【不思議すぎる!】身近に潜む「そっくり生物」の世界

見た目はそっくり。だけど中身は“完全な別物”。系統的には無関係な生物がお互いに似通った姿に進化する「他人のそら似」のような現象が生き物の世界ではよく起こります。そして、そうした「そっくり生物」は私たちの身近にもたくさん潜んでいます。気付かぬうちに私たちも巻き込まれているこの生物界の不思議。この現象は一体どうして生じてくるのでしょうか? 人気YouTube企画「ゲームさんぽ」にも登場した気鋭の生物学者チーム「ゆるふわ生物学」さんに教えてもらいました。

【ゆるふわ生物学】
東京大学の若手生物学研究者を中心に結成されたガチ学術系YouTubeチャンネル。ゲームの中で見られる動植物を観察し、研究者目線で種の同定や現地(ゲームの中の世界)の生態系について考える動画などを公開している。

ハスとスイレンは全然違う!

編集部 さて、先日ご出演いただいた『釣りスピリッツ』の生物を観察するゲームさんぽ動画では「ハスとスイレンはそっくりだけど、実は全然別の植物だ」と教えていただきました。
ゆるふわ 漢字で書くと「蓮」と「睡蓮」で同じ字を使うし本当によく似ているんですけどね。でも違うんですよね。分類を見ると、スイレンは「スイレン目(もく)」といってジュンサイやコウホネ、オオオニバスなど、すべて水生となる植物しか含まれないグループなんです。それに対してハスは「ヤマモガシ目」。街路樹によく使われるプラタナスや、ナッツの美味しいマカダミアなんかが含まれる、どっちかというと水生植物は珍しいグループに分類されるんです。
ハス(ヤマモガシ目ハス科ハス属ハス)© Prenn(Licensed under CC BY 4.0)
スイレン(スイレン目スイレン科スイレン属セイヨウスイレン)© Ikonorex2(Licensed under CC BY 3.0)
プラタナス(ヤマモガシ目スズカケノキ属スズカケノキ科植物の総称)© lamiot(Licensed under CC BY 3.0)ハスとスイレンを見分けるポイントは、葉っぱの切れ込みの有無と(切れていたらスイレン)、蜂の巣のような形の「花托」が花の真ん中にあるかどうか(あったらハス)などが代表的。
編集部 へー!プラタナスなんてすごく大きくなる木じゃないですか。見た目のほぼ同じスイレンよりも街路樹に近いなんて…。
ゆるふわ ちょっと詳しく言うと、スイレン目って実は今生きているすべての被子植物の中で2番目に枝分かれした、めちゃくちゃ起源の古い系統の植物なんです。一方ハスに続く系統では、スイレンが分岐した後にモクレンの仲間や単子葉類などなど、たくさんの系統が枝分かれしています。なので進化学的に見ると、ハスはスイレンよりもほかのほとんどの被子植物に近いんですよね。つまりハスとスイレンは同じような姿にたどり着いてはいるものの、起源は全く違って、実はだいぶ違うルートを辿ってきているんです。「水上に大きな円形の葉っぱを広げること」が、水辺で生きる上で適していたのでしょう。
ゆるふわ ちなみに、こういうトゲトゲした植物は見たことありますか?
© Nova(Licensed under CC BY 4.0)/Public domain
編集部 これは…。普通にサボテンの一種に見えます。けど、この流れで出してくるということは、きっと違うやつなんですよね?
ゆるふわ そうなんですよ。上のはサボテンにしか見えないと思うんですが、ユーフォルビアという別の植物です。「サボテン」というラベルをつけて売られていたりするので、サボテンだと思って家に置いてる人も結構多いんじゃないかと思います。ユーフォルビアが何か説明するとめんどくさいので、わかりやすいように書いたんでしょうね。
編集部 ユーフォルビアってサボテンと何が違うんですか?
ゆるふわ まずは原産地が違います。実はサボテンは、ごく一部の例外を除いてアメリカ大陸にしか自生していない植物。もしユーラシア大陸やアフリカの自然下でサボテンのような植物を見かけたら、まずそれはサボテンではないと考えていいですね。見た目の違いとしては、刺の根元から毛が生えているいうポイントで判別できます。サボテンの刺の根本はだいたいフサフサしてるんですよ。
花の咲いたサボテン
編集部 フサフサしてたらサボテン、ですね。覚えました。孫の代まで語って伝えます。
ゆるふわ あとは、花が咲いたら花の構造も違いますね。サボテンの花びらはれっきとした「花弁」ですが、ユーフォルビアの花びらに見えるものは花弁ではなく「苞(ほう)」といって、葉っぱが変化したものです。乾燥地に適応したサボテンとユーフォルビアはどちらも葉っぱを小さくすることで水分の蒸散を防ぎ、太い茎に水分を蓄える形なのでパッと見そっくりなんですが、これもそれぞれ起源は全く違う系統なんですよね。

