シンプルな“驚き”と“泣き”、そしてCGの「高度なリアリティ」 劇場版『モンストアニメ』は“日本のアニメ業界の現在”が詰まっている

写真拡大 (全12枚)

世界累計利用者数が5,400万人に迫るなど、国内外を問わずに幅広く支持を集めているスマホアプリのひっぱりハンティングRPG 「モンスターストライク(通称:モンスト)」。そのモンストが、アニメも展開しているのはご存知でしょうか? 

2015年からYouTubeで放送を開始した「モンストアニメ」は世界累計再生4億回を記録。11月6日からは劇場版「ルシファー 絶望の夜明け」が公開されることが決まり、大きな話題となっています。

モンストファンをはじめ、アニメ界からも期待されているという本作。気になるのが「今からでもモンストアニメを楽しむことはできるのだろうか?」という部分でしょう。筆者もアニメ好きではありますが、モンストアニメについては恥ずかしながら、ほとんど予備知識がありません…。

そんな何もわからないまっさらな状態を活かして、劇場版モンスト「ルシファー 絶望の夜明け」のプロデューサーを務める鈴木洋平さん、そして脚本家の本田雅也さんにお話をうかがってまいりました。こんな筆者でも、映画を楽しめますか?


(左)プロデューサー・鈴木洋平さん (右)脚本家・本田雅也さん

「ゲームを知らないから何をやっているのか分からない」ということはない

唐突な質問で大変恐縮ですが、僕は「モンストアニメ」に対する知識が全くありません。人気作品となると劇場版から入るという方も多いと思いますが、初めて見る方に向けてどのような工夫をされているのでしょうか?
鈴木 アプリの「モンスト」は幅広いユーザー層に遊んでいただいています。これまでYouTubeで配信しているアニメシリーズを楽しんできた多くのファンの期待を担保しつつも、まだアニメを視聴したことのないゲームユーザーやモンスト自体を経験したことのない方でもわかりやすく、かつ深く感情移入できるように制作しています。
本田 脚本的にも、シリーズを見ていない方がまったく分からない感じにはならないようにしています。
初見で入る難しさのひとつに「登場キャラクターの多さ」もあると思いますが、意識された事はあるのでしょうか?
本田 そこはやっぱり難しいポイントでしたね。正直、僕はある程度、登場人物を絞るしかないかなと割り切ろうとも考えていたんですが、静野監督が愛情深い方なので「そうはさせないぞ、全員にちゃんと見せ場を作ろう」と(笑)。
鈴木 登場するキャラクター全員の感情を描いていくと尺が長くなり過ぎるし、主体も見えづらくなりがちです……。今回の映画では「ルシファー」という人物が主人公ですが、彼女もなかなか難しいキャラクター性で、まっすぐな信念の持ち主でぶれずに仲間の為に行動し続ける人物で、共感できるしファンからも愛されているのですが、とにかくしゃべってくれないのでわかりづらい(笑)。

なので、ルシファーの代わりにもう一人の主人公として、オラゴンというよくしゃべるキャラクターに登場してもらいルシファーの思いを受け止めてもらいました。脚本には慎重に議論しながらも多くのアイディアを詰め込んでいます。
今回の物語で主人公となるルシファー(中央上)をはじめ、数多くのキャラクターが登場する
本田  ただ、今回のお話はゲームのシステムとリンクしているわけではないので、「ゲームを知らないから分からない」ということはないかと思います。
鈴木 アニメを立ち上げた当初は、バトルシーンをゲームの特性にあわせて四角いステージでカンカンするような演出や、キャラクターの特殊スキルやステージギミックを表現してみたのですが、やってみてこれは余りに窮屈だなと。制約が多すぎて矛盾が出るし、キャラクターも魅力的に描けないので。それ以降はアニメーション作品として最大化するように表現してきました。
物語がゲームのシステムと切り離されているから、劇場版を入り口にアニメにハマるということも十分に可能になっているということでしょうか?
本田 そうあってほしいと思っています。今回の劇場版を観る上で「ルシファーは何を目的にしているんだろう?」というところを追っていくとわかりやすいんじゃないでしょうか。

