最新のアクアは2019年にマイナーチェンジしたもの。写真のCrossoverもラインナップ(写真:トヨタ自動車

トヨタは、2019年12月に新型車「ヤリス」を発表し、今年2月10日から発売した。日本では新しく耳にする名前の5ナンバー枠の小型車だが、事実上これまで国内で販売されてきた「ヴィッツ」のフルモデルチェンジだ。

ヴィッツが誕生した1999年から、海外ではヤリスとして売られてきたのだ。マツダが昨年以来、「デミオ」を「マツダ2」とし、「アクセラ」を「マツダ3」とするなどと同様に、世界で販売する車種の車名統一に通じる。


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また同時に、トヨタは2017年からヤリスを使って世界ラリー選手権(WRC)への復帰を果たした。しかも、同年の第2戦でいきなり優勝する幸先のよい動き出しとなり、翌2018年にはメーカー(正確にはマニュファクチャラー)チャンピオンを獲得している。2019年には、ドライバーとコ・ドライバーがチャンピオンとなった。

そうした知名度の上昇にあわせ、国内での車名もヴィッツからヤリスに改めたのである。

3代目ヴィッツ登場の翌年、アクアが誕生

とはいえヴィッツも、走りがよく活発な小型車への変貌を求め、それ以前の「スターレット」から転換した車種であった。スターレット時代も、ターボエンジンを搭載した高性能車種があったが、他車を含め、全体的にコンパクトカーは安さが売りの領域だった。

そこに、見栄えがよく親しみもある新鮮な外観の造形と、室内の広さ、またセンターメーターの採用など、斬新な内装などを携えてヴィッツが誕生した。ミニバン人気全盛の市場に、コンパクトカーの魅力を改めて提供したのである。たちまち人気車種となった。

しかし、2代目以降のヴィッツは車体寸法が次第に大きくなり、外観の造形も独創的ではあるが初代ほどの親しみは薄れ、次第に存在感を失いはじめていった。


デビュー当初のアクア。この後、2度にわたりフロントのデザインが変わる(写真:トヨタ自動車)

そして2011年、「アクア」が登場する。2010年にヴィッツが3代目へとフルモデルチェンジした翌年だ。ほぼ同じ車格のコンパクトカーだが、違いはアクアがすべてハイブリッド車(HV)であること。一方のヴィッツには、HVはなかった。

アクアは一気に人気を得て、その勢いは2016年2月に累計100万台オーバーに。これは、かつて「カローラ」が果たした100万台超えをしのぐ早さであった。

トヨタのHVといえば、1997年の「プリウス」が代表であり、その後モデルチェンジを繰り返して2009年には3代目となっていた。人気は右肩上がりで上昇していたが、一方で2003年に登場した2代目からは3ナンバーボディとなっており、5ナンバーだった初代から様変わりしていた。

プリウスの販売に勢いをつけたのは、3ナンバーとなった2代目からだが、これは2001年に次世代車導入のためのグリーン化税制が動き出したことが背景にある。さらには、乗り換えに対するエコカー補助金も含めた強化策により、3代目で飛躍的に販売台数を伸ばした。


プリウスの販売台数を飛躍的に伸ばした3代目モデル(写真:トヨタ自動車)

しかし、これは5ナンバーサイズだった初代プリウスを愛用した人たちを置き去りにしてきたとも言える。そこに、5ナンバーのHVとしてアクアは登場して、たちまち人気車種となったのだ。日本市場において、いかに5ナンバー車が重要であるかの一端を示したとも言える。

その成果を販売台数で確認すると、日本自動車販売協会連合会(自販連)の乗用車ブランド通称名別順位によれば、2019年1〜12月の年間販売台数で、アクアは10万3803台を販売し、5位につけている。1位はプリウスで、12万5587台だ。

ちなみに3位が「シエンタ」で、4位はカローラである。ヤリスが販売される直前となる昨年のヴィッツは、年間販売台数が8万1554台で10位であった。

2017年のマイナーチェンジを機にヴィッツにもHVが追加となったが、すでに「HVといえばアクア」という認知度が日本国内では広まっており、販売台数、順位ともにアクアとの開きは埋まらなかった。それでもベスト50の10位で年間8万台以上の実績は、月販台数平均で6800台近い数字であり、ヴィッツの販売は根強かったともいえる。

ヤリスHVの登場で発売9年が経つアクアは?

ヴィッツは、今年からヤリスとなって仕切り直しが行われたわけだが、ヤリスは当初よりHVを揃えている。また実は、国内でのヴィッツ時代にも海外で販売されたヤリスには、HVが存在していた。


欧州で販売されていた先代ヤリス(ヴィッツ)のハイブリッドモデル(写真:トヨタヨーロッパ)

アクアのハイブリッドシステムをヤリスに搭載していたのである。この機会に国内でもヤリスにHVをラインナップするのは、自然の成り行きである。

では、車格がほぼ同じHV専用車であるアクアの行方はどうなるのだろうか。2011年の登場後、2014年と2017年にマイナーチェンジを受けているが、フルモデルチェンジはまだ行われておらず、初代のままだ。しかも、ヤリスにHVが存在するとなると、HV専用車としての価値がどれほど残るのか、見えてこない。

