[注]東京都健康安全研究センター「花粉症一口メモ」令和3年版
スギ花粉
花粉の予測に必要なデータは、足でゲット
多くの人々の悩みのタネである花粉症。花粉症への対処を適切にするために役立てていただこうというのが、日本気象協会で行っている花粉の飛散予測です。日本気象協会では、さまざまな気象のデータを扱っています。だから、花粉もデータを駆使して予測しているんでしょ?とお思いのあなた!実はそうじゃないんです。もちろん、データも使いますが、肝となっている部分の一つに、現地調査があります。日本気象協会の花粉担当者は、毎年11月から12月に、熟練の専門家たちと一緒に現地調査をしているのです。
現地調査では、毎年定点観測しているスギの花芽の付き具合を、ランク分けして判定していきます。1地点で40本のスギの枝を高性能の双眼鏡を使って目視で判定していきます。その速度は目にもとまらぬ速さ。ちなみに、花芽1粒は、6.5ミリほど。その1粒に、およそ40万個の花粉が入っているというから驚きです。
今シーズンも日本気象協会の担当者たちが、花粉の現地調査に参加しました。
この現地調査のあとには、研究会を開き、花粉の飛散予測や観測を行っている団体の代表者たちと意見交換をします。
花粉を数えるのは、手作業
肝となっている作業は、現地調査のほかに、もう一つ。それは、花粉の数を数えること。
日本気象協会では、「ダーラム法」という方法でスギ花粉を観測しています。ダーラム法では、ワセリンを塗ったスライドガラスを屋外に1日に置いて、そこに付着した花粉の個数を数えます。毎年1月に入ると、スギ花粉を観測するための観測機器を設置します。この観測機器は、至ってシンプル。ステンレスの丸い板で挟まれた所に、花粉を付着させるためのスライドガラスを固定しているだけ。自動で花粉をカウントしているわけではないのです。
ピーク時には、スライドガラスがうっすら黄色くなっていることもあるそうです。スギ花粉はとても小さく、その直径はおよそ30マイクロメートル(1ミリの約30分の1)ですから、顕微鏡をのぞいての作業です。
効率よく花粉を数えるために、スライドガラスに花粉を染める染色液を垂らして、カバーガラスをのせます。この染色液が多すぎると花粉が流れてしまい、少なすぎるとうまく染まらないため熟練の技が必要です。
ダーラム法では、およそ3平方センチメートルあるカバーガラス内の花粉を数えたあと、1平方センチメートル当たりの個数に換算します。このため花粉の個数が「1.8」、「2.5」などといった小数になることがあります。1平方センチメートルに花粉が1個以上ある日が2日続くと花粉の飛散開始としています。
お掃除ロボのようにくまなく
染色液を適量垂らして、カバーガラスをのせたら、いよいよ顕微鏡での作業です。そして、ここでも技が必要です。着色に使う染色液は、花粉を染める染色液なので、スギ以外の花粉もピンクに染まります。また、花粉以外のゴミも混ざっています。そこで、最初は低い倍率のレンズで見て花粉かどうか、そして花粉なら、スギがどうかを判別していきます。カバーガラス上を一度に見られるのではなく、お掃除ロボットのように往復しながら花粉を探していきます。花粉が少ない時期は、上の図のように5往復ですが、ピーク時は少ないときの2倍の倍率のレンズに切り替えるため、10往復もするそうです。「花粉だ!」と思ったら高倍率のレンズに変えてじっくり観察します。ところが、お掃除ロボのように何往復もしているため、一度止まってしまうと、自分が上から下へ向かって数えていたのか、それとも下から上へ向かって数えていたのかがわからなくなり、最初から数え直しということもあるそうです。
花粉は、染色液に浸したまま長時間経過すると、上の写真のように破裂してスギかどうかの判別ができなくなってしまいます。花粉業務は、正確さだけでなく時間との闘いでもあるのです。