「妻は何か隠している…」帰宅しない妻を見張っていた夫が、目にしてしまった光景
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「妻には、仕事を頑張ってもっと輝いてほしい」
笑顔でそう言いながら腹の底では妻を格下に見て、本人も自覚せぬまま「俺の方が稼いでいる」というプライドを捨てきれない男は少なくない。
そんな男が、気づかぬうちに“5.2%側”になっていたら…?
男のプライドが脅かされ、自らの存在意義を探し始めたとき、夫はどんな決断をするのだろうか。
副業のために外泊ばかりを繰り返す、妻の伊織。そのことを同僚に相談すると、浮気を疑われてしまった。まさかとは思いつつも不安が拭えない新太(あらた)だったが…?
▶前回:高級ホテルで一体何をしている…?夫が言葉を失った、妻の異常な行動履歴
「準備したら、すぐに出かけるから」
朝の6時半。
伊織が帰ってきた物音で目が覚めた新太がリビングを見に行くと、彼女は冷たく言った。それだけ言うと、着替えを洗濯機に入れたり、化粧を直したりと、忙しなく動き続ける。
昨晩、自分の連絡を無視したことや数日家を空けていたことに対して、なんの謝罪の言葉もないことに、新太は苛立つ。
高級ホテルに泊まっていたとは、一体どういうことなのか。
「昨日のことだけど…」
伊織を問いただそうと切り出した新太だが、途中で言葉を止めた。彼女の顔を見て、ぎょっとしたのだ。
顔は青白く、目の下にはクマが出来ていて、肌もかなり荒れている。見るからに体調が悪そうだ。
そんな様子に不安を覚えた新太は、伊織に尋ねた。
「体調は大丈夫なのか?」
だが伊織は、面倒そうに反応するだけで、自分と目も合わせようとしない。
「え…。ああ」
そして、あくびをしながら出かける準備を続ける。
「ちゃんと寝てるのか?ご飯食べてるのか?」
心配になった新太が思わず聞くと、伊織は「はあ…」とため息をついた。そして新太の方をギロリと睨み、こう言い放ったのだ。
「うるさいっ」
新太は、伊織が初めて見せる冷酷な態度に固まってしまった。妻とすれ違っていくことに、不安を覚えた新太は…?
情報収集
「どうしたの、深刻な顔してるけど」
オフィスの最寄駅で降りた新太は、ビルに向かう駅のコンコースで、うしろから唐突に話しかけられた。
「ああ。エマさん」
振り返るとそこには、新太と同期入社の公認会計士・四谷エマがいた。
アメリカ人の父と日本人の母を持つエマは、スラリと背が高く、はっきりした目鼻立ち。小さな顔にショートカットがよく似合う、モデルのような美貌の持ち主だ。
入社当初はすごい美人が入社してきたと男性陣が沸いていたらしいが、ズバズバはっきり物を言う性格ゆえ、最近は皆に“エマさん”と呼ばれて、恐れられている。
新太は、エマとたまたま好きな映画の話で盛り上がって以来、仲良くしてもらっているのだ。
「どう?伊織とは」
手に持ったコーヒーを飲みながら、エマが尋ねた。そう。エマは、伊織を紹介してくれた人物。2人は大学の同級生なのだ。
「それがさ…」
新太は、おずおずと最近の伊織について話し始めた。
◆
「あなたも聞いたと思うけど」
その夜。
新太は、仕事終わりに『ポン・デュ・ガール』にやってきていた。朝、伊織について相談すると、立ち話ではなくゆっくり時間を取ろうと、飲みに誘ってくれたのだ。
伊織の情報収集をしたかった新太にとって、それはありがたいことだった。
到着するなり、彼女はサッとオーダーを決める。パテに、店の名物・黒トリュフのオムレツ、エスカルゴ。あっという間に注文を終えたエマは、運ばれてきた赤ワインを一口飲んで話し始めた。
「ちょうどこの間、同期で集まったのよ」
「ああ、なんとなく伊織から聞いた」
新太はうなずいた。今は夫婦の会話もめっきり減っているが、伊織は出かける用事だけは報告してくるのだ。
「そこで伊織から聞いたわ。副業のこと。自分もチャレンジしてみたら、意外とうまくいったって言ってた。すごくイキイキしてたから、何も問題だと思わなかったんだけど」
「そう…」
―イキイキしていた、か。
新太は朝見た彼女の様子を思い出す。あの、いかにも体調が悪そうだった姿を。
自分が見た伊織と、エマが見た伊織の様子があまりにも違いすぎて、新太の頭は混乱する。
するとエマは、新太の混乱を察したのか、こう尋ねてきた。
「何かあったんでしょ?」
新太はエマに、最近の伊織が外泊続きで体調が悪そうなこと。後輩・三上に浮気の可能性があると指摘されて否定出来ないことなどを、洗いざらい話した。
「なるほど、それで不安になったわけね。まあ、三上くんの言うことも一理あるかもね」
再びワインを口にしたエマは、新太の予想を裏切る提案をしてきたのだ。エマが提案してきた、まさかの作戦とは…?
