある。


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まさに、国産旧車市場におけるバルブ景気とさえいえる今の現象は、一体なぜ起こっているのか。また、どのような車種に人気が集まっており、価格上昇などの傾向は今後も続くのか。旧車市場の事情に詳しい、カレント自動車の広報担当者である菊地健秀氏に話を伺った。

カレント自動車の旧車王とは

まず、今回取材したカレント自動車について簡単に紹介しよう。2000年に創業した比較的新しい自動車買取業者で、もともと輸入車の取り扱いがメインだったが、周辺事業となる旧車の買取事業も20年以上の実績を持つ。

ビジネスの特徴は、リアルとITを融合したサービス展開だ。リアル店舗は自社ショールーム「ガレージカレント」の1店舗だけで、主にインターネットで顧客からの売却依頼を受ける。例えば、旧車買取については、「旧車王」という旧車専門の買取サービスを行うインターネットサイトを運営し、車両の売却希望もサイトから受付する。実際の査定は、専門の鑑定士が無料出張で顧客の車両保管場所へ向かい実施。商談が成立すれば車両を引き取り、オークションで売却するか、自社ショールームで販売するという形態を取っている。

どんなクルマが価格高騰しているのか


そんなカレント自動車で、近年、買取価格が急激に高騰しているというのが、主に国産スポーツカーの旧車だ。まずは上の表をご覧いただきたい。

これらは、カレント自動車で取り扱いをした国産旧車の中で、買取価格が高い車種の例だ。なお価格は、個々の車両状態はもちろん、グレードによっても変わるため、あくまで参考値としてみていただきたい。また、買取時の価格なので、実際に次のオーナーへの販売価格は、中間マージンや修理費などが加わるため、さらに上がるケースが一般的だ。


旧車を知り尽くしたカレント自動車の広報・菊地氏(筆者撮影)

同社広報の菊地氏によれば、「2年ほど前から価格が急騰した車種の例」だという。主に1980年代から2000年前半にかけて生産されたスポーツカーがほとんどだ。菊地氏は、「なかでも日産スカイラインのスポーツグレードであるGT-Rは、表にある(1999年発売の)R34型や(1989年発売の)R32型だけでなく、それ以前に生産されたモデルも価格が上がっている」という。


ハコスカという相性で今も愛され続ける初代スカイラインのGT-R(写真:日産自動車)

とくに1969年発売のスカイライン初代モデル(通称ハコスカ)や、1972年発売の4代目(通称ケンメリ)をベースとしたGT-R仕様は、従来から価格は高めだったが、「近年は業者間の取引相場で3000万〜4000万円になる」という高騰ぶりだ。


ケンメリという愛称で親しまれた4代目スカイライン。GT-Rとしては2代目となる(写真:日産自動車)

理由は、稀少性の高さだ。例えば、同社が過去に買取した車両の中には、「10年以上車庫に眠っていて、故障して不動車だったケンメリのGT-Rに400万円以上の値がついた」事例もあったそうだ。菊地氏によれば、「とくに、ケンメリGT-Rは稀少性が高く、400万円を超える買取価格に修理費用が加わったとしても再流通が可能」だという。

国産スポーツカー価格高騰の理由

こうした古い国産スポーツカーの中古車価格が高騰している理由について、菊地氏は以下のような理由を挙げる。

『1.アメリカの25年ルール』『2.スポーツカーの生産自体が減ってきている』『3.RX-7の高騰はロータリーエンジン搭載車が現行モデルにないため』『4.(ハコスカ、ケンメリなど)もともと高かった旧車の希少性がさらに増している』『5.コロナ禍で趣味にお金を使う人が増えた』『6.ガソリン車に今後乗れなくなると思っている人が増え、今憧れの旧車を手に入れておこうと考える人が多い』


アメリカの25年ルールで高騰したR32型のスカイラインGT-R(写真:日産自動車)

これらについて菊地氏は、具体的に次のように説明する。まず、1のアメリカ25年ルールを簡単に説明すると、いわゆるクラシックカー登録制度のことだ。アメリカは、基本的に右ハンドル車の輸入を認めておらず、日本車やイギリス車などは国内で登録できない。だが、製造から25年を経過した車両は、右ハンドル車もクラシックカーとして認められ、現地の安全基準や排ガス規制なども対象外となるため、輸入が可能となる特例ルールがある(厳密には州によって異なる)。菊地氏は、この制度により、「近年アメリカの愛好家向けに、日本の名車と呼ばれる旧車も海外流出することが多くなった」ことが、稀少性や価格を高める要因のひとつになっているという。

2について菊地氏は、「各自動車メーカーの現行ラインナップに設定される、スポーツカーの割合が減っていること」も要因だという。最近は、スポーツカーに限らずMT(マニュアルトランスミッション)車が減っているが、かつてのスポーツカーはMT車がほとんど。アクセル、ブレーキ、クラッチの3ペダルに、マニュアルシフトを操ってクルマを自在に操る感覚を楽しみたい愛好家が、旧車のスポーツカーを選ぶ傾向にあるという。


ロータリーエンジンを搭載し、一斉を風靡したマツダRX-7(写真:マツダ)

3については、先に紹介した表のようにマツダRX-7、とくに1991年発売の3代目FD型の買取価格が近年、最高で1000万円程度に高騰している要因についてだ。このモデルは、かつて数々のレースでもマツダに勝利をもたらしたロータリーエンジン搭載車。軽量かつ高出力が魅力のこのエンジンは、当時マツダ車の代名詞だったが、現在は厳しい排ガス規制をクリアできず、搭載車はない。だが、「いまだにマツダ愛好家の間では、ロータリーエンジン信奉者も多く、それがRX-7の価格高騰の背景にある」という。

