by Marco Verch Professional Photographer
「マックフライポテト」は、サイドメニューながらも高い売上を誇るという
マクドナルドの看板商品の1つです。30年以上も前にレシピが失われたという創業時の「元祖マックフライポテト」の味わいを、ライターのルーク・フェイター氏が再現しています。
My Hunt for the Original McDonald's French-Fry Recipe - Gastro Obscura
https://www.atlasobscura.com/articles/original-mcdonalds-french-fry-recipe
北米で育てられたジャガイモを品質管理が徹底された工場でカットして、トランス脂肪酸ゼロの植物油で揚げたという
マクドナルドの看板メニューがマックフライポテトです。マックフライポテトは創業以来不動の看板メニューである点は変わりませんが、そのレシピは何度か手を加えられており、創業時のレシピは一般にはうかがい知ることができない状況です。
後の「
マクドナルド1号店」となる、かつてカリフォルニア州サンバーナディーノに存在したオリジナルの店舗に当時勤務していたというベン・スタックス氏は、「毎週土曜日には1日あたり1000ポンド(約450kg)もポテトを揚げていたよ」と語ります。当時の
マクドナルド1号店の人気は圧倒的で、近隣の子どもたちは
マクドナルドがオープンする時刻を待ちわびるほどだったとのこと。
そんなスタックス氏の明かしたオリジナルレシピとは、「地元で採れたアイダホラセットポテトを皮をむいてからみじん切りにして、余分なでんぷんを洗い流し、揚げる1時間前まで冷水に漬けておく。調理時には水を切って乾燥させ、100%牛脂の調理油で揚げて、味付けは塩のみ」というもの。スタックス氏は、「ハンバーガーはどこでも手に入るようなものでしたが、ポテトだけは本当に特別でしたね」と述べ、このフライドポテトこそが
マクドナルドをフランチャイズ展開にしたレイ・クロックの目に留まったメニューだったと語っています。
また、元祖フライドポテトのレシピには、オリジナル店舗が存在したサンバーナディーノという立地から生まれた工程が存在しました。アメリカにおけるファストフード文化について詳しく記した「Drive-Thru Dreams: A Journey Through the Heart of America's Fast-Food Kingdom(ドライブスルーの夢:アメリカというファストフード王国の中核を巡る物語)」の著者であるアダム・チャンドラー氏は、サンバーナディーノが砂漠地帯だったことを指摘。「ジャガイモは入荷後、砂漠という環境下に数日間放っておかれたため、空気中に水分が抜け出て独特のサクサク感が生まれていた」と言及しています。
レイ・クロックも砂漠という立地が生み出したサクサク感について熟知していたようで、後にジャガイモが理想的な含水率と固さになるような保存法を開発しています。クロックはさらに、モトローラのエンジニアを引き抜いて調理油の温度を均一化する独自の「ポテトコンピューター」を設計させたり、品質を維持したままコストを下げる牛脂と植物油の最適な配分比率を発見したりして、「元祖マックフライポテト」のレシピが生まれました。
しかし、創業以来看板メニューだったマックフライポテトのレシピに大きく手が加えられる日が訪れます。脂っこい食べ物のせいで心臓発作で死にかけたという経歴を持つ実業家のフィル・ソコロフ氏が1500万ドル(当時のレートでおよそ30億円)という巨額の私費を投じて展開した「アメリカの食品は脂肪分が多すぎる」というキャンペーンにより、
マクドナルドはやり玉に挙げられることとなったのです。
ソコロフ氏は1990年の春にニューヨーク・タイムズやウォール・ストリート・ジャーナルなどの大手紙に「
マクドナルド、あなたのハンバーガーは脂肪が多すぎる」という全面広告を掲載。テレビの生放送で当時の
マクドナルドの上級副社長だったディック・スターマン氏と直接対話を行い、「フライドポテトに含まれる牛脂について説明してみてください」と
マクドナルドのメニューの不健康さを直接訴えました。
このソコロフ氏のキャンペーンの結果、1990年7月23日に
マクドナルドはマックフライポテトのレシピを変更。これ以降、アメリカの
マクドナルドでは、マックフライポテトに大豆油とキャノーラ油のブレンド油が使われることとなりました。なお、日本の
マクドナルドでは揚げ油に牛脂とパーム油のブレンド油を使っているため、元祖マックフライポテトに近い材料になっているようです。
こうした経緯から現代では揚げ油の温度などの詳細なマックフライポテトのレシピはもはや手に入らない状態です。しかし、今回フェイター氏は1950〜70年代の
マクドナルドで実際に使われていたレシピを自宅調理用に改変したという来歴不明の「McMenu」という文書が公開されていることを発見。チャンドラー氏に真贋鑑定を依頼した結果、かなりの確度で当時のレシピそのものだという認定を受けたとのこと。
McMenu: Do-It-Yourself McDonald’s Restaurant Recipes
(PDFファイル)http://www.beneboy.com/mcmenu.pdf
このMcMenuのレシピに記載された、自宅で調理できる「元祖マックフライポテト」のレシピが以下。
・材料
ラセットポテト(大)……2個
グラニュー糖……4分の1カップ
ホワイトコーンシロップ……大さじ2
お湯……1〜2カップ
Criscoの食用油脂……6カップ
牛脂……4分の1カップ
塩……適量
・作り方
1:ジャガイモの皮をむき、縦横は4分の1インチ(約0.6cm)ほど、長さは4〜6インチ(約10〜15cm)ほどの直方体にカットします。
2:ボウルに砂糖・ホワイトコーンシロップ・お湯を入れてよくかき混ぜ、ジャガイモを浸してから30分冷蔵します。
3:Criscoの食用油脂を揚げ物用の鍋に入れて、190〜204℃に加熱します。
4:30分経過後、ジャガイモの水気をしっかり切り、油跳ねに十分注意して鍋に入れます。揚げている間はジャガイモ同士がくっつかないように保ちます。1分から1分半ほどでジャガイモを鍋から引き上げて、ペーパータオルの上に並べ、冷蔵庫で8〜10分冷やします。
5:牛脂を揚げ物用鍋に追加し、190〜204℃に再度加熱します。
6:ジャガイモを再度鍋に入れて、黄金色になるまで5〜7分ほど揚げます。揚げている最中は、ジャガイモ同士がくっつかないように注意。
7:鍋から引き上げて、塩を振って完成。
実際にフェイター氏がMcMenuのレシピで作ったという自作版元祖マックフライポテトが以下。
自作した元祖マックフライポテトを食べたフェイター氏は、「現代の
マクドナルドで提供されるフライドポテトは豆のような風味が口の中に残る当たり障りのない味わいですが、McMenuのフライドポテトはパンチが効いており、『もっと食べたい』という欲望が口の中から押し寄せてくるようです。ほのかなビーフのうまみが下地の甘味と調和しており、焦げ目の付いたパリッとした角部分はカリッとした食感ですが、中心部分は甘く、バターのような食感です。今まで食べた中ではダントツで最高のフライドポテトで、唯一の不満は今回の記事に載せる写真を撮影するために食べる手を止める必要があったことくらいです」とコメントしています。