それぞれの正義が交錯…巧みな脚本・演出・芝居が集結した、映画『さがす』

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『パラサイト半地下の家族』で知られるポン・ジュノ監督の『母なる証明』(’09年)や、『花より男子ファイナル』(’08年/石井康晴監督)、『味園ユニバース』(’15年/山下敦弘監督)等、様々な作品に助監督として参加し、自費製作による長編映画監督デビュー作『岬の兄妹』(’18年)が複数の映画賞を受賞した片山慎三監督による初の商業映画作品が『さがす』だ。

主演は20年前に片山監督が制作スタッフとして参加したドラマ『アイノウタ』(’02年)に出演していた佐藤二朗。佐藤は撮影当時21歳だった片山監督に対し、「右も左もわからぬいわゆる“使い走り”だが、発想や発言がおもしろい」という印象を抱いていたという。片山監督は本作を製作するにあたり、佐藤に主演をオファーする手紙を送り、そこに添えられた脚本に惹かれた佐藤は出演を快諾したのだとか。

その佐藤が演じるのは、大阪の下町で中学生の娘・楓とふたり平穏に暮らす原田智。ある日、彼は楓に「指名手配中の連続殺人犯を見た。捕まえたら懸賞金の300万円がもらえる」ということを伝える。楓は父のいつもの冗談だと思い相手にしないが、翌朝、智は姿を消す。そこから楓の父捜しが始まり、父の名前で日雇いの仕事をする指名手配中の連続殺人犯・山内照巳とおぼしき姿を見つける…。

とにかく見どころの多い作品だ。『岬の兄妹』でも見せた、どこかユーモラスな人間味を漂わせながらも、現代社会の闇と人間の本質をえぐりとるようなドラマを描く片山監督の手腕。おかしみと親しみやすさを感じさせながらも何を考えているかわからない凄みを背負う智役の佐藤二朗。愛する父を捜すために、連続殺人犯かもしれない謎の男に物怖じせず向かっていく楓を演じるのは伊東蒼。『湯を沸かすほどの熱い愛』(’16年)で子役として鮮烈な印象を与え、多くのメディアで2021年の年間ベストに入った傑作映画『空白』やNHK連続テレビ小説『おかえりモネ』といった作品でどんどん輝きを増している16歳だ。そして、静かな狂気を発する連続殺人犯・山内照巳を演じるのは『渇き。』(’14年)のいじめられっ子役で注目され、近年『東京リベンジャーズ』(’21年)や『おかえりモネ』といった作品で存在感を高めている清水尋也。巧みな脚本、演出、芝居…確固たる才能が集結し、死生観、親子関係、倫理観といった人が生きる上では避けて通れない問題を内包し、登場人物それぞれの正義が交錯しながら物語が進んでいく重層的な映画作品が生まれた。必死で父を捜す楓に警察官が「君はいったい誰を捜しているの?」と問いかけるシーンがあるが、視聴者自身の価値観をも問うような強烈な余韻が残る作品でもある。

片山監督はポン・ジュノ監督作品等で韓国の撮影現場を経験したことで「日本の映画監督に足りないのは時間」という持論を抱くようになり、『さがす』はこの規模の作品では異例の約2か月という撮影期間が設けられた。それによりひとつひとつのシーンに多くの時間がかけられ、丁寧な作品作りができたという。そういった日本映画の現状に危機感を持ち、業界全体を底上げし未来に繋げようという気概も『さがす』には宿っている。

『さがす』 ある日、父は娘に「お父ちゃんな、指名手配中の連続殺人犯見たんや。捕まえたら300万もらえるで」と告げて姿を消す。監督・脚本/片山慎三 出演/佐藤二朗、伊東蒼、清水尋也ほか 1月21日より全国順次公開。©2022『さがす』製作委員会

※『anan』2022年1月26日号より。文・小松香里

(by anan編集部)