モデルチェンジに関するトヨタからの情報はまだ手元になく、ここから先は筆者の想像と期待である。

アクアは、HV専用の5ナンバー車として広く愛されてきた。そこでHV専用車としての進化の仕方も考えられるが、プリウスにプラグインハイブリッド車(PHEV)があるように、電動化をさらに一歩進める車種として、独自の存在感を示してくれるといいのではないか、と考える。

さらにいえば、トヨタにおける(レクサスではなく)国内市場向け最初の電気自動車(EV)として転換する道も考えられる。


レクサスブランドではEVの「UX300e」を市販することを発表している(写真:トヨタ自動車)

寺師茂樹副社長は、「2030年までに日本市場に最適な右ハンドルのEVの導入を考える」と昨年6月の「EVの普及を目指して」という記者会見で述べた。

そのEVに、アクアを当てはめるべきだと思うのだ。初代アクアが誕生してから時間も経過しており、2030年までという計画の前倒しがあってもいい。

世界的な電動化の動きのなかで、リチウムイオンバッテリーの原価が高いとの理由から、EV化される車種の多くが、高価格帯モデルである。しかし、本当の普及を目指すなら、5ナンバー枠のコンパクトなEVが不可欠だ。そこをアクアの2代目がEV専用車として担ってもいいだろう。

「ホンダe」「MX-30」の登場で不安になる販売店

トヨタは、自動車メーカーからモビリティカンパニーを目指すと方針転換している。そして、都内の販売店を「トヨタモビリティ東京」に統一し、すべての車種をすべての店舗で扱う体系とし、サブスクリプションサービスのKINTOを2019年から試行するなど、新たな販売戦略を模索している。

KINTOには、KINTO ONEと、レクサス用のKINTO FLEXの2種類あるが、トヨタ向けのKINTO ONEに短期間で乗り換えできるKINTO FLEXの要素を加え、EVを短期間だけ試せる施策を導入すれば、実体験からEVに対する不安や懸念などを払拭したり、消費者の要望を吸い上げたりすることもできる。

電動化へ向けた試行錯誤を行ううえでも、アクアのような知名度のある車種をEV化し、市場投入する意味はあるだろう。実はある販売店の営業担当者から、EVがトヨタにないことへの不安の声を耳にしている。


ホンダが発売を予定しているEV「ホンダe」(写真:ホンダ)

例えば今後、「ホンダe」やマツダ「MX-30」が発売となれば、プリウスやアクアからホンダeや日産「リーフ」へ、また好調なSUVの「RAV4」や「C-HR」からMX-30へ乗り換えるユーザーがいてもおかしくない。

さらに、価格帯からいえば、「クラウン」や「マークX」からテスラ「モデル3」へ乗り換える人もいるかもしれない。テスラからは、まもなくより小型のSUVである「モデルY」も導入される。そのとき、トヨタに一台もEVがないことに、販売店は不安を覚えているのである。駒がなければ、商談にもならない。

昨年の記者会見では「EVはまだ十分な収益が見込めない」とも述べられた。それでも中国やアメリカへ投入する理由は、NEV(New Energy Vehicle)やZEV(Zero Emission Vehicle)など、EVを強制的に導入しなければならない規制に対し、反則金(クレジット)を支払うより負担が少ないとの見解であった。

したがって、国内へのEV導入は、まず超小型EVからで、それも販売店で売り出すかどうか検討中であるという。しかしそれらは、自動車メーカーであるトヨタの発想だ。販売の最前線では、EVを持たない不安は大きい。

自動車メーカーは、何万台という単位で収支を考えるかもしれないが、販売の最前線では、お客様一人ひとりを大事にしなければならない。営業担当は、その大切さを身に染みて知っている。1台を売ることから、何万台という数字につながるのだ。

152万台を販売したブランドの価値

今年の春闘で、豊田章男社長は「YOUを主語にした会話をしているでしょうか?」と、問うた。つまり、トヨタの役員を含め社員が、自分たちのことだけを考えているのではないかと疑問を呈したのである。

「YOUを主語にする」とは、部品供給メーカーなどの都合にも配慮が行き渡っているかを問題提起したもの。同じことが、販売店で営業の最前線にいる人に対してもいえるだろう。「EVを1台も持たない不安の中で商売をしているYOUの発想で、EVの導入を計画しているのか」ということである。

アクアというブランド力のある車種で、EV専用車という強い存在として車名を継承する価値は十分にある。


アメリカ市場など一部地域では「プリウスC」の名でも販売された(写真:トヨタUSA)

2011年のアクア導入から今日まで累計販売台数は、国内で152万台に達している。グローバルでは、180万台を超える。

それら消費者の多くは、まったく新しく生まれたアクアというHV専用車に興味を持ち、購入した人たちであり、長年続く車種の代替ではない。ならば、引き続きHVに乗りたい人はヤリスへ行けるし、EVという新たな価値に興味を抱く人はEV化されたアクアに注目するのではないだろうか。

アクアを、HV専用車という従来の価値のまま埋もれさせてしまうのは、あまりにもったいない。トヨタのEVの旗艦として、2代目へのフルモデルチェンジを期待したいのである。走行中の排出CO2ゼロのクルマとして、アクアという車名もお似合いではないか。