PDFとして知られるポータブル・ドキュメント・フォーマット(Portable Document Format)は、文書ファイルを扱う上で必要不可欠な文書形式です。そんな
PDFの歴史について、ジャーナリストのロブ・ウォーカー氏が解説しています。
The Inside Story of How the Lowly
PDF Played the Longest Game in Tech | by Rob Walker | Jan, 2021 | Marker
https://marker.medium.com/the-improbable-tale-of-how-the-lowly-pdf-played-the-longest-game-in-tech-d143d2ba9abf
PDFはソフトウェアメーカーの
Adobeによって開発されたファイルフォーマット。
Adobeによると、2020年だけで3030億の
PDFファイルが
Adobe Document Cloudを利用して開かれており、世界には2.5兆の
PDFファイルが存在しているとのことで、その利用者数は圧倒的です。しかも、Microsoft OfficeがGoogleドキュメントにシェアを奪われつつあるように、ソフトウェア開発には対抗勢力がつきものですが、
PDFには対抗勢力が存在しません。
PDFの歴史は、プログラマであり計算機科学の研究者だったジョン・ワーノック氏とチャールズ・ゲシキ氏が
Adobeを創業した1982年にさかのぼります。2人は
Adobeの創業後、ページ記述言語「PostScript」や、「Illustrator」や「Photoshop」といった画像処理ソフトウェアを発表して
Adobeを急成長させました。
Adobeが創業された当時は、MS-DOSで作成した文書ファイルがMacでは正常に読み込めないといった問題が存在していました。この問題を知ったワーノック氏はPostScriptによるデジタルとアナログの橋渡しに大きな関心を持ち、1990年代初頭に
PDFの元となるプロジェクト「Camelot」を発表しました。ワーノック氏が記したCamelotの初期案は
PDFファイルとして公開されており、記事作成時点でも閲覧することができます。
The Camelot Project - John Warnock - warnock_camelot.pdf
(
PDFファイル)https://planetpdf.com/planetpdf/pdfs/warnock_camelot.pdf
Adobeは1992年に
PDFを正式に発表しました。しかし、
PDFは一般的なテキスト形式と比べて扱いにくく、当時の速度の遅い回線では送受信に時間がかかったことから、
PDF作成ツールや
PDFリーダーの売れ行きは伸びませんでした。また、1990年代には、
PDF以外にも「DjVu」や「Envoy」といった文書形式が開発されていたことから、当時の
Adobe取締役会は
PDF関連事業を早急に終了する予定だったとのこと。
しかし、1993年に
Adobeが
PDFの仕様を公開したこと、そして1994年に
PDFリーダーの「
Adobe Acrobat Reader」を無料公開したことで、流れが変わります。この2つの決断により、
PDFは多くの人に利用されることになり、
Adobeは
PDF作成ツールで利益を上げるようになりました。
1990年代半ばには、アメリカ合衆国内国歳入庁(IRS)が
PDFを採用したことにより、他の政府機関や企業、医療機関が
PDFを採用する流れが生まれました。さらに、Webの主流化と回線速度の向上は
PDFの普及に有利に働いたとウォーカー氏は指摘しています。
2008年には国際標準化機構(ISO)によって
PDF1.7が規格化されました。これにより、
Adobe以外の企業が開発する
PDFリーダーや
PDF作成ソフトが登場したり、ウェブブラウザに標準の
PDFリーダー機能が搭載されたりと、
PDFは文書形式の標準形式としての座を固めました。
ISO - ISO 32000-1:2008 - Document management - Portable document format - Part 1:
PDF 1.7
https://www.iso.org/standard/51502.html
Adobe Document Cloudのエンジニアリングリーダーであるデイビッド・パーメンター氏は、「多くの人は
Adobeが
PDFに関するほとんどのことを決定していると思っていますが、それは誤解です。
AdobeはISO委員会の1議席を得ているに過ぎず、
PDFを形成する上で大きな力を持っていません。
PDFは
Adobeの働きかけによってではなく『世界中の何百万人もの人々の力』で広がり続けています」と語っています。
近年における
PDFの課題はスマートフォンへの適応で、2020年には
Adobeはスマートフォンで
PDFを読みやすく自動で調整する機能「Liquid Mode」を発表しています。
スマホで
PDFを読みやすく自動で調整できる機能「Liquid Mode」を
Adobeが発表 - GIGAZINE
しかし、
PDFの優位な点は新技術ではなく、その互換性にあるとのこと。30年前に作成された
PDFファイルのほとんどは、最新の
PDFリーダーでも問題なく開くことができます。このことから、
PDFはアナログで保存された文書と同様の強みを持っているとウォーカー氏は指摘しています。
パーメンター氏は、「
PDFは人々の生活に染みついていますが、ビデオ通話のような目立つ技術ではありません。人々は
PDFがうまく動作しないときだけ
PDFの存在を思い出しますが、幸いなことにそれは非常に珍しい状況です」と
PDFの安定性を語っています。