(写真:アン・デオール / PIXTA)

部下から相談を受けたり、知人や家族から悩みを打ち明けられたりする際、タイミングよく共感しながらいいアドバイスをするのは難しい……と思っていませんか?

ですが、人はみなアドバイスを求めているわけではないというのは、トップコンサルタントとして知られる和仁 達也さんです。共感する必要も、アドバイスする必要もなく、話を聞きながらさりげなく相手の思考をスッキリと整理してあげる、相手にも自分にもメリットのある会話術について聞きました。

※本稿は和仁 達也著『プロの思考整理術』より一部抜粋・再構成してお届けします。

人はみな、アドバイスを求めていない

たとえば、上司から「君はもうちょっと丁寧に仕事をすれば、もっとよくなるのにね」などと仕事への姿勢について言われ、「上から目線で言われた!」と心を閉ざしてしまうケースは少なくありません。上司は部下のためを思ってアドバイスしていても、部下にはそれは伝わらないのです。

人は基本的にアドバイスされるのが、それほど好きではないのでしょう。

また、今は不用意にした発言や行動がネットですぐに拡散され、失敗やミスは永久に残るようになってしまいました。なにげなくした発言でも、「ハラスメントだ」と非難されることもあり、いくら注意していても、誰にも問題にされないような発言をするのは、本当に難しい。

それに、今は「頑張れと言ったら相手を追い詰めてしまう」と言われるぐらいです。悩んでいる相手を励ましたくても、元気づけたくても、どんな言葉をかければいいのか、ためらうこともありませんか? 

 コンサルタントとして大勢の人から悩み相談を受けてきた私がたどり着いた答えは、モヤモヤしている相手の思考を整えてあげる案内役に徹すればいいのだということでした。

斬新なアイデアを提案したり、アドバイスをしなくても、相手のこんがらがっている思考を整理すればいいだけ。そうすれば、相手はみるみる心を開いてくれます。相手の思考整理をするときは、共感する必要も、自分の意見を言う必要もありません。


以前、友人からある人を紹介したいと言われ、3人で食事をしたときの話です。

お酒も進んで場がすっかり和んだ頃、友人から「ちょっと、コイツの話を聞いてもらえないか。最近、なんだか元気なくて」と言われたので引き受けました。

その知人(Aさんとします)に話を聞いてみると、IT関係の会社を経営されていて、業績は順調で社員も育ってきており、仕事を安心して任せられるようになったとのこと。普通なら、思い悩むどころか順風満帆、いい状況です。

ところが、Aさんは「なんだか最近やる気が出なくて」と、ため息まじりにこぼします。

お話を聞いてみると、仕事は好調で、家族の問題もなく、健康の悩みでもなさそうです。

僕は、Aさんが何で悩んでいるのかを突き止めるために、「今はワクワクすることはありますか」と聞いてみました。

「ないなあ」
「それはどうしてですか?」
「最近は会社に行ってもすることがなくて、楽なんです」

仕事で楽できるなら、羨ましい環境ですが、本人にとってはどうやら空虚なようです。

「2、3年前はどうでしたか」
「2、3年前は、社員を教えたり問題解決で結構エネルギーを使ってましたね」
「そのころはワクワクしていた?」
「してました。会社に行くのも楽しかったし。今は、社員は自立して動いてくれているから、たまにメールで報告をもらって返事をするぐらいで。会社に行っても様子を見てすぐ帰ってくるから、手持ち無沙汰な感じです」
「会社で居場所って感じますか?」

こう僕が投げかけると、Aさんはハッとした表情になりました。このAさんのモヤモヤは、「会社に居場所がない」というのが原因でした。

そこで、

「僕も独立して10年ぐらいしたときに次のビジョンが見えなくなって元気がなかった時期があるので、今はそういう踊り場かもしれませんね」

と自分の体験談を話すと、

「それはどれぐらいで抜け出せましたか?」

と聞かれました。

「僕の場合は、次の山が見えるまでは3年ぐらいでしたね」

するとAさんは

「そういえば、会社に勤めてたときも、仕事ができるようになったら急にやる気がなくなって、モヤモヤしてた時期があったなあ。そのときは別の部署に異動になったら、元気になったんだけど」

と、何か思い当たることがあるようでした。

この話はそこで終わり、後は雑談をして会はお開きになりました。それから数日後、Aさんから「おかげで、元気が出てきました!」と感謝のメールが送られてきました。

ここまで読んで、「Aさんは、この問題をどう解決したの?」と思う方もいるかもしれません。

「悩みごとを解決して結論を出してないじゃないか」と感じる方もいるかもしれませんね。

そうです。このとき僕がしたのは悩みを解決したのではなく、「思考整理」だけです。

このやりとりの最中、僕は相手の状況を聞いて、ずっと質問を投げかけていました。自分の体験談を語ったぐらいで、アドバイスらしきことを一切していません。それでも、Aさんの気持ちはスッキリして、自分で解決策を導き出した様子です。

