月々30万円、彼氏からのお小遣い。社内の悪評をものともしない32歳女のやり方
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出世争い、泥沼不倫、女同士の戦い…。
繰り広げられる日常は、嘘や打算にまみれているかもしれない。
そんな戦場でしたたかに生きる「デキる人」たち。
彼らが強い理由は、十人十色の“勝ち残り戦略”だった。
大手IT会社に勤務する25歳の花山 樹里は、そんな上司・同僚・後輩と関わりながら、それぞれの戦略を学んでいく…。
▶前回:「そんなことまで聞いてくるなんて!」同僚の私生活を探る女が、それでも嫌われないワケ
「こんばんは、今日も皆さんからの質問に答えていきまーす」
ーすごい、今200人もめぐみさんのライブ見てるのね…。
めぐみは、約1万人のフォロワーを持つちょっとしたインスタグラマーだ。年次は離れているが、樹里と同じ大学出身ということもあり、会社でもよく気にかけてもらっている。
ーめぐみさんって日に日に美しくなっていくし、なんかカリスマ性があるわ。
樹里は目を細めながら、ほんの少しの憧れと好奇心を持って画面に映るめぐみを凝視する。
「今日着ているニットはどこのブランドですか?ってコメントいくつかいただいてるんで、これはまた後で詳細ご紹介しますね」
画面の中で、まるで売れっ子のモデルのように自信に満ち溢れた顔で微笑むめぐみ。背景に見える部屋はひと目で高級なマンションであることがわかるし、配置されている家具もインポート風の趣味の良いものばかりだ。
ーでも、同じ会社勤めのはずなのに、なんでそんなリッチな生活できるのかしら…。
樹里はふとそんなことを思いながら、ライブ配信の終了までその光景を見届けた。
◆
翌日会社に行くと、同じチームの愛子が誰かと神妙な顔でヒソヒソと話している。
ー愛子さんが仕事中に雑談とか珍しい…どうしたのかしら?
「おはようございます、何かありました…?」
「営業部のめぐみさんの噂よ。この前、須田部長とバーでデートしてたらしいのよ、不倫よ」
愛子が軽蔑の混じったような冷たい顔で、そう言い捨てた。既婚者・須田部長とめぐみが?その真相とは
ーめぐみさんが須田部長と…?
咄嗟に樹里の頭に浮かんできたのは、上司である紗栄子と須田部長の仲だ。
もし本当にめぐみが須田と関係しているのであれば、須田は妻以外の二人の女性に二股をかけていることになる。
ー本当だとしたら、もうドロドロすぎない…?
生真面目な樹里が頭を抱えながらオフィスのトイレに向かうと、なんとちょうどそこにいためぐみと、鏡越しに目が合った。
「あら、花山さんおはよう」
エルメスのリップを片手に鏡を覗き込んでいためぐみが、こちらを振り返りながら微笑んでいる。
「…あ、めぐみさん、おはようございます…」
「何よそんな気まずそうに。もしかして噂のこと?」
ーえ、本人も噂になってること知ってるのね。何て答えよう…?
戸惑う樹里だったが、めぐみは平然とした様子だ。
「あんなの根も歯も無い噂よ。私、ちゃんと彼氏いるし。花山さんは、そんな噂に振り回される程度の低い人間にならないでね」
意味深に微笑むめぐみを目の前に、樹里は反応に困りつつも首を傾げながら頷いた。
【今回の登場人物】
名前:宮川めぐみ
年齢:32歳
所属:営業部
家族構成:独身、白金在住、インフルエンサー
樹里がトイレを去ったのを見届けると、めぐみはリップを綺麗に塗り直し、口角を上げて小さく何度も頷いた。
ーいつだって明るい色のリップで、営業部を明るくするのが私の役目。
男性が圧倒的に多い部署の中で仕事上で評価されるためには、自分の役割を意識して目立ちつつ、着実に結果を残していく必要がある。
ーそういえば須田部長との噂、誰が流したのかしら…。しょうもないから気にするつもりも無いけど、迷惑だわ。
はあ、とめぐみがため息をつくと、手元でスマホが振動した。
『翔:この前はごめん、埋め合わせで今日はどう?』
そのメッセージを確認するなり、先ほどのため息が嘘のような笑みがこぼれる。
ーほらね、彼氏からのお誘いよ。
彼氏の翔がメッセージの中で言っている「この前」。それは、まさに須田部長との噂の原因になった日のことだ。
その日、めぐみは翔と行きつけのバーでデートの約束をしていた。
しかしめぐみがバーについた瞬間、翔からメッセージが届いたのだ。
『翔:子どもが熱出して、今日行けなくなったごめん』
半ばイライラして、乱暴にスマホを伏せるようにテーブルに置いたその瞬間、背後から声をかけられたのだ。
「あれ、めぐみさんじゃない?」須田から声を掛けられて…。そしてめぐみの経営者彼氏の素顔とは?
めぐみが振り返ると、そこには須田の姿があった。
ーえ…?須田さんがなんでこんなところに?
「この店、俺も好きでね。たまに1人で来るんだよ。めぐみさんも?」
「あ…はい、よく、1人で…」
それから互いに一杯だけお酒を飲み、他愛もない仕事の話をして、何事もなく解散したのだった。
ーたった数分のことなのにね…。そんなことより、今日のデート楽しみだわ。
カレンダーを見て、今日が翔からの月々の30万円の振り込み日であることを思い出す。
ー仕事帰りに、気になってたワンピースを新調してから向かおうかしら?
翔は自身で立ち上げたIT企業のCEOであり、妻と2人の子供の家族をもつ既婚者だ。4年前から、めぐみはその事情を承知の上で、翔の彼女になった。
「生活費に」ということで毎月振り込まれるお金。それは、翔の後ろめたさがさせていることだと思っている。
ーでも、翔からもらっているのはお金だけじゃない。
めぐみは、純粋に翔を尊敬しているのだ。
自身で事業を立ち上げ運営してきただけあって、彼の日々の仕事への姿勢や話し方、立ち振る舞いは一流。
経済力はもちろん大きなメリットだが、そんな翔の人としての魅力こそを好ましく思っていた。
そして、翔の立ち振る舞いから学んだことがひとつある。
ー『話し方や振る舞いが全て』よね…。
常に堂々として、決して隙を作らないように振る舞うこと。お客さんと話すときでも社内での打ち合わせでも、うまく優位に立ちながら完結に結論から述べること。
だから、理不尽な噂を流されたとしても動揺せずに堂々としておく。そうすれば大抵、次の日にはそんな噂は忘れ去られているのだ。
ー簡単なようで、出来ていない人の方が多いわ。
めぐみはそう思いながら、オフィスで樹里の姿を探した。自分の噂ですらないのに、明らかに挙動不審に動揺する樹里のことを見て、少し心配になったのだ。
「花山さん、さっきの続きだけどね。どんな修羅場が起きても、堂々としておく方がいいのよ」
樹里は「はい、そうですよね…」と隣に座る愛子の方をチラチラ見ながら、引きつったように笑っていた。
ー純粋で正直すぎると、いつか痛い目に合うのよね…。
可愛がっている後輩である樹里を少し心配そうに眺めた後、めぐみは颯爽と去っていった。
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