作品内で呪霊たちは恐ろしく描かれていますが、決して遠い存在ではありません。なぜなら、私たちが今生きている世界は、呪いにあふれているからです。
SNSではときどき「炎上」が話題になります。誹謗中傷に罵詈雑言。まさに呪 いのオンパレードで、多くの人たちが日々、呪いを生成しています」。
出典(「『呪術廻戦』流自分を変える最強の方法」)
人々の鬱屈とした思いも一つの「呪い」の温床。人々は「呪い」を身近に感じ、自分の中にも「負の感情」が存在するからこそ、作品が支持されたのかもしれません。
「呪い」というと、とても恐ろしくて、口にしてはいけない存在という印象を抱くかもしれません。でもよく考えてみると、「呪い」のもとは身近にあります。
それは、自分自身のコンプレックスであったりもします。 また、吐き出せずに重く積み重なった、悩みだったりもします。 『呪術廻戦』は、この部分がとてもよく表現されている作品であると、私は一読者としてずっと感じてきました」
出典(「『呪術廻戦』流自分を変える最強の方法」)
虎杖悠仁、伏黒恵、釘崎野薔薇といった登場人物が困難に立ち向かい、強くなっていく姿と、自分自身の成長と重ね合わせられるのもこの作品の魅力。
それでは、井島由佳さんの書籍「『呪術廻戦』流自分を変える最強の方法」(アスコム)より、子育てにまつわる“呪い”を祓う『呪術廻戦』の名セリフと井島さんの解説をお届けしたいと思います。
子育てにまつわる“呪い”を祓う『呪術廻戦』の名セリフ
コロナ禍による「先が見えない不安」には…
恐怖や不安から人の心をネガティブにしがちなコロナ禍。
ストレスも溜まり、八方塞がりな人に送りたいのは、作中で人類最強とされる五条悟の一言です。
【気づきを与えるシーン】
渋谷事変の首謀者である偽夏油が仕掛けた罠に一瞬の隙を突かれた五条は、獄門疆に封印されてしまった。
いったんは悔しがり、偽夏油に怒りを向けた五条だったが、あがいたところでどうにもならないと観念し、次のようなひと言を発する。
「まずったよなぁ色々とヤバイよなぁ …ま なんとかなるか 期待してるよ 皆」
〜五条悟が自分自身に言ったセリフ (呪術廻戦11巻 第91話「渋谷事変9」より)
もしも同じ状況に追い込まれたら、叫んだり、助けを求めたり、必死になって脱出方法を考えたりするでしょう。しかし、五条悟は違いました。
落ち着き払って、何もせず仲間を信じて待つという道を選択したのです。
じつはこの「なにもしない」というのは、ストレスコーピングと呼ばれるストレス対処法のひとつで、自分の力だけではとうてい打開することのできない難局に遭遇したときに取り入れると、心身への負担を軽減する効果をもたらしてくれます。
あたふた動いたり、気焦りしたりしても、状況は好転しない。それがわかりきっている状況下では、いったん止まってみることが大事です。
腹をくくった人間、覚悟を決めた人間は強いです。
ものごとに真っ直ぐ取り組むことができ、余計なことを考えなくなります。
待つと決めたら待つ。 なるようにしかならない。 そうやって割り切ることができると、ストレスのみならず、負の感情も生まれにくくなります。
出典(「『呪術廻戦』流自分を変える最強の方法」)
「勿論、五条は何か策を持っているとも考えられますが、ひとつのあり方ですね」と井島さん。
人生では自分の力ではどうにもならないと感じる事態は多いもの。そういう時は無理に対処しようとしなくてもいいのかもしれませんね。
ワンオペ育児に対する不満には…
育児だけでなく、家事の負担ものしかかってストレスに…。
「平等じゃない」と負の感情が高まっていませんか。
【気づきを与えるシーン】
少年院で「呪いの王」宿儺(すくな)と対面した伏黒。理由もなく「オマエを殺す」という宿儺に対し、虎杖を助けるために戦うことを決意する。
しかし、まったく歯が立たず、虎杖には命を懸ける価値はないと、宿儺に突っぱねられてしまう。
その言葉を聞いた伏黒の胸には、こんな思いがこみ上げてくる。
「不平等な現実のみが平等に与えられている(中略) 少しでも多くの善人が平等を享受できる様に俺は不平等に人を助ける」
〜伏黒恵の心の声(呪術廻戦2巻 第9話「呪胎戴天 ―肆―」より)
「とても人気のあるセリフで、とくに若い世代のファンに響いているという印象を受けます」と井島さん。
伏黒は、善人に不幸な状況が訪れることが許せません。といっても、すべての人を助けることは不可能。でも、できるだけ多くの人を助けたい。
