今夜そのまま泊まろうと思ったら…年上の美女が男に差し出した、信じられないモノ
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そんな「都合のイイ関係」に苦しむ男女たち。
好きになった方が負け。結局そのままズルズルと振り回され、泣きを見る者が大半だろう。だけどもし、そこから形勢逆転する“虎の巻”があったなら…?
坂本なつめ(28)は、幼馴染の宮本蓮が大好き。でも彼はある女性の「都合のイイ男」にされていた。
諦めないで。私が本命になる方法を伝授しましょう。
◆これまでのあらすじ
なつめに秘密で、マイコは蓮を自宅に招き、一夜を共にしていた。その後は蓮からの連絡をスルーし続けていたマイコだが、なつめと蓮が会うと知った日に、自宅に彼を呼び出して…。
▶前回:2週間ぶりに食事した後、さっさとタクシーに乗せられて…。女が男からされた酷い仕打ち
カモミールの柔らかな香りが、キッチンにふわりと立ち込めた。蓮はグラスポットの蓋を閉じ、電気ケトルを元の場所に戻す。
「いい匂い」
ダイニングテーブルに座ったマイコが、顔だけをこちらに向けて微笑んだ。
ルームウェアだという黒いシルクのローブ姿が眩しくて、蓮はふいと視線を外す。ローズの柄が描かれたマイセンのカップにハーブティーを注ぎ、マイコの手元に置いた。
「ありがと、蓮くん」
「いえ…」
蓮は言葉少なに首を振り、椅子を引く。ふと置時計に目を遣ると、午前0時を少し過ぎていた。
マイコと最初に関係を持ってから、連絡も取れずに2週間。諦めたくなかったが、しつこく連絡して嫌われるのも困る。
恋愛経験がほとんどない蓮は、自分なりに苦しみ続けていたつもりだったのだが…。
2時間前に蓮を呼び出したマイコは、ドアを開けるなりけろっとした様子で「わー今日もかっこいいね」と笑ってキスをしてきた。
そのまま大した会話もせずに寝室に誘われ、事が済むと「寝る前にハーブティー飲みたいな」とねだられたのだ。
連絡が途絶えたのは、避けられていたからではない。ただ彼女が多忙で気まぐれだっただけなんだ。でなければ、また家に呼ばれるはずがない。
「明日、どこか朝ごはん食べに行きませんか。いいところ知ってるんです」
蓮は、自分の分のハーブティーを注ぎながら言った。
ーここからなら、代官山の『GARDEN HOUSE CRAFTS』までタクシーで10分もかからないくらいだな。マイコさんはあのテラス席がよく似合うだろうな。
思いを巡らせながら顔を上げると、喜ぶと思ったマイコは想像に反して、曖昧な表情を浮かべていた。
「んー…っと」
華奢な手がカップをソーサーに戻す。マイコはおもむろに立ち上がり、ウォーターサーバーの横に置いていたFENDIのハンドバッグから財布を取り出し、そして。
「ごめんね、今日は一人で寝たい気分なの。タクシーで帰ってくれる?」マイコが差し出した信じられないものに、蓮は…
差し出されたのは、一万円札だった。
「え…」
思いもよらない展開に瞬きをし、マイコの顔を見る。
口元には、さっきと何ら変わらない穏やかな笑み。蓮は戸惑いながらも、首を横に振った。
「要らない。彼女にお金出させるわけないじゃないですか」
「えっ」
今度は、マイコが困惑に眉を寄せる番だった。
「彼女って、何のこと?」
これまで全く気にならなかった置時計の針の音が、不意に浮かび上がって聞こえた。蓮は動悸を落ち着かせようと息を吐き、まっすぐにマイコの大きな瞳を見つめる。
「順番が逆になっちゃったけど、マイコさんときちんと付き合いたいです」
「別にこういう関係になったからとかでなくて、前から憧れていて…」と蓮は懸命に紡ぐ。その様子にきょとんとしていたマイコは、不意に笑い出した。
「嘘やろ、めっちゃピュア」
けらけらと笑い続けるマイコに、蓮は立ち尽くす。笑いは止まず、マイコは目尻に浮かんだ涙を指先で拭った。
「ごめん。蓮くんと付き合う気は全くないよ」
全身の血液が凍るような感覚に、体が強張る。
「…彼氏いるんですか」
声が掠れる。マイコはひらりと手を振った。
「そうじゃなくて。彼氏とかいらんねん」
結婚失敗してるし、と話す口調は、やっぱりあっけらかんとしている。
「じゃあ、付き合ってほしいです」
縋る自分を情けないと客観視しつつも、ここで引き下がるわけにはいかない。
家に誘ってもらって、「可愛い」と何度もキスされ、恋人にカテゴライズされているとばかり思いこんでいた。
だが、マイコは蓮に歩み寄り爪先で立つと、蓮の頬に唇を寄せた。
「彼氏とか旦那とか、とにかく男はもういらんねん。勘違いさせてごめんね」
呆然とする蓮のスラックスのポケットに一万円札を押し込みながら、「でもね」と囁く。
「蓮くん可愛いし素直でいい子やし、これからもこうして会いたいなとは思ってるんよ。でも付き合うことにこだわるんだったら、これでおしまい」
もう会えないね。そう言うハスキーな声が、時計の針の音と重なる。首が絞められたように、息が苦しい。
どちらを選んでも、地獄だ。
◆
『ピッツェリア・サバティーニ 青山』で、私は静かに赤ワインを飲んでいた。
