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「フェアレディZ」の誕生の歴史 価格を抑えて夢を叶えたクルマ
2020年10月1日 11時30分
日産がオンラインで世界初公開した「
フェアレディZ
」のプロトタイプ。10月4日まで「日産パビリオン」(神奈川県横浜市)で実物を見ることができる
○「Z」のルーツは1952年にあり
フェアレディZ
(以下、Z)の新型が近く登場することは、日産が2020年5月に開催した2019年度決算発表会で明らかになっていた。
この会見で日産は、2020〜2023年度を対象とする事業構造改革計画を発表。これからはグローバルで競争力を発揮できるカテゴリーとして、C/Dセグメント、EV(電気自動車)、スポーツモデルにリソースを集中し、今後18カ月の間に12車種を発売すると断言した。発表会の最後には「NISSAN NEXT A-Z」という動画で12車種をアルファベット順にチラ見せしたのだが、「A」はEVの「アリア」で、トリを飾ったのがZだったのだ。
2020年7月に発表となったEV「アリア」。2021年中ごろ発売予定で航続距離は600キロ超、価格は500万円から
この時点で、Zが近くモデルチェンジすることは分かっていた。でも、そのプロトタイプがこんなに早く発表されるとは思わなかった。経営状況を心配する声も聞かれる中で、日産が新しいZを公開したのはなぜか。それは、この
クルマ
が同社にとって大切な存在であるだけでなく、今後の方向性を明確に示す存在だからなのではないだろうか。
Zの初代は1969年に誕生しており、これだけで半世紀以上のヒストリーを持つのだが、車名に「Z」のつかないフェアレディやさらに前の世代を含めれば、その歴史はさらに10年以上も長くなる。
半世紀以上の歴史を継承する新型「
フェアレディZ
」(プロトタイプ)
日産初のスポーツカーは1952年発表の「ダットサンスポーツDC-3」だ。この
クルマ
は、国産車として初めての本格的スポーツカーでもある。これが6年後のモデルチェンジで「ダットサンスポーツ1000」になると、2年後のマイナーチェンジで「フェアレデー1200」(当時の表記はこうだった)という名前が与えられたのだ。
「フェアレデー1200」の「SPL213型」
この車名は、当時の日産社長が渡米した際、ブロードウェーでミュージカル「マイ・フェア・レディ」を観劇し、感銘を受けたことから名づけられたという。その頃の日本にはまだ、スポーツカーに対する理解がなかったため、フェアレデーは多くが北米に輸出された。
1962年にはダットサンスポーツとして2度目のモデルチェンジを行い、「フェアレディ1500」になった。3年後には、排気量を拡大して「フェアレディ1600」に発展。1967年には2リッターエンジンを積んで国産初の200?/hオーバーを実現した「フェアレディ2000」が加わった。
「フェアレディ1600」
ここまでのフェアレディは一貫してオープンカーだった。第2次世界大戦後の米国では、欧州から帰国した軍人が英国のMGやトライアンフを持ち帰ったことがきっかけとなり、オープンスポーツカーのブームが起きていたからだ。
○「Z」と「
GT-R
」の出自の違い
しかし、1960年代も後半になると、安全快適に長距離を移動できるクーペタイプの高性能スポーツカーを求めるユーザーが目立つようになった。ただし、こうした
クルマ
はいずれも高価であり、多くの人にとっては夢の存在だった。
そこで日産は、量産セダンに積んでいた直列6気筒エンジンなどのメカニズムを活用して価格を抑えつつ、流麗なロングノーズ・ファストバックのクーペボディを組み合わせたスポーツカーの開発を進めた。それが、1969年に登場した初代「
フェアレディZ
」だ。
初代「
フェアレディZ
」
同じ年に日産は、「スカイライン2000
GT-R
」も発表している。スカイラインはもともと、1966年に日産と合併したプリンス自動車工業の車種。
GT-R
のエンジンは、プリンスがレーシングカー「R380」用に開発した直列6気筒DOHCエンジンを手直しして積んだものだ。
「スカイライン2000
GT-R
」
その後、
GT-R
は2度の生産休止期間を経て、2007年にスカイラインから独立する形で復活を果たしているが、ここまで読んできた方は、日産を代表するスポーツカーといえばZであると思うだろう。
「S30」の形式名が与えられた初代Z(日本仕様)の排気量は2リッターで、初代
GT-R
と同じエンジンを積んだグレードもあった。4バルブ・3キャブレター・2カムシャフトであることから、「Z432」という通好みのネーミングを起用していた。
「Z432」
海外向けは2.4リッターで、フェアレディの名は与えられず「ダットサン240Z」と呼ばれた。ただし、1971年には日本でも2.4リッターが登場。最上級グレードの「240ZG」は空気抵抗の少ない専用フロントノーズとオーバーフェンダーを備えていた。
240Zは国内のレースで何度も優勝。海外ではサファリラリーで優勝、モンテカルロラリーで3位入賞などの成績を残した。こうしたモータースポーツでの活躍が、人気をさらに押し上げていった。
