スタバの“チャイティーラテ”がきっかけで…。男女が運命を感じた理由とは
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恋の舞台は、東京だけじゃない。
思いがけず、旅先で恋に落ちてしまうことだって、あるかもしれない……。
とっておきの恋と旅の思い出は、何年経っても色褪せず、その人の心を彩り続ける。
これは“旅”を通じて、新しい恋に出会った女達の4話完結ショートストーリー。
1話〜4話の舞台は、バンコク。
◆これまでのあらすじ
バンコクで同じ時を共有するうちに惹かれ合った英莉と樹。しかし、樹に彼女がいることを知った英莉は、自分の気持ちを伝えないままバンコクを後にしLINEをブロックした…その後の、2人の運命は?
Side 英莉
バンコクから帰国し、1ヵ月ほどたち、すっかり日常が戻ってきた。
樹のことは、“旅先の恋”と割り切って、LINEもブロックして忘れたつもりでいたのに、和歌奈の投稿1つで心がざわついてしまう自分がいる。
『今日で付き合って3年半!遠距離になってからもう2年以上経つなんて早いな。これは1年前のpic♡』
そんな文章と共に添えられた写真は、バンコクで撮ったものだろうか。日傘をさした和歌奈と、今より少し日焼けした樹が肩を並べて寄り添っているものだった。
ーそうだよね…和歌奈さんの彼氏なんだよ、樹さんは…。
もういい加減に忘れよう、そう思った英莉はInstagramを閉じ、すぐさまLINEを起動した。
「ねえねえ。来週の金曜、外銀の先輩と食事会するんだけど英莉もどう?」
さっき大学時代の友人から来ていたメッセージを既読にし、それから素早く返信を打つ。
「来週空いてるから行きたい!お誘いありがとう♡」
彼のことを忘れるためにも、新しい出会いを本気で探そうと決意した。
…その間に、樹が英莉にメッセージを送っていたなんて知る由もなかった。それから1年後。樹がバンコクから帰国した。英莉との恋愛の行方は…?
◆
「ねぇねぇ、樹さんって日本に帰国したみたいよ。知ってた?」
バンコク旅行から1年。
『デリツィオーゾ フィレンツェ』で、英莉はいつものように桃華と共に華金を謳歌していた。
「へ、へぇ…そうなんだ。先輩から聞いたの?」
久しぶりに“樹”という名前を聞いて、動揺してしまった。それを誤魔化すためにワイングラスに手を伸ばす。
「そうだよ。久しぶりにLINEしてみたら?“例の彼女“とは別れてるかもしれないじゃん」
桃華は大きな瞳で英莉のことをジッと見つめている。
「いいよ、今さら…」
多分、樹は和歌奈と別れている。前に何気なく彼女のインスタアカウントを覗いてみたら、樹が写っている写真が全て削除されていた。
だからと言って、何だというのか。
「もう、英莉ってば変なとこマジメなんだからー!今、彼氏がいるからって、他の男に連絡したら駄目ってルールはないのに」
英莉と樹さん、かなりお似合いだったんだけどなぁ…と呟く桃華にしかめ面をしてみせる。
「そんなんじゃないよ。本当にもういいの!」
同い年で、信託銀行勤務の彼と付き合い始めて半年。前だったら“ドキドキしない”だとか、“あんまり好きじゃないかも”とか言ってすぐに別れていたかもしれない。
―今の彼は、私のことを大事にしてくれる、真面目でいい人なんだから…。
英莉はそう自分に言い聞かせて、パスタを口に運んだ…。
Side 樹
バンコク旅行から、3年後の2020年11月。
GINAZA SIXの蔦屋書店で“彼女”を見つけたとき、見間違いではないかと思い何度も瞬きをした。
しかし「旅」のコーナーで本を手に取りパラパラめくっているその女性は、紛れもなく英莉だ。
肩のあたりで綺麗に切りそろえられた艶のある栗色のボブヘア。元から美人だったが、3年の時を経て更に大人の色気が増していた。
あの後…、彼女がバンコクを去ったあと、LINEしたが既読がついたままスルーされた。その後もう一度メッセージを送ってみたが、それは、既読にすらならなかった。
―まさかブロックされるとは…。
何度彼女とのトーク画面を開いては、溜息をついたことか。
以前、赴任を終えバンコクから帰国したあと、東京駅周辺で英莉を見かけたこともあった。仕事終わりに同僚から誘われた食事会に向かう道すがら、樹の目の前を1組の男女が談笑しながら通り過ぎていったのだ。
「あっ」
思わず小さく声を上げたが英莉は気づかない。それもそのはず、隣を歩くスーツ姿の男性と肩を寄せ合い歩いていたから。
―彼氏…かな…
それからは、1度も彼女に会っていないし、勿論連絡もしていない。だから今、目の前に英莉がいるというのに、声をかけるときは柄にもなく少し緊張した。
「あれ、もしかして英莉ちゃん?」
こちらを振り向いた英莉は、樹の顔を見て驚いた表情をして固まっている。
「やっぱり!久しぶり。俺のこと覚えてる?」
「も、もちろん…覚えてるよ」
懐かしさと久しぶりに会えた嬉しさがこみ上げてきて、思わず樹は彼女をお茶に誘ったのだった。
蔦屋書店内にあるスターバックス。英莉はドリップコーヒーを、樹はチャイティーラテを注文し、茶色いテーブルに向かい合って座っていた。
「日本に帰って来てたんだね。仕事は順調?」
「まぁまぁかな。今は本社がある丸の内で働いてる。英莉ちゃんも元気そうだね」
そこからはお互いの仕事や近況についての話題に移る。3年ぶりとは思えないくらい、話は尽きなかった。
「…そういえば英莉ちゃん、今彼氏とかいる?」
何気なく、会話の中で尋ねてみた。樹の質問に対する、英莉の答えとは…?