張り込み
「三上の言うことって、えっ…」
新太は言葉を失った。同時に、彼の「浮気をしても罪悪感がないのは女の方らしいですよ」という言葉が、脳内にフラッシュバックしてくる。
そんな新太の反応を見たエマは、意地悪く聞いてきた。
「何、気になるの?伊織が浮気してるんじゃないかって」
まさかエマは、伊織の何かを知っているのだろうか。そうだとしたら、聞きたいような、聞きたくないような、そんな気持ちだった。
「いや…」
とりあえず否定の言葉を口にしてみるが、情報があるなら知りたい。そんなことを考えていると、エマはふぅ、と息を吐いた。
「冗談よ。伊織が浮気してるとは思ってない。でも、事実確認は必要なんじゃないかしら」
そしてエマは続けた。
「それで、解決法なんだけど」
一転、真面目な表情を作ったエマは、こう尋ねてきた。
「今日の伊織の予定は?」
「あそこ?」
エマが指さした方向にあるのは、伊織が2日続けて宿泊している高級ホテルだ。彼女が提案してきたのは“現地に乗り込む”というありきたりな方法だった。
「そうみたいだ」
新太は今一度、画面を確認した。ホテルの予約サイトでは、伊織は今晩ここに宿泊する予定になっている。
「ここで張り込みをして、本当に伊織が現れるのか確かめよう」というエマの提案を受け入れたが、新太は内心複雑だった。
だって、自分が知りたくない事実が明らかになる可能性だってあるのだから。
それに実際、彼女が現れるのかも分からない。何時間張り込みすれば良いのだろうか。そんなことを考えていると、エマが声をあげた。
「あっ」
エマの見つめる方向を、新太も急いで確認する。すると、その視線の先には、ホテルのラウンジで話す伊織とスーツ姿の男性の姿があった。
少し距離があるので詳細はよく見えないが、一緒にいる男性は伊織より年上のようだ。この年齢差が、新太の不安を増幅させる。見たくなくて、つい視線を逸らしてしまう。
―まさか、だよな。
三上の言葉が脳裏を過ぎる。新太の心臓はバクバクと音を立てて、今にも飛び出しそうだ。
「あ、動いた」
エマの言葉に視線を戻すと、伊織と話していた男は開いていたパソコンを閉じ、深々と礼をしながら歩き去って行くのが見えた。
そして伊織はそれを見送ったあと、何やらスマホをいじりながらそのままホテルの中へと歩いて行ったのだ。
その瞬間、新太のスマホが震える。それは、今し方伊織が送ったと思われるメッセージだった。
―今仕事が終わったんだけど、今日も泊まっていくね。
「なんだ…。本当に仕事みたいね。でもこんな良いホテルに泊まって仕事なんてうらやましい限りだわ。伊織、相当稼いでるんじゃない?」
呑気なことを言うエマの隣で、新太はまだ不安が拭いきれていなかった。
なぜ高級ホテルに泊まる必要があるのだろうか。それに彼女の能力から言って、そんなに稼いでいるとも思えない。
今朝の彼女の冷酷な顔や、自分を遠ざけるような行動の数々を思い出すにつけ、やはり何か隠している気がしてならないのだ。
『明日は、絶対に帰ってきてください。話があります。これ以上我慢出来ません』
新太は、彼女に危機感を与えさせるようなメッセージを送りつける。
…しかし伊織から返ってきたのは、想定外のメッセージだったのだ。
『私も話したいことがあります。もう、我慢出来ません』
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ついに伊織が本音を打ち明ける。新太が知ってしまった、衝撃の事実とは…?-
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