「誰のために結婚するの?」婚活に迷走するアラフォー女の悲哀
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“離婚”という苦い経験を経て、また恋をして結婚がしたいと願う人たちがいる。
そんな彼らの再婚の条件は、実に明確だ。
「一度目よりも、幸せな結婚!」
それ以上でも、それ以下でもない。
幸せになることを、諦めないバツイチたちの物語。
4話からは、バツイチ子持ちの未央の物語がスタートした。
◆これまでのあらすじ
本気で再婚活をすると決めた未央は、マッチングアプリに登録したバツイチ男性とデートを重ねた。だが彼の非常識な態度に我慢ならず、再婚活は振り出しに戻った。
『未央:バツイチって、やっぱりバツイチだよね。そうなった理由があるのよね』
平日の夜、壮太を寝かしつけたあと、大学時代の女友達、沙也加とメッセージのやりとりをしていた。
仕事と母親業をすべて終えた一日の終わりに、お酒を飲みながらリラックスして過ごすこの時間は、気持ちをリセットする上でも大事な時間だ。
『沙也加:気にしないで次行ったほうがいいよ。躊躇してるとあっという間に歳とっちゃう』
先日の小野との一件を打ち明けると、『ダメだったら、すぐに切ったほうがいいよ』とハッパをかけられてしまった。
切るも何も、あの日以降小野からは何の連絡もない。正直未央はホッとしている反面、再婚活から逃げ腰になりつつあった。
マッチングアプリに未読のメッセージが溜まっていくのを見て見ぬふりをし、InstagramやTwitterをチェックする。
最近、なぜかむしょうにオリバーに会いたくなる。だが、そんなときに限って、彼が忙しいらしくタイミングが合わない。
『未央:恋愛ってタイミングが難しいよね…』
『沙也加:そうそう、タイミング命。そういえば、この間同じクラスだった尾崎純平とインスタで繋がったよ。オンライン同窓会しようってさ』
実は未央も、先日純平とInstagramで繋がったばかりだ。オンライン同窓会というワードを聞いて、未央は当時の仲間が懐かしくなった。
― 私も、久しぶりに純平に連絡してみよっかな。学生時代の男友達の衝撃の告白。もしかしたら?と期待するが
純平は立教大学時代、メディア戦略のゼミが一緒だった仲だ。
いつも明るくて、みんなを引っ張るリーダー格だった彼とは、冗談を言い合う仲のいい友達という関係で、卒業してからも2人でよく飲みに行ったりもした。
でも、お互い結婚して子どもができてからは、少し疎遠になっていた。
沙也加とのやりとりを終えたあと、早速彼にInstagramのDMを送ってみることにした。
『未央:純平、久しぶり!オンライン同窓会の話聞いたよ。元気?』
メッセージはすぐに既読になり、返信が返ってくる。
『純平:久しぶり〜。元気だよ!未央から連絡くるなんて珍しいな』
聞けば、転職して今は銀座にある外資系の製薬会社でマーケティングの仕事をしているという。
前に会ったときは、食事会で知り合った女性と授かり婚をして、子どもは2人いると言っていた気がする。SNSの気楽さもあって、未央は数年前に離婚したことを打ち明けてみた。
すると。
『純平:愚痴りたい話、たくさんあるだろ?どっかで飯でも食おうよ』
『未央:いいね!行こうよ』
思いがけず、純平から誘われ2人で食事に行くことになった。
◆
久しぶりに連絡をとってから、3日後の夜。
純平から指定されたのは恵比寿のこじんまりとしたトラットリアだった。小野のときとは違い代官山の自宅からタクシーでワンメーター程度の場所だし、会うのは大学の同級生とあって、未央の気分は幾分リラックスしている。
扉を開けると、薄暗い店の奥にはすでに純平が待っていた。
「ごめんね、待った?」
「全然!一人で飲み始めてたよ」
純平は、すでにグリッシーニをかじりながら、赤ワインを飲んでいた。
「前菜いくつかとパスタは適当に頼んでおいたけど。なに飲む?」
「私も同じ赤ワインにするわ」
「ところで未央と飲むの、いつ以来だっけ?」
オーダーしたあと純平が尋ねてきた。
「3年前の誰かの結婚式の二次会のとき以来じゃない?」
「あー思い出したわ。未央、全然変わってないな」
純平の口のうまさは相変わらずだと未央は思った。
ちょうど3年前、未央は離婚した直後だったが、結婚式というおめでたい場面でそれを口にすることが憚られ、誰にも言えなかったことを思い出した。
「実は俺も離婚したんだ。半年前」
唐突な純平の離婚発言に、未央のフォークを持つ手がぴたりと止まる。
「な、なんで?」
「なんで、って言われてもなぁ…」
純平が口ごもる。
離婚の理由なんて一つじゃないのに、馬鹿な質問をしてしまったと未央は少し後悔した。
「ちょっとこの子とは無理かもなぁって思っていた時に、子どもがデキちゃって結婚したんだ。どうしようもないくらいに好きだって思う相手となら、こういうことにはならなかったかもな…」
