「キスより先は無理…」付き合って1ヶ月。女が、彼氏とのスキンシップを未だに拒む理由
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「やっぱり、玉の輿に乗りたい」と思っている女は一定数いる。
大手通信会社で働く“玉の輿”狙いの小春(25)と、“女なんて金でどうにでもなる”と思っている会社経営者・恭介(32)との恋愛攻防戦
▶これまでのあらすじ
小春は、なかなか告白してくれない恭介と付き合うことはあきらめ、自分を好きだと言ってくれる祐馬と付き合うことにしたが…。
小春:葛藤
小春が祐馬と付き合い始めて、1ヶ月。
2人は友達期間が長かったせいか、恋人同士になった今もライトな関係のままだ。
小春が過度に期待していないからなのか、祐馬に不満が生まれることはなく、平和な毎日が過ぎていく。
その居心地のよさに小春が慣れ始めたある日、祐馬から食事に誘われ仕事終わりに会うことになった。
「祐馬、お待たせ!」
「俺も今来たとこだよ。じゃあ、行こうか」
六本木の交差点を待ち合わせ場所に指定してきた祐馬は、ジャケットを羽織り、いつもよりキチンとした格好をしている。
東京タワーが見える方面へ歩き、左折してしばらくすると、祐馬は茶色い屋根の大きなビルの前で立ち止まった。
そのビルの前で、小春は思わず声を上げる。
「えっ。ここ?」
ここは、上の階ではしゃぶしゃぶが、地下の系列店では鉄板焼きが楽しめる六本木で有名なお店だ。祐馬がこんな店を予約していたことが想定外で小春は驚く。
「そう。今日は鉄板焼きだよ〜ん。どう?アガるっしょ!」
祐馬が誇らしげに答えた。
― あ…そういうことか。
小春はその時やっと気づいた。今日が、自分の誕生日の前日だということに。祐馬は小春を高級店に連れて行き、心も体も親密になりたいと思っているが…
ここの鉄板焼きは、学生時代にバイトのお客さんに連れてきてもらったことがあるが、決して安くはない。
彼のプライドのためにも「大丈夫?」なんて言うつもりはなかったが、無理をさせたのではないか、と小春は心配になった。
「どうした?ずっと“おいしいお肉が食べたい”って言ってたよね。もしかして、しゃぶしゃぶの方が良かった…?」
祐馬が、心配そうに小春の顔を覗き込む。
「ううん、そんなことない。鉄板焼きの気分だよ。ありがとう!」
その返事を聞いて安堵した様子の祐馬と一緒に地下に降りる。老舗らしい豪華な内装と、迫力のある大きな円卓に圧倒され、自然と小春の目が輝く。
チラッと祐馬を見ると、小春と同じように驚いていて、若いカップルが無理をして記念日にやってきました感満載で、顔が赤くなった。
― 恭介さんと一緒だったら、もっと堂々としていられたかもなぁ…。
そんなことを思いながら、店の人に案内されるまま席に着く。
祐馬はどこで身につけたのか、メニューを見ることなくスマートにグラスシャンパーニュを二つ注文した。
「一日早いけど、誕生日おめでとう!」
「祐馬、ありがとう」
前菜から始まり、無駄な動きが一切ない調理でスムーズに提供される、新鮮な海の幸や和牛サーロインを堪能する。
コースの最後は、小春の名前入りのプレートが添えられたデザートで締めくくられ、いい雰囲気のまま、恋人らしいバースデーイブを過ごした。
店を出て、六本木駅へ向かう途中、祐馬が低い声で言う。
「小春、今日はうちに泊まってけよ」
「あ…うん」
小春が頷くと、祐馬は安心したような笑顔になり、小春の手を優しく握った。
大江戸線から青山一丁目で半蔵門線に乗り換え、祐馬の住む駒沢大学駅へと向かう。
ほろ酔いなこともあり、小春はふわふわとした感覚のまま、電車の中で祐馬が話す色んなトピックに笑顔で相槌を打っていた。
そうすることで、わざと感知しないようにしていたのだ。祐馬から時折注がれる、熱い視線を。
◆
「適当に座って。うわ、コンビニ寄れば良かった。水とビールしかないわ」
一人暮らし用の小さめの黒い冷蔵庫を開けながら、祐馬がため息まじりにつぶやく。
「大丈夫。私、お水もらっていい?」
小春はソファに腰掛け、部屋全体をゆっくりと見渡した。
小春が祐馬の部屋に来たのは、今日が初めてだ。