「仲間の裏切りから始まる」 既存ファンも新規も同じ目線で楽しめる物語に

今回の劇場版はルシファーの裏切りから物語が始まる
予告編を見ても「ルシファー」は今回の劇場版では敵のような描かれ方をしているようですが、もともとは敵ではなかったということでしょうか。
本田 第3期のアニメを観ていただいている方はご存知かと思いますが、そうではありません。そして、今まで観てきたお客さんもなんで彼女がこんなことになっているのかはわからないはず。そういう意味では、新規のお客さんも、これまで追ってきてくださったお客さんも、同じ心境で楽しめますよね。
鈴木 もしかしたら、最初は特徴的なキャラクターデザインに抵抗を持たれる方もいらっしゃるかもしれません。それぞれヒーローのような超人的能力は持っていますが普通の人間として気にせず見ることができれば、物語に没入して楽しめると思います。
本田 まったくゲームを知らないという方にとっては、伝承や神話の登場人物と同じ名前をみんなが持っているという点も「なんでルシファーが女性なんだ? あんな服装をしているんだ?」みたいに混乱しちゃうかもしれません。そこはもうそういうものだと割り切っていただければ(笑)。
逆に知識のない方…、例えばお子さんの付き添いなどでお父さんが劇場版を観に行くとしたら、事前にここだけは予習しておいた方が楽しめるというコンテンツはありますか?
本田 やっぱりYouTubeで配信されている第3期のモンストアニメですね。みんな本当に仲が良くて、「ルシファー含めて全員の力を結集して強大な敵を一度は倒した」ということを前提として持っておくと、より楽しめると思います。よく知らない人がいきなり牙をむいてきたわけではなく、深い絆で結ばれていた人間が裏切ったと。
鈴木 モンストアニメはシーズンごとにそれぞれのテーマを設定していますが、全体を通じて“友情”を普遍的で重要なテーマとして描いてきているので、それが冒頭から壊れていっていることがポイントになっています。
本田 最初から波乱含みの展開ですが、登場人物たちの考え方もバラバラ。それぞれの信念に基づいて行動しているので、自分が共感できるキャラクターを探してみるのもおもしろいかもしれません。

こだわったのはシンプルに“驚き”を生み出すこと

映像作品の制作上、とくにこだわってきたポイントも教えてください。
鈴木 観てくださる方の感情が最終的にどうなるかですね。感動や驚きなど視聴者の感情が最も揺れ動くポイントを決めて、登場人物の感情や行動がどのように繋がっていくかにこだわって制作しています。

たとえば「ノア 方舟の救世主」と呼ばれる物語では、ノアと物語の中で出会った友達が最後に命の交換をします。このシーンで観る側の感動と涙が最大化するように、最初は悪者としてノアを騙そうと近づいたはずなのに、ノアと接していく中で大事なことに気づき始め、最後は友達であるノアのために自らの命と交換して救います。

上手くできすぎて映像のチェックをする度に僕自身がボロボロ泣いていました(笑)。脚本だけではなく演出もキャラクターの細かな表現も、全てを最大化したいポイントに向けて作り込んでいます。
わかりやすい流れですね(笑)。
鈴木 こだわりはシンプルです。アニメ制作には多くのスタッフの熱意が必要ですから、みんなで意識をひとつに出来る合言葉があると映像の魅力が増していきます。あと、映像面ではこの作品は全てCGで制作しているので、リアリティを追求しすぎたCG特有の不気味さや違和感を、視聴者が感じることのないよう表情や体の動きにも気を配っています。

この些細な違和感をつぶしていくのって、強烈にコストがかかるんです。でも、お客さんが集中できなくなったり急に白けてしまう瞬間がないよう、ちゃんとやりきりましょうと。

