柴田 確かにアジアには優秀な人がたくさんいますね。
――具体的にはどんな人材を求めています? グーグルとかDeNAとかで働いている人たちがイメージですか?
柴田 そこはまさしくそうです。AIの最先端の人材がどこにいるかっていうとIT企業です。残念ながら自動車企業にはいません。
――お給料が高そうです。
柴田 そこは解決すべき課題です。ただ、現時点でもともとスバルにいた人材と、新しく外部から採る人材を半々ぐらいにするイメージなので。
――会社の公用語は英語?
柴田 当面は日本語です。
――私はスバルがトヨタと同じようなラボを始めるとは思っていなくて、今回一番聞きたいのは、スバルらしい自動運転とAI開発ってなんなのかなと。やはりスバルラボでは車載用AIであり、ソフトウエアを作るんですよね?
柴田 すでにアイサイトの開発は大半がソフトウエア開発になっている。3次元空間を把握するソフトはスバルが30年ぐらい開発しているアルゴリズムの固まりですしね。
――スバルという会社には「走り」や「ハンドリング」にこだわりを持つメージがありますが、実は違うと。すでにクルマはハードウエア以上にソフトウエアが性能を決める時代に入っている?
柴田 スバルにはその両面がありますけど、今は開発時間が短い。戦略的志向というより背に腹は代えられぬ状態です。かつてはハードが決まってからサプライヤーにソフトを発注していたんですが、今はシステムが大きくなりすぎて間に合わない。
ある程度は、自動車会社がソフトを事前に生み出しておく必要がある。アイサイトも見た目からは想像できない巨大なソフトウエアが動いていますしね。
――クルマのスマホ化?
柴田 クルマは求められる基準がスマホとは圧倒的に違います。スマホはソフトがバグって止まったとしても再起動できる。でも、クルマはそれが絶対許されませんから。
――安全性が最優先だと?
柴田 スマホのソフト開発技術が取り込まれているのは間違いありませんが、だからといってすべてをスマホ基準に合わせるわけではない。ソフトウエア会社への脱却は大変だし、すべて脱却することはなく、従来的な文化と共存していこうかなと。もちろん、風土改革は重要ですけどね。
■スバルの自動運転は庶民のもの
――話を戻しますが、スバルラボの研究は「2030年の死亡交通事故ゼロ」にどう結びつくんですか? ぶっちゃけ、死亡数ゼロは美しい話ですよ。けど、実際には問題が山積している。例えば高齢者や飲酒ドライバーの問題をどうするのか。さらに言えば、ドライバーがペダル操作を間違う可能性だってある。
柴田 ドライバーインターフェイスが大事なのは確かでしょうね。ドライバーの状態を監視する技術や今までにない技術進化は必要です。自動化が進むと、ドライバーが行なうべき操作範囲とシステムの操作範囲の切り分けが難しくなる。そこはAIを使いながらやっていけたらいいのかなと。
今、ドライバーがどういう状態なのか。自分のクルマがどういうリスクに直面しているのか。それを判断する技術が必要です。状況をより賢く判断することが重要で、その判断の組み合わせがやがて死亡事故ゼロにつながるのではないかと考えています。
――もし死亡者数ゼロを達成した場合、それを他社に提供することは考えてます?
柴田 常にオープンです。
――ちなみに新型レヴォーグに搭載された新世代アイサイトは自動運転レベル3を達成できているのでは?
柴田 さすがに今のアイサイトでは無理です。そこは今後先行メーカーさんを参考にしながらいろいろ考えます。
スバル「レヴォーグ」310万2000〜409万2000円。昨年10月にフルチェンジで2代目となったレヴォーグ。すべての性能が高いワゴンで、日本カー・オブ・ザ・イヤーも戴冠!
新世代アイサイトは運転支援機能を大きく向上させた。渋滞時の50キロ以下という制限はあるが、ハンズオフを可能にしている
――これからスバルの自動運転はどうなります?
柴田 もちろん、興味はありますが、価格の問題が立ちはだかる。自動運転実現のためにはドライバーの代わりになるような部品を追加しなくてはいけません。しかし、そういう部品の値段は高く、車両価格がハネ上がってしまう。基本的に弊社の小型車すべてに搭載できるシステムを開発しないといけないので。
――スバルの安全技術は自動運転の時代になっても庶民のものであると。誰もが買えなければスバルじゃない?
柴田 そうです。ただし、そういう部品は5年10年で価格が下がる可能性があるので、それを横目に研究や開発を進めます。部品が安くなっても、ソフトウエアがないと動かない。そこをあらかじめコチラで開発しておくと。
――スバルの未来は、スバルラボがキモになりそうです。
柴田 そのとおり。
【虎の穴"スバルラボ"に突撃!】
?ドアロックはすべて生体認証
スバルラボが専有する6部屋のドアロックはすべて生体認証で管理されている。そのため事前に顔情報を登録された人しか入退室できない
?スバルラボはシェアオフィス内に開設
スバルラボは、野村不動産が展開しているシェアオフィス内に開設されている。写真のラウンジなどは他企業とシェア
?カフェブースもある
共通ラウンジ内にあるカフェブースには、エスプレッソやアメリカンなどが選べるコーヒーメーカーも完備されている
?コロナ時代に対応したオフィス
机を壁向きに配置したり、パーティションで個人空間を仕切るなどコロナ対策も万全。「密」を回避する工夫もされている
スバルの新しい開発拠点「スバルラボ」は、野村不動産が展開するクオリティ・スモールオフィス「H1O(エイチワンオー)渋谷三丁目」内に開設。その3階スペースをスバルが丸ごと借りている。大小6部屋と、入居者用のラウンジ空間で打ち合わせや休憩ができるようになっている。ちなみにスバルは現在、「スバルラボ」で働くエンジニアなどを絶賛大募集しているぞ!
●小沢コージ
自動車ジャーナリスト。TBSラジオ『週刊自動車批評 小沢コージのCARグルメ』(毎週土曜17時50分〜)。YouTubeチャンネル『KozziTV』。著書に共著『最高の顧客が集まるブランド戦略』(幻冬舎)など。日本&世界カー・オブ・ザ・イヤー選考委員
取材・文・撮影/小沢コージ