首長竜は「恐竜」じゃないんだよな

編集部 なるほど……。こういうひっかけ問題というか、生物学のすごく紛らわしい話としては『釣りスピ』動画の中で「首長竜は実は恐竜とは呼べない」なんてお話もありましたよね。
ゆるふわ そうそう、恐竜というのは一般に思われているよりも限定されたものを指すんですよね。フタバスズキリュウは「首長竜」だけど、「恐竜」ではない。こんな感じで、生物についての一般的なイメージが、実際の進化的な関係に反している例はたくさんありますね。たとえばレタスとキャベツとかもよく似たような野菜だと思われていますが……。
編集部 「とりあえずこれ食っときゃ野菜ちゃんと摂ってる感出る野菜」のツートップ!どちらも似たような形ですが、やっぱり違う……?
ゆるふわ レタスはキク科でキャベツはアブラナ科なので、だいぶ遠いです。系統から言えば、キャベツはレタスよりもむしろブロッコリーに近いし、レタスはキャベツよりもタンポポと近い。
編集部 でも確かに、キャベツとブロッコリーって焼くと似たような匂いがするかも?
ゆるふわ 匂いでは考えたことなかったですが、そうかもしれないですね。そんな感じで、進化的な近さ/遠さが表面的な印象を裏切っている場合でも、よく考えてみるとやっぱりどこかに共通性があることが多いです。
編集部 じゃあ、あながち「何となく似てる」の理解もバカにはできないというか。
ゆるふわ そうですね。“直感”、大事だと思います。実際の研究においても、そこから新たな発見につながる可能性もありますね。

「似ている」ことへの気づきは進化の原理を学ぶ第一歩になる

編集部 でも、さっきのユーフォルビアとかはサボテンだと思い込んで見ている人も多いですよね? そういう人を見かけたときってモヤモヤしたりしないですか? 心の中で「(ちげーんだよな〜…!)」って思ったり。
ゆるふわ まあ、教えたくはなりますよね(笑)。というか、植物園でそういう子どもを見たら話しかけたりします。「えへへ、実はこれユーフォルビアって言ってね…」と、諸々解説してあげる。
編集部 (心の中じゃなかった……。)
ゆるふわ でも間違っていようがなんだろうが、「似ているな」って気づきがあるというのは、それだけですごく面白いことだと思います。サボテンとユーフォルビアを混同してたとしても、モヤっとするよりは「似てるよね?そうだよね!?いいとこに気づいたね??」という感じで、嬉しくなりますね。

「「似てるけど違うんだよ」って言ったら「じゃあなんで似てるんだろう」って疑問に繋がるし、そこからさらに、環境と生物の進化の関係を考え始めることができる。相手が子どもじゃなく大人の方でも話かけちゃうんですけど、仕組みを話すと「ヘェェ!面白いねぇ!」と、ちゃんと興味をもって聞いてくれます。「似ている」というのは科学的な探究のとてもいい入り口になるんですよ。

ある意味、違うもの同士が似ていることへの気づきは偉大な発見の第一歩です。だって、その生物は「こうなろう」とか何も考えてないのに、進化の結果そっくりな形に辿りついてしまったわけですよ。そこには進化のすごさが垣間見えていると私たちは思っています。「収斂進化」って言葉は知っていますか?
編集部 しゅうれんしんか?
ゆるふわ そう、収斂進化。今お話してきたみたいな「似ている」を生み出す進化のメカニズムで、私たちが大好きなテーマです。いや、私たちがというより、進化学をやっている生物学者全員の大好物です。本当に知らないですか?
編集部 いや、知らないけどすごそうですね……。詳しく教えてください!

「収斂進化」、それは進化学者の大好物

ゆるふわ サボテンとユーフォルビアの話でもいいんですが、説明でよく例に出されるのは有袋類というグループの哺乳類です。有袋類はわかりますよね?
編集部 わかりますわかります。カンガルーの仲間の、お腹に子育て用のポケットがあるかわいい奴らです。
ゆるふわ いいですね。有袋類にはフクロモモンガ、フクロネズミ、フクロオオカミという種類がいるんですが、これらは名前の示す通り、袋がない普通のモモンガやネズミなんかにそれぞれ似た姿・生態をしていることからそう名付けられた動物たちです。でも系統的には、オーストラリアやニューギニアに分布するフクロモモンガは有袋類で、ほかの地域のモモンガの仲間は有胎盤類という、哺乳類の中でも古い時代に分かれた系統にそれぞれ含まれているんですね。こういう「血縁とは関係なくそっくりな姿になる進化」のことを収斂進化といいます。
モモンガの仲間(有胎盤類齧歯目リス科モモンガ属)© Rudolphouso(Licensed under CC BY 2.0)
フクロモモンガ(有袋類双前歯目フクロモモンガ科フクロモモンガ属フクロモモンガ)© מנחם.אל(Licensed under CC BY 2.0)
編集部 おー…あれ? さっきのハスとスイレンもそんな話でしたよね?
ゆるふわ よく気づきましたね!そうなんです、実は今日は最初からほとんど収斂進化の話しかしていません!
編集部 え、なんか怖い…。
ゆるふわ 言ってみればハスもモモンガもサボテンも、地球の歴史上、別々の場所で2回生まれたようなものですよね。それで、なんで私たちがそれを大好きなのかと言うと、収斂進化を見つけると、いろんなことがわかるからです。