純平はワイングラスを片手に、オープンキッチンの方をぼんやりと見ながら答えた。
「それ、なんかわかる。私もそんな感じだもん…」
未央は自分から質問しておきながら、自分自身の過去を掘り起こしてしまった。
純平は「でも、子どもは可愛いけどな」と付け足すと、運ばれてきたカラスミのスパゲッティを器用に取り分け始めた。
「未央みたいに気心知れているやつと結婚したら、離婚なんてことにならなかったのかな…」
純平が冗談っぽく呟いた。
「えっ…何言ってんの?バツイチってタチが悪いわ。自分もバツイチだけど、バツイチは遠慮しておく」
そう答えながら、未央は動揺を隠した。ちょうど純平と同じことを考えていたからだ。久しぶりの再会でいきなり?早すぎる展開に未央は動揺するが…
「でも、つくづく結婚って難しいなと思ってさ。本当は俺の方が話を聞いてもらいたくて、今日は呼び出した」
純平は何事もなかったかのように、パスタを頬張る。
「ところで未央は最近どうよ?彼氏いないの?」
パスタの最後の一口を平らげると、口の周りをナプキンでぬぐいながら聞いてきた。
「一応、ほとんど過去の話だけどさ」と前置きしてから、未央は最近の男たちとの出会いを純平に打ち明けた。
イギリス人のオリバーとうまくいっていたつもりだったが、彼はまだ友達以上恋人未満くらいにしか思っていなかったこと。
オリバーを忘れるために、バーで知り合った男性と数回デートをしたが妻子持ちだったこと。
そして、先日のマッチングアプリでの出会い…。
「で、オリバーにまた会いたいなと思ってるってこと?結局、どうしたいの?」
どうしたいのかわかれば、こんなに困っていないのだ。
そもそもオリバーが好きなのか、自分は結婚したいのか、恋愛がしたいのか。子どもにパパは必要なのか。優先順位がわからなくなったから未央は困っている。
「どうしたいのかわからないけど、自分でも迷走してるっていうのはよくわかってる」
未央の口から、心の底に眠っていた本心が転がり出たような気がした。
両親もいて仕事もあり、家もある。十分恵まれているのは承知だ。
「なんかね、息子の学校の行事や休日の公園で、仲良さげな夫婦を見るたびに、隣に夫という存在がいない自分が悲しくなるときがあるんだよね」
「再婚活をしよう」と決意したことで、そんな穏やかな光景が余計に目につくようになった。
「壮太にパパを作ってあげたいっていう動機から再婚活を始めたけど、単なる後付けの理由かも。私が寂しかったのかも…」
純平に心の内を話しているうちに、未央の頰をツーと涙が流れていた。
学生時代の友人には、なぜこんなにも気を許すことができるのだろうか。そう思いつつも未央は、こんな歳にもなって恋愛相談をし、取り乱している自分が恥ずかしくなった。
「それにさ、40手前になるとさ、気になることがたくさん出てくるよな。子どもの進学、将来どこに住むかとか、親はいつまで元気なんだろうとかさ」
純平は未央の気持ちを察したように、話題の方向を変えようとしてくれた。
「そうなんだよね。自分の将来だけじゃなくて、子どもとか両親のことも考えなくちゃいけないじゃん?そうなると再婚するのがいいのかな…って思っちゃう」
純平は若干呆れたように笑う。
「ずいぶん強引な展開だな。再婚すれば、全部解決するのか?」
自分は“再婚”という選択をすることで、逃げ場を探していただけなのかもしれない、と未央は思った。
それを純平という同じバツイチに指摘されたことで素直に納得できた。
「未央は昔から周りが見えなくなるタイプだから心配だな。子育てだって、こうやらなきゃ、っていう思い込みとかプレッシャーを抱えるタイプだろ?」
図星すぎて、未央は何も言えない。
とはいえ、ドキドキはしないけど、無理せず自分をさらけ出すことのできる男友達は気楽だ。
「そういう純平は彼女いないの?」
未央は何気なく聞いた。
「いないよ」
純平がそう短く答えた時、テーブルの上にあった彼のスマホが小刻みに振動し始めた。
だが、一瞬画面をチラ見し、そのままスマホをジャケットのポケットに突っ込んだ。振動は一向に止む気配がない。
「彼女なんじゃないの?」
未央がふざけて聞くと、純平はポツリと言った。
「…元妻なんだ」
「なんか緊急の用事なんじゃないの?電話出たほうがいいんじゃない?」
「いや、違うと思う」
「ふーん」
“元妻”その言葉は、未央の心に引っかかった。
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大学の同級生との再会で自分の気持ちが明らかになった未央。このあと純平と急速に発展?-
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