人の体内には様々な部分で異常を検知し対応する機能があります。そして、宇宙空間では、飛行士は一時的に貧血状態になりやすいことが知られています。これは、無重力状態では体液が上半身に流入(体液シフト)して多血状態になることへの対応として、赤血球の破壊(溶血)によって血液を薄め、血液量を減らすため。ですが以前のNASAの研究では、それは15日程度の一過性のものとされていました。
しかしオタワ大学のGuy Trudel博士は、カナダ宇宙庁の飛行士14人を対象にした研究から、それが宇宙空間にいる限り継続する問題であるとわかったとのこと。
地上では、人の体内では1秒間に約200万個の赤血球が壊れては新しいものと入れ替わっていますが、6か月の長期滞在を行っている飛行士の体内では、これが1秒あたり300万個になっているのが発見され、飛行士の身体も不足を補うために赤血球の産生ペースを上げて対処していました。
しかし、人の身体が、ペースアップした赤血球生産状態を恒久的に続けることができるのかどうかはわかりません。火星への往復ミッションにはおよそ2年の月日が必要になるとされており、Trudel博士は「もしその間に飛行士の赤血球の生産能力が枯れてしまったら、大変なことになる」と述べています。
博士は、仮に宇宙空間で赤血球が少なくなったとしてもそれほど問題ではないとしました。しかし、重力のある地球または他の惑星に降り立ったとき、貧血状態では飛行士に倦怠感を覚えさせ、体力や持久力に影響する可能性があるとしています。
博士ら研究チームがNature Medicineに寄せた研究によると、帰還して1年を経ても、飛行士の体内の赤血球レベルは、宇宙飛行前の状態には完全には戻っていなかったと報告されています。
その原因と言えるような確たる証拠は見つかっていませんが、博士は病気で数か月間寝たきりの状態の患者についての研究でも同じような症状が現れている可能性があるとし「片方の解決策は、もう片方にも適用できるかもしれない」と述べています。
ちなみに2017年9月に科学誌「BMC Hematology」に掲載されたNASAジョンソン宇宙センターの研究では、軌道上滞在中に飛行士から採取保存した血液サンプルを分析した結果、フライト開始以降の赤血球、血小板や酸素運搬タンパク質ヘモグロビンの濃度はフライト前に比べ継続して高い状態が続き、血液中に占める血球の体積の割合も軌道上では増加状態にあったとされています。
しかしこの研究では、地上への帰還後はいずれのパラメーターも30日以内に正常値に戻ったと報告されています。
Source:Nature Medicine
via:CBC