どうすれば私たちは、孤独の苦しみから逃れられるのでしょうか(写真:jessie/PIXTA)

コロナ禍をきっかけに「孤独」に注目が集まっています。2035年には、日本人の約4割が独り暮らしになるという衝撃のデータも。そもそも、日本人は世界の中でも孤独からくる寂しさを覚えやすい民族だと語るのは、「幸福学」の第一人者で、慶應義塾大学大学院教授の前野隆司氏です。では、どうすれば私たちは、孤独の苦しみから逃れられるのでしょうか。そのための「3つの考え方」について、前野氏の著書『幸せな孤独 「幸福学博士」が教える「孤独」を幸せに変える方法』より一部抜粋、再編集してお届けします。

孤独による苦しみを感じやすい日本人

慶應義塾大学大学院で幸福学を研究している前野隆司です。私は、人の「幸せ」について、心理学、統計学をベースに研究しています。私が最近、関心を持っているのが「孤独」です。

コロナ禍をきっかけに、日本では老若男女を問わず「孤独」な人が増えているという調査結果がニュースになりました。2021年2月、内閣に「孤独・孤立対策担当大臣」が新設されたのも、その影響でしょう。人々を孤独から救わなくてはいけない、ということです。孤独をテーマにした記事もよく見かけるようになりました。

そもそも日本人は、孤独による苦しみ、悲しみに陥りやすい民族であるということをご存じでしょうか。その理由のひとつは遺伝子です。あなたは、幸せホルモンと呼ばれる「セロトニン」という脳内物質のことを聞いたことがありますか? セロトニンが分泌されると心が穏やかになり、ものごとを前向きに捉えることができます。

このセロトニンを分泌する能力は遺伝子によって異なり、セロトニンを多くつくれるタイプがL型、多くつくれないタイプがS型。細かく分けると、LL型、SL型、SS型の3つに分類され、日本人の約8割は、このS型(SL+SS)です

独りで暮らすことは、ただでさえ、不安を感じやすいものです。さらに、日本は「空気を読む」という言葉に代表されるように、同調圧力の強い社会です。周囲の家族連れや、友人・知人の多い人と自分を比較して、寂しさを感じやすい状況にあるといえます。

S型の遺伝子を持った人が孤独に陥ると、必要以上に不安になったり、疎外感を覚えたりする恐れがあります。これからは、S型のことを、孤独感を増す恐れのある「ぼっち遺伝子」と呼んでもいいかもしれません。

日本では、独りで暮らす人たちが確実に増えてきています。それは生涯未婚率や単身世帯数の推移を見てもよくわかります。独り暮らしが孤独感をつくる大きな要因であることは間違いありません。

日本の生涯未婚率(50歳時点で一度も結婚していない人の割合)が高くなり始めたのは、1990年代以降のことです。

2017年の『少子化社会対策白書』によると、1980年 男性2.6% 女性が4.45%、2017年 男性23.37% 女性が14.6%。

さらに、国立社会保障・人口問題研究所の推計では、2030年 男性29.5% 女性22.5%。つまり、男性は3人に1人、女性は4人に1人が生涯独身の時代を迎えるというわけです。

単身世帯数に関しては、1980年の総世帯数に占める割合は19.8%でしたが、 2010年は32.4%、2035年には37.2%が独り暮らしになると推計されています。

人生の選択肢として結婚を選ばない人たちが増えてきているのは事実です。経済的な問題もありますが、少子化でわかるように子どもを産むことに消極的な風潮もあります。何のために結婚するのか。それを男性も女性も自問自答するのが今の時代なのかもしれません。

世界には、すでに日本を超える単身世帯数の国もあります。ノルウェー、デンマーク、ドイツなどは、単身世帯数が4割近くに達しています。それでも、孤独が社会問題化しないのは、友人や職場の同僚、あるいは隣人などと過ごす時間が非常に多い国だからです。

その点、日本は不安を抱かざるをえません。OECD(経済協力開発機構)が2005年に調査した結果を見ると、日本人では、友人や同僚など他人とほとんど付き合わない人の割合は15.3%でした。平均の6.7%と比べて倍以上の数字です。ドイツ3.5%、アメリカ3.1%、オランダ2.0%と比べると、日本人の人付き合いの少なさがよくわかります。