物が極端に少ない殺風景なワンルーム。ベッドメイキングがされていない寝具がなんだか生々しくて、小春は思わず目を背ける。
祐馬の彼女にはなったものの、二人で朝まで過ごすことを、小春はなんとなく避けてきた。
もちろん歩くときに手を繋ぐことはあるが、それも毎回ではなく時々で、キスだって唇が触れる程度まで。
祐馬の気持ちは痛いほどわかっていたのに、はぐらかしてきたのだ。彼氏である祐馬に、抱かれることを拒んでしまう小春…
それは、悲しいことに小春の気持ちが、完全には祐馬に向いていないことを証明している。
しかし、鉄板焼きをご馳走になり、自身の誕生日を迎える今夜、もう逃れることはできないと小春は腹を括っていた。
祐馬のことを生理的に受け付けないとか、そういうわけではない。もしそうなら、そもそも彼とは付き合っていないのだから。
― 大丈夫。祐馬のことはちゃんと好き。
小春は、心の中でつぶやきながら、祐馬から手渡されたエビアンのペットボトルに直接口をつけて飲んだ。
すると、祐馬が隣に座り「ちょうだい」と、そのままキスをしてきて小春の口内から水を奪った。
― わっ!
小春は目を丸くし、祐馬から顔を離し両手で口を押さえる。
「ちょっと汚いよ。ガーリックライス食べて…まだ歯磨いてない。ビックリするじゃん」
「汚くないよ。それに俺も同じもの食べてるし」
祐馬はそう答え、小春に再びキスをしながらブラウスのボタンを外していく。部屋の灯りに照らされて、白い肌が、あらわになった。
その先へ進もうとする祐馬の手を、小春は力強く制した。目からは涙が溢れ、全身で彼を拒んでしまう。
「どうした…?小春、なんで泣いてるの」
「……ごめん。やっぱり、だめ。できない」
祐馬は何も言わず小春に服を着せて、苛立ちを抑えるように頭を掻きながら、トイレへ立った。
― 本当にごめんなさい。
小春は、祐馬に対する申し訳なさと自分への嫌悪で、その場にうずくまったまま、泣き続けた。
恭介:予期せぬ連絡
小春と会わなくなって1ヶ月。恭介は、新しい出会いを求めることなく、ひたすら仕事に打ち込んでいた。
女友達の佑未や花恋から食事に誘われても、気分が乗らず、理由をつけては断った。
花恋は一度断ったら連絡が来なくなったが、佑未は違った。何度もしつこく誘ってくるので、気分転換になるだろうと自分を納得させ、渋々会うことにしたのだ。
「恭介が絶賛する家事代行の原田さんが作る手料理、私も食べてみたかったのになぁ」
家に来たがる佑未をなだめ、恭介は佑未と代々木上原のイタリアンに来ている。
「あのなぁ、そうやって簡単に男の部屋に行こうとするなよ。世の中には、変な奴もいっぱいいるんだからな」
「わかってるって。恭介以外には言わないよ〜!」
佑未は、前菜を綺麗に口に運びながら言った。
久しぶりに女性と食事をしているのに、恭介のテンションはまったくあがらない。
― やっぱり、佑未は友達だな。
そう改めて思った次の瞬間、彼女が思いもよらないことを言う。
「ねえ、私たち結婚したら案外うまく行くと思わない?」
「は?」
突拍子もない提案に、恭介は飲んでいたワインを吹き出しそうになった。
「だってさ、食の好みも合うし、気も合うし、お酒も好きでしょ。恭介は記念日もちゃんと祝ってくれそう!しかもそれなりに稼いでるし」
「……」
恭介は、気の利いた返しもできず、ただただ黙ってしまった。
「ちょっと、そこで黙るのはナシでしょ。私の立場ないじゃない」
「ごめん」
子どもみたいに頬を膨らませすねる佑未に呆れていると、テーブルに置いていた恭介のスマホが2回小刻みに震えた。
ふと目をやると、新着メッセージが届いていた。その直後、画面に表示された名前を確認して驚く。
― っ!!!
佑未といることを一瞬忘れ、すぐにLINEを開きメッセージを見る。
心臓が激しく音を立てている。そのメッセージは、恭介が今一番会いたい女性からのものだった。
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最終回:自分の気持ちに正直になった恭介は…-
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