たとえば哺乳類であるイルカがなんでヒレを持っているかを考えると、「それは水中での泳ぎに適しているからだろう」と思いますよね。でもそうだろうと思うだけでは証拠がない。それを科学的に証明する方法の一つが同じような例をいくつも並べて提示することなんですね。

血縁的には全く関係ない生き物がいて、似たような環境で生活する。その結果、似たような形を獲得していった。そんな事例がいくつも見つかるなら、そこに進化の「法則」があると言ってよい。そういう話です。
編集部 なるほど。考え方は理科で習った実験と同じですね。条件を揃えて再現性を確認できることが大事だという。
ゆるふわ そういうことです!さっきのヒレの例でいうと、イルカを含むクジラの仲間のほかに、魚、ウミガメ、ペンギン、アザラシ、ジュゴンなど、水中に住んでいるさまざまな系統が独立に似たようなヒレを獲得しています。これだけ沢山の水に進出した系統でヒレの獲得が起きている。であれば、ヒレの獲得は水中での活動に適しているに違いない。
編集部 そうやって推論の確度が高まっていくと。
ゆるふわ そう。1回だけだと、偶然そうなっただけかもしれないですからね。そうやって証拠をどんどん積み重ねると「この進化はこういう理由で起きているんだ」と言えるようになります。だから、進化を研究する上では収斂進化の系を見つけるのはすごく重要なことなんですよ。
『釣りスピリッツ』にも登場するイクチオサウルス(魚竜)もイルカに収斂進化していると言える。

人間と宇宙人は収斂進化と言えるか?

ゆるふわ 『釣りスピ』の中にいたものだと、空想上の生物ですがワイバーンもおもしろいと思いました。彼らの翼は四肢動物の前肢が変形したものなので、鳥、コウモリ、翼竜なんかと収斂していると言えます。
編集部 へ〜。ウニとクリとかはどうですか?
シラヒゲウニ © totti(Licensed under CC BY 3.0)
クリ © Amazingx(Licensed under CC BY 3.0)
ゆるふわ ウニとクリはどうだろう(笑)。ウニは動物でクリは植物なので、進化学的にはめちゃくちゃ遠いですが、どちらも全方向に伸びたトゲで中の大事な実・身を捕食者から守るという機能を持っているので、その意味で収斂と言えそうではあります。そう考えると、同じようにぎっしり生えた細長いトゲで体を守っている生物はほかにもいろいろ思いつきますね。
編集部 なんだか顔の似ている有名人を探すみたいで楽しくなってきました。
ナミハリネズミ © LC-de(Licensed under CC BY 2.0)
マレーヤマアラシ © Rushenb(Licensed under CC BY 4.0)
編集部 ちなみに人間には収斂進化ってあるんですか?
ゆるふわ 人間に…?(ザワザワ)
編集部 人間と、サルとか?
ゆるふわ ああ、収斂進化は「系統的に遠いのに似ている形になったもの」について言うんです。ヒトとサルは近い系統なので、収斂進化とは言わないですね。
編集部 なるほど。じゃあ人間と宇宙人はどうですか?
ゆるふわ え…?(ザワザワ… ザワザワ)
編集部 ほらグレーの、よくいるやつです。UFOに乗ってくる。
ゆるふわ あ、あれは……明らかに収斂進化ですね!たしかに!まさにそうです!ほかの星の生物から進化しているので系統関係は一切ないはず。なのに、どちらも直立二足歩行していて、姿形も似てますね、UFOや宇宙ステーションみたいな複雑なものを作っちゃうところも、そっくりですもんね。究極の収斂進化と言えますよ!
編集部 軽い冗談のつもりで言ってみましたが意外と合っててびっくりしました(笑)。じゃあ、もし宇宙人を捕まえたら生物学者は論文書くので大忙しになりそうですね。
ゆるふわ 寝る暇もなくなるんじゃないですか?いや、楽しみだな。宇宙人、見つけたい!
宇宙人は出てこないけどいろんな生物が見つけられる最高のゲーム『釣りスピリッツ』を生物学者とやってみた動画はこちら↓ みんな見てね☆

『釣りスピリッツ』とは

全国のゲームセンターで子供たちに大人気のメダルゲーム。サオ型コントローラー通称「サオコン」を使って、魚をはじめとする様々な水生生物を釣り上げていく魚釣り体験ゲームです。

『釣りスピリッツ』公式ホームページ
YouTube公式チャンネル「釣りスピチャンネル」
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