実際にAさんがどのようにこの問題を乗り越えたのかは、実は聞いていません。それは僕が介入するようなことではなく、Aさんが自分で考えて何らかの行動をとれば解決できると思っています。

この話の流れで僕が「会社以外に、何か趣味でも見つけたらどうですか?」などと提案したら、おそらく「そうですね」で話は終わっていたでしょう。

何も事情を知らない僕が、話をちょっと聞いただけで解決策を示したら、表には出さなくても「そんな簡単な話じゃないんだよ」と思われていたはずです。解決策を示さなくても、相手のイライラやモヤモヤが簡単に消え去る方法。それが「プロの思考整理術」です。

思考整理の際の3つのポイント

このように、相手の思考整理をする方法を、大きく4つのステップにまとめていますが、今回は、話を聞く際に注意したい3つのポイントをピックアップしましょう。

ポイント1つ目:思考を上向きにさせる

現状についてあらかた聞き出したら、次に「どうしたらいいか」と、いきなり解決の条件を考えがち。ですが、それだと「忙しくて時間がないからムリ」「お金がないから難しい」「今の自分には経験がないからできない」のように、できない理由を挙げたくなります。

意識が現状にとどまったままだと思考は停止してしまうので、いったん理想をイメージしてもらって思考を上向きにさせると、できる方法を考えるようになります。

部下との面談なら、ストレートに「どういう目標を達成したいですか?」と聞いてもいいでしょうし、クライアントに「(このタイトルに関して)どんな状態になれば理想的ですか?」のように尋ねてもいいでしょう。

「次のステージに移ったらどうなっていたいですか?」
「将来的にはどうしたいですか?」
「どうなっていたら、その問題が解決したと言えますか?」
「今より上の階層で関われるとしたら、どうなりますか?」
このように、近い未来や遠い未来をイメージするような質問を投げかけます。
「10年先の自分はどうなっていると思う?」
「100点満点の状態はどんな感じ?」

といった数字を入れると、イメージしやすくなる効果があります。

ここでも思考のクセが出て、「どうせ私にはできないし」のようなネガティブな言葉が出たら、「自分にはできないかもという思考の枠はひとまず外して、もし仮に、『今、ここで言ったことは、何でもかなう』のだったら、どうなっていたらいいと思う?」のような質問を投げかけてみましょう。それが枠を外すきっかけになります。

ポイント2つ目:自分でアンサーを出してもらう

将来を考えるような明るい話題ではなく、相手がトラブルを抱えているときであっても、理想をイメージしてもらうステップは必要です。

たとえば、部下がクライアントと揉めているような場合、現状を聞き出して、「じゃあ、解決策を考えてみよう」となったら、「相手の上司と話し合ってみる」「取引先を変える」のような目先の問題を解決する方法しか出てこないかもしれません。

それだと、部下の気持ちはそれほどスッキリとはならない気がします。
ここで「今後、クライアントとどのような関係を築きたいと思う?」と投げかけてみたらどうでしょう。


クライアントの態度があまりにひどければ「今後、一切関わりたくない」となるでしょうが、たいていは「できれば、もっと対等に接したい」「あんまり無茶なことは押しつけてもらいたくない」のような、関係を続ける前提の発言が出てくるはずです。

その発言を聞いてから、「じゃあ、どんな条件が整えば、その関係になると思う?」と聞けば、思いもよらないような答えが出てくるでしょう。

「一度、思い切って、自分が困っていることを相手に伝えてみます」
「なんでクライアントがムチャぶりばっかりしてくるのか、理由を聞いてみます」

もし、こんな発言が出てきたら、相手は自分で殻を破ったことになります。そうなれば自ら行動しようというモチベーションも生まれるでしょう。
他人から提案されたことには、反射的に否定しやすいネガティブな人でも、自分から生まれた案なら抵抗なく、前に転がり出し、動き始めます。
上司が1000の言葉を尽くして説得するより、自分で導き出した1つのアンサーで、人はエンジンがかかるのです。

ポイント3つ目:押しつけ禁止

プロの思考整理術は、本人が望まないところに強引に連れていくのが目的ではなく、望むところにいってもらうためのスキルです。だから望むものはなにかをイメージするのは重要なのですが、なかには「何が理想かわかりません」という人もいます。

今、目の前の問題を解決するので手いっぱいで、「理想とか考えてる場合じゃない」というような人の場合。

そのときは「仮に、こんな風になったらうれしいんじゃないかな?」と相手の状況を想像しつつ、誘い水を出してもいいでしょう。それが積み石になって何かをひらめくこともあれば、捨て石になって「いえ、自分が望んでるのはそうじゃなくて」となるかもしれません。

ただし、あくまでも「相手が望んでいること」であって、「自分が望んでいること」を混ぜてしまわないように。

上司が部下に対して、「もう少し仕事に積極的になれたらいいと思わない?」のように投げかけたら、誘導になってしまいます。誘導すると、相手は思考整理をできないまま終わるので、誘い水は慎重に出しましょう。