「うーん、そうねぇ…」
サラサラの髪を耳にかけて、英莉は俯いた。そして逆に樹に質問してくる。
「樹さんは“彼女”いるの?」
「今は、いないよ…」
2人の間に沈黙が流れた。微妙に言葉を濁すということは、誰かいるということなのだろうか。
そんな風に考えあぐねていると、沈黙が気まずいと思ったのか、英莉が素早く話題を変えた。
「ていうか、樹さんってチャイティーラテ好きなの?」
目線は樹が手に持っているペーパーカップに注がれている。
「うん。俺これが1番好きかも。前に店員さんにお勧めされてからは“オールミルク”で頼んでる」
駐在前、会社近くのスターバックスでチャイティーラテを飲みながら毎朝勉強していたことを思い出す。海外志向が強かった樹は、語学力を身につけるために必死だった。
「私、大学のときスタバで働いてたよ。チャイティーラテ、確かにオールミルクにすると美味しいよね。あとは牛乳を豆乳に変えたり」
「ちなみにどこのお店で働いてたの?」
「丸の内パークビルで。4席しかなくて、かなり小さい店舗だったし、もう6年以上前の話だけど」
英莉の言葉に、樹は驚きの声を上げる。
「え…その店、俺が毎日通ってたとこだ」
周りの空気が一瞬止まった気がした。丸の内パークビルディングには樹が働く会社の本社が入っている。そこで英莉が働いていたというなら…。
「もしかして、毎朝カウンター席に座って、チャイティーラテを飲みながら勉強してた常連のお客様って…」
2人で思わず顔を見合わせてしまう。
「それ、多分俺だ。…たしかに英莉ちゃんと初めてバンコクで会った時、昔どっかで会ったことあるような気がしたんだよな」
点と点がようやく繋がった気がした。
「私も…実は前にどこかで会ったことあるような気がしてた」
記憶を呼び起こせば、たしかにそのお店にはとても美人な店員さんがいた。よくカウンター越しに、世間話程度の雑談を交わしていたことを思い出す。
「すごいね、こんな偶然ってあるんだ」
しみじみとつぶやく樹に英莉もうなずく。
“バンコクで初めて会った”とずっと思い込んでいたのに、実は既に昔の自分と接点があったなんて…。
「英莉ちゃん、この後時間ある?」
「えっ?」
もっと英莉と話したいから、いつもよりゆっくり飲んでいたチャイティーラテ。ペーパーカップが空になったタイミングで、樹は英莉に声をかける。
最初はお茶だけして帰るつもりだった。しかしそれでは、せっかく会えたのに、前と何も変わらない。
英莉にはきっと彼氏がいるし、今さら手遅れかもしれない。
しかしあの時…中途半端な恋愛をして後悔した自分の気持ちや、彼女に対して感じていた“好き”という気持ちだけでも、ちゃんと伝えたいと思った。
「よかったら一緒に食事でもどうかなって。せっかく3年ぶりに会えたんだし」
英莉はしばらく考え込むように俯いたままだったが、それからゆっくりと顔を上げた。
「いいよ」
ふわりと花が咲くような笑顔。ああこの表情に自分は惹かれたのだと改めて思う。
じゃあ行こうか、と立ち上がった英莉の左手を、樹の右手が優しく包み込んだのだった…。
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次の舞台はドバイ。果たしてどんな恋模様が繰り広げられるのか?-
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