だから自分の信念に基づき、助けられる人だけを(不平等に)助ける。そんな思いを持っています。
そもそもこの世の中に、平等なんてものは存在していないと言っても過言ではありません。性別、体格や体質、学力、身体能力、親の経済力など、生まれた時点で与えられる条件は、人それぞれですし、その後の人生における幸不幸の波も、各人各様に訪れます。
私たちの生活には、常に不平等や理不尽がつきまとうもの。そう思って生きていく必要があります。そのなかで、「自分はこう生きる」と決意し、行動することが打開策となり得るのです。まさに伏黒のように。
伏黒の言葉(作品中では心の声)に共感している若者のなかには、「自分は恵まれていない」と絶望している人がたくさんいるかもしれません。でもそこで、なにもしなかったら未来は開けません。そんな現状を打破しようと努力しない限り、幸福は近づいてこないでしょう。とにかく、もがきながらでも行動することですね。
大事なのは、自分が今おかれている状況をよく観察し、理解して受け入れ、自分にできることを意識しながら前を向いて生きること。 「呪術廻戦』という作品には、そんなメッセージも込められている気がします。
出典(「『呪術廻戦』流自分を変える最強の方法」)
現実を受け入れるから強くなれる。その強さがやがて現実を変えていくパワーになるでしょう。
厄介なママ友との付き合いの悩みには…
ママ友、職場の同僚、義両親と、人付き合いは悩みの種。
小さな誤解も、次第に負の感情が大きくなると、大きなトラブルのもとになりかねません。
【気づきを与えるシーン】
呪霊・真人によって呪術を使えるようになった吉野順平は、母の死に真人の洗脳が加わり、ものごとの良し悪しの判断がつかなくなってしまっていた。怒りの矛先を、自分をいじめてきた同級生に向け、痛めつけようとする。
そこに駆けつけた虎杖悠仁に、真人にたたき込まれた人の命を軽視する発言を連呼するのだった。そんな順平に、虎杖は真っ向から異を唱える。
「順平が何言ってんだか ひとっつも分かんねえ それらしい理屈をこねたってオマエはただ 自分が正しいって思いたいだけだろ」
〜虎杖悠仁が吉野順平に言ったセリフ(呪術廻戦4巻 第26話「いつかの君へ」より)
負の感情は加速していき、マイナスの行動に至ることもあります。そうならないように、自分の心をよく観察することが大切。
負の感情をマイナスのエネルギーに変換してはいけません。そのまま負のパワーが蓄積されていくと、どこかで必ず、誰かを傷つけてしまうからです。
これは、悩みを人に相談できない人や、相談する相手を間違えてしまった人が陥りやすい現象。マイナスがマイナスを加速させる負のスパイラルにハマってしまうと、そう簡単には抜け出すことができません。仕返し、復讐、敵討ち。建設的な考え方ができなくなってしまいます。
たとえ100%の問題解決には至らなくても、悩みを打ち明けたり、愚痴をこぼし たりするだけで、気持ちはだいぶ楽になります。負の感情に流される前に、とにかく人と話すことを心がけましょう。
マイナス思考の人を、マイナスの方向に利用しようとするたくらみは、じつにうまく機能します。真人の存在は、例えるならば悪魔のささやき、甘い誘惑です。
気づくと後戻りできない状況に追い込まれてしまう可能性もありますので、十分に気をつけましょう。
出典(「『呪術廻戦』流自分を変える最強の方法」)
怒りや負の感情は「呪い」の温床になりやすく、無関係の人を傷つけてしまうこともあります。しかし、うまく使えば、現状を変えるポジティブなパワーにもなりえます。
すぐに負の感情が生まれる自分に嫌悪感を抱いている方、今の世の中が生きづらいと感じている方。「負の感情は誰にでも生まれます。大切なのは、それをどう処理するか」と井島さんは話します。
前を向いて生きていく強さに転じさせることができれば、「強い自分」に変わることができるのです。
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『呪術廻戦』流自分を変える最強の方法」著者:井島由佳
大東文化大学社会学部社会学科助教、心理・キャリアカウンセラー
キャリアデザイン、チームビルディング、メンタルヘルスなどの専門家。自治体や企業等で研修講師を務める。
『呪術廻戦』や『鬼滅の刃』などマンガを活用した講義・研修・セミナーが人気。