4は、これも先述したハコスカやケンメリといったスカイラインの古いモデルをはじめ、元来から価格が高かった旧車の需要がより伸びたことで稀少性も上がり、さらに価格が上がっているということだ。1980年代以前に生産された国産名車の値段が高騰していることも、国産旧車の全体的な価格押し上げに関連しているという。

5については、コロナ禍により、例えば、「海外旅行などに行けなくなったかわりに、趣味として国産旧車を購入するユーザーが増えた」ことも要因のひとつだという。とくに富裕層には、ビンテージカー収集の愛好家も多く、旅行などそのほかの楽しみができないぶん、クルマによりお金をかける傾向にあるという。

6については、近年の話題になることが多い「クルマの電動化」も大きく関係しているということだ。カーボンニュートラルに向けた排ガス規制などの規制強化で、国内外の自動車メーカーは新型車にEVを市場投入する方向へ大きく舵を切っている。そうなると、ただでさえ数が減っているスポーツカーで、ガソリンエンジンを搭載するモデルはほぼ乗れなくなる。そこで、「今のうちに憬れの旧車を手に入れておこう」といった市場の意識が大きく働いていることも要因だという。

スポーツカー以外で注目、ランクル価格高騰の理由

菊地氏は、これらの要因がさまざまに重なりあうことで、人気が高い国産の古いスポーツカーの価格が急激に上がっていると分析する。ただし、これも先の表で紹介した、SUVモデルのトヨタ・ランドクルーザーについては別の要因があるという。それは、近年のアウトドアブームだ。


1951年発売の初代ランドクルーザーにあたる、トヨタ・ジープBJ型(写真:トヨタ自動車)

ランドクルーザーは、初代モデルが1951年に発売され、70年以上続くトヨタのロングセラーモデル。最近人気が高いクーペ的スタイルのSUVとは一線を画し、本格的な悪路走行性能を備えたクロスカントリー車的な装備が世界的に人気だ。2021年に発売された最新モデルの300系も依然として市場の支持は厚く、新車オーダーから納車までは4年程度の待ち状態だ(2022年19月19日次点)。


今も高い人気を誇る1980年発売の60系ランドクルーザー(写真:トヨタ自動車)

ランドクルーザーの旧車では、とくに1980年発売の60系や1989年発売の80系が人気で、価格が高騰している。この要因について、菊地氏は「今までクルマに興味がなかった層が、レトロでアウトドア的雰囲気を持つ外観のクルマに憧れて、購入する例が増えた」という。つまり、国産スポーツカー愛好家のような、昔からのクルマ好き以外の層からの需要が伸びたことが、価格高騰につながっているというのだ。

国産旧車高騰、今後の行方


今後の国産旧車の動向を語る菊地氏(筆者撮影)

菊地氏は、近年のような国産旧車の価格高騰について、あくまで私見と断りつつも、「今後の動きは不透明なものの、現在はバブル景気のようなものと考えられ、弾けたら下落する可能性は十分にある」という。理由は、「価格上昇に限界があるのはどんな市場でも同じで、国産旧車の分野でも、いつか止まるときがくる」からだ。

また、近年の国産旧車に対する急激な需要増は、タマ数不足の恐れもある。再生産されることがない旧車は、基本的に販売台数分しか市場に存在しないため、台数に限りがあるからだ。その点について、菊地氏は、「自動車メーカーも旧車を大事にしていく風潮が直近であるため、これまでと比べると(タマ数の減少は)緩やかになる可能性もある」という。

菊地氏のこうした分析は、近年、各自動車メーカーが、いわゆる名車と呼ばれる車種について、純正部品を復刻販売する動きが背景にある。例えば、トヨタでは、1960年代の名車「2000GT」や1980年代の「AE86型(カローラレビン・スプリンタートレノの型式名)」などの純正部品を復刻販売しはじめた。ほかにも日産は、スカイラインGT-RのR32型やR34型など、マツダは1989年に登場したオープンスポーツ「ロードスター」の初代NA型やRX-7、ホンダは1990年代に生産した軽自動車のオープンカー「ビート」などの部品を復刻販売している。

従来、国産車は「生産終了から10年を過ぎると純正部品が手に入りづらくなる」といった傾向があり、旧車愛好家は部品入手に苦労が多いといわれてきた。現在は、まだ一部の名車に限られてはいるものの、メーカーのこうした取り組みにより、部品が復刻される車種が増えれば、廃車になる旧車も減る。そうなれば、タマ数の減少にもある程度の歯止めがかかるというのだ。


カレント自動車で買い取ったケンメリGT-R(写真:カレント自動車)

ちなみに前出の車庫で10年以上埃を被り、不動車ながら400万円以上の値が付いたケンメリGT-Rは、所有者が逝去し、遺族からの要請で買取をしたという。菊地氏は、「最近は、こうした遺族から依頼を受けるケースも増えている」と語る。少子高齢化という日本の社会問題は、近年の旧車市場にも少なからず影響を与えているようだ。

また、菊地氏は、「最近は、コロナ禍で資金的に苦しくなり、長年乗ってきた古い愛車を手放すケースも多い」という。先が見えない昨今の状況下で、さまざまな要因が絡み合う国産旧車の市場だが、現在の活況がいつまで続き、どう変化していくのか、今後の動向に注視したい。