同じテーブルのみんなは賑やかに談笑しているし、本来なら加わりたいところなのだが、そうもいかない理由があった。
「ねえ、ピザ食べる?取ろうか?」
はす向かいから優しく声をかけてくる彼、春樹のせいである。
「ありがとう、大丈夫」
断りながら、私は隣に座る希美ちゃんの膝をテーブルの下で軽く叩いた。ごめん、と希美ちゃんが声を出さずに唇だけで謝る。
営業部の希美ちゃんに突然「うちの若手が集まる飲み会来ない?」と誘われたのは今朝のこと。
「今日は呼んでもらえてよかったよ。テレビも斜陽産業だし、時代はもうWEBだよな」
「TQBテレビの営業マンがまたまたそんな」
あっはっは、と男たちは盛り上がっている。私は調子を合わせるように曖昧に笑った。
お店に到着して早々、まず私は希美ちゃんをトイレで問い詰めた。
「田中が、別件で一緒にいた大学同期のキー局のやつも連れてっていい?って言ってきて。こんな偶然あると思わないじゃん。ほんとに知らなかったんだよう」と必死で釈明した希美ちゃん。
田中は私の恋愛事情まで知らないので責められない。漏れそうになるため息を、赤ワインで喉の奥に流し込む。
すっきり別れられなかった元カレが斜め前にいる飲み会ほど、気まずいものはない。元カレの春樹をなつめはうまくかわせるのか
「まだ前と同じマンションなんだ」
南青山の交差点で拾ったタクシーに「俺もこっち方面だから」と乗り込んできた春樹は、にこにこと人のよさそうな笑顔で言った。
「ていうか、なっちゃん飲み足りた?俺まだもう少し飲みたい気分」
車の振動に合わせて、春樹の手が私の手の甲にちらりと触れる。うーん、デジャヴだ。
「なっちゃんち、行っていい?」
おいおい、と突っ込みたいのをぐっとこらえる。あまりの既視感にチカチカした。
お食事会で知り合った3年前。春樹の見た目がタイプど真ん中で、最初からいいなと思っていた。
帰りに「俺もこっち方面だから」とタクシーに乗り込んできて、「飲み足りなくない?俺の家に良いワインがある」と誘われ、そこからはお察しの通り。
結局、自分で自分の格を下げたのだ。全くもって反省しかない。真綿でじわじわと首を絞められ、やすりでガリガリと心を削るような夜を、何度も過ごした。
あの頃の気持ちは、昨日のことのようにすぐ思い出せる。
私はすっと手を引いて、スマホを取り出す。特に用事があるわけじゃないが、そっけなさを演出するための小道具だ。
「逆になんでうちに上がれると思ったの」
「えー」
当時の私は、こんなこと言えなかった。春樹が「来て」と言えばタクシーに飛び乗り、「今から行く」と言われれば風呂上がりでも化粧をした。
「なっちゃんさ、もう一回俺と付き合おうよ」
そんな都合のいい女だった私が血の滲むような努力の末、今や立場逆転。復縁をお願いされている。
赤信号で車が止まり、ウィンカーの音が車内に響く。ドライバーさんはこの会話聞いてるのかな、なんてどうでもいいことを思いながら、「付き合わないよ」と返した。
「俺のことあんなに好き好きって言ってたのになあ」
笑いながら言う春樹を無視し、私はインスタを起動した。好き好きって、確かに言いました。だって当時は好きだったから。
どうして男って、元カノがいつまでも自分のことを好きだと思ってるんだろう。
話し続ける春樹を意識の外にやるべく、私は無心でストーリーをスワイプする。
都合のいい関係って、言い換えれば主従関係。立場の弱い人の身も心も、場合によってはお金すら、何もかもが搾取されるシステムだ。でも望んでそういう立場にいる女の子の多いこと多いこと。
『苦しい。。。こんな関係もうやめたい。。。でも好きなのやめられない。。。』
ほら、言ってるそばから黒字に白い小さな文字の病みストーリーが登場。
そんな風に人のことを搾取できちゃう男と交際にこぎつけても、幸せにならないよ。そんな忠告をしたところで、恋してる子のほとんどは自分から関係を断ち切れない。
ため息をついたとたん、不意にスマホが震えた。画面に浮かんだLINEのポップアップをすぐにタップ。蓮だった。
『きのう急に帰ってごめん。近いうち会えない?話したいことがある』
添えられたURLを押すと、飛んだリンク先はフォーシーズンズホテルの『モティーフ レストラン&バー』。私でも知っているラグジュアリーなレストラン。今まで蓮が送ってきた店とは、全く違う。
どきん、と鼓動が大きくなった。幼馴染の“日常ご飯”にしては素敵すぎるお店、そして「話したいことがある」。
ーそれってもう、あれしかないよね。
私は頬が緩むのを抑えきれないまま、「とりあえず一軒だけ行こうよ」とつついてくる春樹の手を払いのけた。
▶前回:2週間ぶりに食事した後、さっさとタクシーに乗せられて…。女が男からされた酷い仕打ち
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「都合のいい男」になることを自ら選んでしまった蓮。何も知らず浮足立つなつめは、呼び出された店でショックを受ける…。-
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