斬新なデザインを見る
ストラトス・ゼロ
1960年代が終わるころ、世界中の有名デザイナーたちは究極のショーカーを生み出すべく、熱い戦いを繰り広げていた。そこにまさしく彗星のように現れたベルトーネの斬新なコンセプトカーが並み居るライバルたちを吹き飛ばす。1970年のトリノ・ショーに出品されたストラトス・ゼロである。
マルチェロ・ガンディーニは片足を現実世界に、もう一方の足は自分だけの世界に置き、そしてヌッチオ・ベルトーネという実力と理解のある後ろ盾を持っていた。彼の芸術性はストラトス・ゼロで遺憾なく発揮されたと言える。ただしそれは物議を醸したことは間違いないが、車としてライバルのカロッツェリアの注意を引くことはそれほどなかった。
というのも、今でこそ自動車デザインの"クラシック"として崇められているストラトス・ゼロだが、1970年のトリノ・ショーに姿を現した際の反応は、否定的意見と無関心が入り混じったものだった。とにかく評価が分かれていたのである。一部の人にとってゼロはその奇抜さだけで十分に魅力的だったが、長続きするような種類のものではなく、また大多数の人にとっては、ただ単に刺激的な作品であり、自動車というよりは彫刻と言うべきものでそれ以上の意味を持たなかった。要するに現実味のあるデザインスタディとは受け止められなかったのだ。
しかし、後にストラトスHFとして知られるモータースポーツ史に輝く傑作マシーンに進化した事実を超えて、ゼロはそれ自体自動車として重要な意味を持ち、今なおデザイン界に影響を与えている。
アルファロメオ・イグアナ
1969年11月のトリノ・モーターショーで発表されたイグアナ。車高は3台の中で最も高い105cmだ。イタルデザインのジウジアーロは、現実離れした見せ物というショーカーの概念を越えて、すぐにでも市販できる車を造り上げた。
1970年代のウェッジシェイプを採用した点はカラボと同じだが、ジウジアーロはスチールによる耐荷重構造を付け加え、元のレーシングシャシーの強度を高めた。それを外から分かる形で残し、デザインの一部としたのである。S字を描くベルトラインがその好例で、低いノーズとテールのラインを見事に強調している。イグアナもガラスエリアが広く、コクピットは降り注ぐ光に包まれる。
当初は105.33.750.35116のシャシーをベースに、2リッター バンク角90° V8エンジンが搭載しているが、今はモントリオールの2.6リッターエンジン、ティーポ564に換装されている。
一見、重そうな雰囲気をしているが車重は700kgで、ホイールベースは2350mm、全長4050mm、車幅1780mm、高さは1050mm。ただならぬ雰囲気を漂わせているが、実際のサイズ感は至ってコンパクトだ。
現在はイタリア・ミラノにあるアルファロメオミュージアムでカラボなどと並び展示されている。
ランボルギーニ・マルツァル
最も偉大なショーカーの一台は、これまでほとんど人の目に触れずに眠りについていた。貴重なワンオフ・プロトタイプ、ランボルギーニ・マルツァルがそれである。
ランボルギーニのエンブレムを付けたその車は、若きマルチェロ・ガンディーニがベルトーネのために生み出した最新作であり、その前年のミウラと同様、闘牛にちなんで「マルツァル」と名付けられていた。最も有名なショーカーになりつつあったその車は4名分のシートとミドシップの2リッター6気筒エンジンを備え、ほとんどガラスで出来た宇宙船のように見えた。
マルツァルはその年の3月のサロン・ジュネーヴのベルトーネ・スタンドに初めて登場し、話題をさらった。観客はマルツァルの異様なボディを信じられないような表情で見つめていた。ベルギーのメーカーであるグラバーベルの協力を仰いで製作した4.5平方メートルのガラスとガルウィングドアによって、コクピットは透明な泡のように見えたのだ。
「ショーでの評判に胸を撫で下ろした」と語ってくれたのはマルチェロ・ガンディーニである。「見る人が驚いて、口をあんぐり開けてくれればショーカーは成功作と言える。実は私はちょっと心配していたんだ。というのも、ジュネーヴに向けて送り出すほんの数時間前、ベルトーネのスタジオで床掃除の男が咥えたばこで箒に寄りかかりながらゆっくりと車を見渡し、がっかりしたというように首を振ったのを見かけたんだ」
マルツァルのプロジェクトは1966年夏、ミウラ成功の熱気が冷めない頃に始まった。ジュネーヴで世の中を驚かせるのがベルトーネの伝統であり、ガンディーニは翌年用のショーモデルとしてその頃のスポーツカーとはまったく異なるものを考えていた。
「ショーカーの美しさとは、デザイナーに許された自由を映すものだ。ひらめきは必要なく、ルールにとらわれることなく、ただ行うだけだ。私はガラスで覆われたガルウィングドアの4シーターを作りたかった。ラフスケッチを描き、サンターガタの友人に技術的な手助けを求めた。先日亡くなったエンジニアのパオロ・スタンツァーニだ」
重いドアを開け、コクピットに身体を落とし込むと、そこはまるで光の国。ボディカラーとガラスとメタリックシルバーのレザーの組み合わせのおかげで、たとえどんよりとした曇りの日でも真夏の陽ざしの下にいるように感じた。シートは快適だが、まったく無防備に裸で座らせられているよう。
現在はオーナーがおり、格式高いコンクールイベントで走行している姿を見ることができる。