「240ZG」
Zが登場した頃、すでに日本では大気汚染が問題になり始めていた。自動車の排気ガスが原因のひとつとされたことから、トヨタ自動車「2000GT」やホンダ「S800」などの多くのスポーツカーが生産中止となり、レースイベントも減少していた。Zについては、登場して間もなかったZ432や240Zシリーズがラインアップから落とされた。
しかし、それ以外の
フェアレディZ
は販売を続けた。ホイールベースを伸ばしてリアシートを追加した2by2をラインアップに加えつつ、1978年にマツダから「サバンナRX-7」がデビューするまで、国産唯一のスポーツカーとして孤軍奮闘していたのだ。
排出ガス規制が一段落すると、
フェアレディZ
もモデルチェンジを果たす。2代目「S130型」では、日本でも海外向けと同じ2.8リッターエンジンを用意したのに加え、2リッターターボエンジン搭載モデルも登場させて高性能を取り戻した。続く3代目「Z31型」では、設計の古い直列6気筒に代えて2リッターと3リッターのV型6気筒ターボエンジンを搭載。ヘッドランプを角形とするなどスタイリングもモダンになった。
「S130型」
「Z31型」
その傾向をさらに研ぎ澄ませたのが、1989年デビューの「Z32型」だ。V6エンジンを前提とした短いノーズと円弧型サイドウインドーでイメージを一新。全幅は5ナンバーサイズから一気に1.8mに拡大し、3リッターターボが発生した280psはその後、長い間日本車の自主規制値になるなど、多くの面で殻を破った車種だった。
「Z32型」
○社長も認める「Z」の存在感
バブル崩壊により日産が経営不振に陥ったことで、
フェアレディZ
次期型の開発はストップしてしまう。後継車が登場しないまま、Z32型は2000年に販売終了となった。
ただし同年、ルノーとのアライアンスで日産の指揮を執ることになったカルロス・ゴーンは、
GT-R
とともにZをさせることを明言。2年後には3.5リッター自然吸気V6エンジンを積んだ2シーター「Z33型」として復活させた。現行「Z34型」では排気量を3.7リッターに拡大する一方、ホイールベースを100mmも短くすることで運動性能を高めた。
「Z33型」
「Z34型」
注目すべきは50年間の累計販売台数で、北米だけで130万台以上、世界では約180万台に達する。ここまで根強い人気を保ち続けることができた理由としては、基本設計が不変であることが挙げられる。排気量に余裕のある6気筒エンジンをフロントに積み、後輪を駆動する。テールゲートを備えたファストバックも一貫している。しかも、性能を考えれば価格はリーズナブル。日本車としては異例なほど、一本筋の通った
クルマ
である。
今回のプロトタイプも、この伝統を受け継いでいる。デザインについては今後公開予定の別記事をご覧いただくとして、フロントにV6エンジンを積み後輪を駆動する方式はそのままだ。エンジンはV6ツインターボとしか明かされていないが、おそらく「スカイライン」が搭載している3リッターとなることが濃厚だろう。
次期「
フェアレディZ
」はV6ツインターボを搭載する
ボディサイズは全長4,382mm、全幅1,850mm、全高1,310mmとの発表があった。現行型と比べると122mm長くなったが、幅と高さは5mmしか違わない。
オンライン発表会のあとに行われたメディア向け内覧会には、デザイナーとともにチーフプロダクトスペシャリスト(CPS)、つまり、商品開発責任者の田村宏志氏も参加した。
前述したように、日産には
GT-R
もある。住み分けはどうなるのか。
GT-R
のCPSでもある田村氏は、「モビルスーツかダンスパートナーか」という表現を使い、
フェアレディZ
については「マニュアルトランスミッションは譲れない」とも付け加えた。この簡潔かつ的確な言葉で、多くの人はZの立ち位置が理解できたのではないだろうか。
「
フェアレディZ
」はドライバーのダンスパートナーのような存在?
日産の社長兼CEOである内田誠氏は、「ピュアスポーツカーのZは日産のスピリットそのものです」と述べ、グローバルデザイン担当専務執行役員のアルフォンソ・アルバイサ氏は「なぜ日産はZを作り続けるのか。それは、なぜ人間は息をするのかと聞くようなものです」と答えている。
経営陣も、日産が復活していく上でZは欠かすことができない
クルマ
だと思っている。作り手がここまで強い思い入れを持つスポーツカーなのだから、きっと心ときめく走りを味わわせてくれるはずだ。
森口将之 1962年東京都出身。早稲田大学教育学部を卒業後、出版社編集部を経て、1993年にフリーランス・ジャーナリストとして独立。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。グッドデザイン賞審査委員を務める。著書に『これから始まる自動運転 社会はどうなる!?』『MaaS入門 まちづくりのためのスマートモビリティ戦略』など。 この著者の記事一覧はこちら
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