「孤独」なのに幸せな人は確かにいる

日本人の「孤独」を取り巻く状況を冷静に見ると、悪い未来しか見えないように思うかもしれません。

しかし、私の研究室で行った幸福学の最新研究では、孤独=不幸と、単純に決められないことがわかってきました。例えば、私の知人には、長年独り身なのに幸せそうに生きている人がいます。

Aさんは、大学の研究所で勤める50代の女性です。彼女を見ていると、「孤独」という言葉からネガティブなイメージはまったく浮かんできません。

専門職としてキャリアを積み上げてきた彼女ですが、今のところパートナーはおらず、本人によると友人も少ないそうです。それでも、彼女が幸せそうに見えるのは、仕事が充実しているからだけではなく、誰に束縛されることなく思うままに生きているからです。

彼女は、行ってみたい、見てみたい、食べてみたい場所があると、国内であれ、海外であれ、すぐに出かけていきます。目的が一致するときは数人で行動することもあるようですが、独りだからという理由で出かけないことはありません。誰かと一緒に行動するのは、彼女にとってオプションの1つにすぎません。

彼女は人生のどこかの段階で「独りで生きる」ことを肯定的にとらえたのだと思います。言ってみれば、積極的に孤独であることを選んだということです。

私の知人で、バス事故で娘を亡くされたBさんは、1年も経たないうちに「娘の死を無駄にしません」としっかり前を向いて生きています。

夫を交通事故で亡くし、その1カ月後に東日本大震災で9歳だった一人息子を亡くしたCさんは、「夫といい家庭を築けた。子どもを授かり9年間一緒に過ごせた。この思い出がこれからの私を支えてくれると思います」とやはり前を向きます。

50年連れ添った妻を亡くしたDさんは、趣味の油絵を楽しみながら、独りで静かな毎日を送っています。

大切な人を失ったときに、ふつうの人なら2、3年、もしかすると10年以上も苦しみの中にいても不思議ではないと思います。しかし、Bさんも、Cさんも、Dさんも、寂しさや悲しみが消えることはないと口にしますが、それと同時に幸せを感じることも多いといいます。そこに、孤独から連想される絶望感はどこにもありません。

幸せをもたらす「3つの考え方」

なぜ、孤独なのに幸福な人がいるのか?

幸福学では、日本だけでなく世界にも目を向け、「孤独」に関して学会で認められている論文を収集。その内容を分析したところ、「幸せな孤独」を実現している人々に共通する傾向として、3つの要素が浮かび上がってきました。

1.うけいれる
2.ほめる
3.らくになる

学問的な表現で言えば、うけいれる=自己受容、(自分を)ほめる=自尊心、らくになる=楽観性、という要素に当たるのですが、ここではわかりやすさを優先し、あえて上記のような表現にしています。以下、詳しくご説明します。

1.「うけいれる」(自己受容)

孤独に悩んでいる人は、独りぼっちである、友だちがいない、人に声をかけられないなど、マイナスだと思っているところばかりに目を向ける傾向があります。そんな自分をゆるして「うけいれて」あげることです。

2.「ほめる」(自尊心)

ここでの「ほめる」は自分をほめるということです。孤独による苦しみから抜け出せない人にとっての大きな問題は「自分には魅力がないから孤独なのだ」という誤った思い込み、悪い心のクセでしょう。周囲に人がいる、いないといったことは、必ずしも人間的魅力と正比例するものではありません。自分の魅力を再発見し、「ほめる」ことができれば、幸せがぐっと近づきます。

3.「らくになる」(楽観性)

「まあいいか」と物事を深刻に捉えない考え方は、孤独に悩んでいる人にとって、最もハードルが高い要素かもしれません。しかし、「うけいれる」で自分のいいところも悪いところも認め、「ほめる」で自分のいいところを伸ばす、という段階を踏んでくると、思っているほど高いものではなくなるでしょう。


「3つの考え方」は誰でも身につけることができます。なぜなら、あくまで物事をどう捉えるかという、感じ方の問題にすぎないからです。3つの考え方は、簡単なレッスンを日々続けることで身につきます。

そもそも、孤独が「不幸」だと誰が決めつけたのでしょうか。

ドイツの哲学者、ニーチェは次のような言葉を残しています。

「孤独を味わうことで、人は自分に厳しく、人に優しくなれる。いずれにせよ人格が磨かれる」

独りでいることは、他人に振り回されず自分を磨く時間がたっぷりあるということです。

未来の日本では、「孤独」が否応なしに身近に迫ってきます。人とのつながりを増やすことも重要ですが、「孤独」の有益性にも改めて目を向けたいものです。