オールCGでも高度なリアリティを追求しているそう
鈴木 あと、ほかにもいろいろとこだわったポイントはあって……。
本田 僕は鈴木さんが一番こだわったポイントを覚えていますよ。
鈴木 えっ、どこですか?
本田 詳しいことはネタバレになってしまうので言えませんが、「とある人物が死ぬシーン」が劇中に出てきます。これはこの作品の超重要人物なので、観ている側も「えっ、こんなところで死ぬわけないでしょ?」と高をくくってしまうようなものですが、「だからこそ本当に死んだと理解させる感じにならないとダメなんだ。映画自体が成立しなくなっちゃう」って本読みのときから力説していましたよね。覚えてます?
鈴木 覚えてないです(笑)でも、そこは、この作品に仕掛けた最大の驚きと、驚きの後に登場人物たちの感情を絶望に突き落とさなければいけない重要なポイントだったので、強く意識していたし、しつこく発言していたのかもしれないですね(笑)
本田 「そんな展開があったらおもしろいけど、本当にそれが成立するのか? 観ている人にそれを本当の出来事だと思ってもらうにはどうしたらいいのか?」ってずっと話し合っていましたよね。

豪華な声優陣にも注目! “アニメ業界の現在”が感じられる作品に

本作では豪華な声優陣も注目を集めています。
鈴木 本当に、収録時は豪華声優だけが集まった空間ということで特別な空気感がありました。人気声優さんばかりなのでスケジュール調整が上手くいって、主要キャスト全員揃って収録できたこと自体も奇跡と言えるくらいで(笑)実力派しかいない上に、これまで長く演じていただいているキャラクターも多いので、シーン毎の細かな設定を補足する程度で、非常にスムーズに収録もできました。
本田 みなさん、キャラクター愛が強い方ばかりですし。
鈴木 役者さんから「このシーンでこのキャラクターはどういう心情なのか?」と問いをいただいた時に、僕が記憶がなくて間違ったことを言ったりしてましたが(笑)無事、訂正できてよかったです(笑)

(上段左から)小倉唯さん、内田真礼さん、福島潤さん
(下段左から)斉藤壮馬さん、日笠陽子さん、水樹奈々さん
全幅の信頼をおける現場なんですね。
鈴木 クリエイターさんもキャストさんも、今まで積み重ねてきたものがあってこそ。これは僕と本田さんの関係性もそうだと思います。上がってきた脚本に対して、一声目から「違う」って言えるのはこれまでの関係があるからです。普通だったら怒って帰っちゃってもおかしくない(笑)。
本田 なんなんでしょうね、この感じ(笑)。
鈴木 もちろん、監督の静野さん含めてチームのコミュニケーションは非常にスムーズでした。ちなみに静野さんは本当にプロフェッショナルな方で、脚本を読みながら頭の中で既に映像に置き換えられているので、俯瞰から細部まで緻密に指示を出されていて、このひとの頭脳はどれだけ優れてるんだろうって、ずっと不思議に思ったりしながら(笑)楽しく厳しく脚本開発をしていました。
本田 「この時間でこの地点からこの地点まで行けます?」みたいなことを普通に聞かれますよね。
鈴木 終盤の展開では、舞台が3箇所に分岐しながら出来事が進行していくので、目まぐるしくカメラが切り替わって行くのですが、時間や空間を超えて静野さんが矛盾点をつぶしていました。
本田 基となった脚本を見て、違いを見比べてみてほしいぐらいです……。

なにげない移動シーンまでプロのこだわりが詰まっているという
ありがとうございます。今回のインタビューで、だいぶ劇場版に興味が湧いてきました!
本田 思いつく限りのアイディアを入れたので、ぜひとも楽しんでいただきたいですし、ぜひ初めて観てくださった方の感想も伺いたいです。お待ちしています!
鈴木 初見の方も、そして一度モンストを離れたという方も、今回の劇場版はぜひ試しに観ていただきたいです。自分がやっていないゲームの作品って、なかなか食指が伸びないというか、逆にイメージから遠ざけてしまいがちだと思います。でも、今回の映画『モンスターストライク THE MOVIE ルシファー 絶望の夜明け』は予備知識なくとも感動して泣けるし、映像もCGアニメで最高峰の出来栄えになっていると思いますし、アニメが好きな方には“日本のアニメの現在”を知ることができる作品になっているんじゃないでしょうか。

結論、初心者でも関係なしに楽しめる!

……ということで、おふたりのインタビューはいかがでしたでしょうか?

まったくモンストアニメを知らない身でありながら、“日本のアニメ業界の現在”までも感じられるという本編に私も興味が湧いていたところ、なんと特別に10月24日に開催された「完成披露オンライン試写会」で本編を見させていただきました!

10月24日、完成披露オンライン試写会が行われた
かつて共に仲間として戦ったルシファーの裏切りというショッキングシーンから物語はスタートします。鈴木プロデューサーも語っていましたが、「なぜ彼女は友だちを裏切ったのか?」というところは本作でも大きなポイントになります。たとえ、予備知識がなくてもこれさえ押さえておけば、たしかにストーリーにはすんなりと入っていけます。

また、CG特有の不気味さを感じさせないようにこだわり抜いたという、フルCGのキャラクターたちもとにかく魅力的。悲しみ、怒りなど、登場人物たちの心情が垣根なく流れ込んできます。だからこそ、真意がわからないルシファーの存在が不安に映るのですが……。
フルCGのキャラクターたちも魅力的
まとめて、筆者の感想を言ってしまえば、「本作を観る上で、たしかにモンストを知らなくても問題ない!」ということ。登場人物の数が多く、シーンもめまぐるしく動くので、こちらを事前に把握しておけばより没入できるなとは感じましたが、ひとつの映像作品として大変興味深く、むしろ、本作をキッカケにYouTubeで公開中のモンストアニメにも興味が湧いてきたぐらいです。

もし、身近にモンストのヘビーユーザーがいて、この作品の何かしら(たとえばキャストなど)に興味を惹かれたという方は、付き添い感覚でも劇場に足を運んでみることをオススメいたします!

『モンスターストライク THE MOVIE ルシファー 絶望の夜明け』は、11月6日(金)に公開。少しでも気になった方はぜひぜひチェックしてみてください!
・モンスターストライク THE MOVIE ルシファー 絶望の夜明け/公式サイト
・公開劇場はこちらからチェック!
撮影/野口 岳彦 取材・文/原 常樹

映画概要

この悪夢に夜明けはあるのか。オラゴンと5人のヒーローにより平和を取り戻した「ストライク・ワールド」。しかし今、その世界は再び戦場と化していた。駆けつけたオラゴンを襲ったのは…ともに世界を救ったはずの仲間、ルシファーだった!世界の滅亡をたくらむ彼女の行動に、世界は、仲間たちは、絶望することになる。
モンスターストライク THE MOVIE ルシファー 絶望の夜明け
■劇場公開日:2020年11月6日(金)
■監督 :静野孔文
■脚本 :本田雅也
■主題歌:オーイシマサヨシ
■キャスト:日笠 陽子(ルシファー)、水樹 奈々(アーサー)、内田 真礼(ソロモン)、小倉 唯(パンドラ)、斉藤 壮馬(ノア)、福島 潤(オラゴン)、峯田 茉優(オラネ)、堀江 由衣(ビナー)、高山 みなみ(カエサル)
■制作 :ANIMA、ダイナモピクチャーズ
■製作 :XFLAG
■配給 :イオンエンターテイメント
■協力 :ローソンエンタテインメント
■公式サイト: https://anime-movie.monster-strike.com/2020/
■公式Twitter: https://twitter.com/monst_animation
[PR企画:ミクシィ × ライブドアニュース]