ひと声聞けば「その人だ」とわかる個性が欲しい――声優・鈴木達央が抱える承認欲求

「たまに、これまで積み上げてきたものが不安になる瞬間があるんです。マイク前でもっと何かを出さないと、自分の個性として残らないんじゃないかって」

それを聞いて、思わず「鈴木さんには個性があると思いますが」と返してしまったが、声優・鈴木達央は意外にも、個性がないことが弱点だとずっと感じていたという。

だが放送中のTVアニメ『トクナナ』の収録を通して、自分の個性を再認識できた、改めて声優としての承認欲求を自覚したと語る。主演の下野 紘や津田健次郎、大先輩の森川智之や平田広明らと共演していかに多くの学びを得たのか、うれしそうに話してくれた。

撮影/須田卓馬 取材・文/佐久間裕子 制作/アンファン
スタイリング/久芳俊夫(BEAMS) ヘアメイク/高橋 優(fringe)

個性的な声でありたい、という気持ちがどこかにある

10月より放送中のTVアニメ『警視庁 特務部 特殊凶悪犯対策室 第七課 -トクナナ-』では、主演の下野 紘さん、津田健次郎さんをはじめ、森川智之さんや平田広明さんほか、手練れのみなさんと共演されています。今回改めて感じた、下野さんと津田さんのスゴいところを教えてください。
おふたりとも、自由なんですよね。マイク前という限定された空間での、羽の広げ方がスゴいなと思います。

下野さんは、キャリアは自分より全然上ですが、自然に“ルーキー感”を出せる。そこも魅力のひとつだし、そういうところに役者としてのタレント性があるんだなって、改めて感じました。

津田さんは、周りを見てうまくバランスをとっていらっしゃると思います。その視野の広さと、一方で、のらりくらりとした感じを演らせたら、やっぱり天下一品ですね(笑)。

今期は津田さんとご一緒する本数が多くて、刺激し合える空間を共有できる機会が多かったんです。おかげで濃厚な時間を過ごすことができました。津田さんと一緒にいて気づくこともいろいろあって、「オレ、少し力が入りすぎてたな」と考えることもありました。役者同士だから感じる、声の自由さっていうのかな? 声の空気の抜き方みたいなものを、津田さんからすごく学びました。
芝居するときの、津田さんの空気感ということでしょうか?
いちばん学んだのは、セリフを言うときの“力まなさ”なんです。「そうだよな、生きているときに、こんなに力入れてないもんな」って。そういう日常感みたいなものですね。

あと、日々マイク前に立っていると、たまに、これまで自分が積み上げてきたものが不安になる瞬間があるんです。もっと何かを出さないと、自分の個性として残らないんじゃないかと考えがちなんですけど、そんなことはないんだと改めて思いました。

「意外とオレ、個性あったな」って気づかせてもらいました。
鈴木さんには個性があると思いますが……。
自分では、個性がないことが弱点だとずっと思っていたところがあって。ひと声聞いただけで、その人とわかる個性。それが自分にはあまりないなと。
そうだったんですね。
下野さん、津田さんはもちろん、『トクナナ』メンバーとの収録を通して、日々の生き方や普段の自分が話しやすい雰囲気・節回しにあまり目を向けていなかっただけだなって気づきました。それさえしっかりできていれば、話すだけで、聴く人は自然と「あの人の声だ」ってすぐにわかるんだなと。普段どう生きているのかが芝居に出るんですよね。

『トクナナ』は話すだけで個性が強い方たちばかりなので(笑)、そんな面々に触発されました。(トクナナのボスである)桐生院(左近零衛門)役の森川(智之)さんや、(犯罪組織の首謀者である)ウォーロック役の平田(広明)さんを筆頭に、ひと声発するだけで、誰がどこにいるかわかるんですもん。
二条クジャクも、鈴木さんの声だってすぐにわかりましたよ。
そう言っていただけることが多くて自信がつきました。セリフにクセつけよう、フシつけようと考えなくていいんだって。

この仕事には、いい意味でクセが強い人たちがいっぱいいるから、余計にうらやましく感じるんですよ。大先輩方なんて、ひと言で「あの人!」ってわかる方ばかりじゃないですか。そういうのを聞くと悔しいんです。スゲえなって思います。
逆に、「誰が演じているかわからない」お芝居をする方もスゴいと思います。
それもあります。でも最終的には、気づかれるような声でありたい、個性的な声でありたいという気持ちが、自分のどこかにありますね。声優としての承認欲求みたいなものなのかもしれない。

俳優さん、ミュージシャン、ゲームクリエイター……おかげさまでいろんな方と仕事をする機会がありますし、仲良くさせていただいているんですが、そうしているうちに「オレの最終的な承認欲求ってどこだろうな」と考えるようになったんです。

そして思い至ったのが、やはり“声”でした。「顔よりも声で残りたい」って。そういう気持ちがあったので、『トクナナ』の3、4ヶ月間を過ごして、とても気がラクになりました。

ひとつの作品でしっかりと絆を深めることには意味がある

そういう意味では、『トクナナ』のみなさんに感謝ですね(笑)。
本当に! とくに『トクナナ』のメンバーは一緒にいることが多かったんです。

うちの事務所の松岡禎丞(二条の兄・三潴ルカ役)もそうでしたし、(黒真珠役の島﨑)信長も、出番がないときでも「メシ食おう」って呼び出したりしていました(笑)。収録時間より飲んでいる時間のほうが長かったかもしれないくらい、めっちゃ仲良くなりました。

最終回が終わったときなんか、全員揃っていましたからね。
それはお店に?
そう、ご飯会があって。監督やスタッフさんをはじめ、脚本の東出(祐一郎)さん、音響監督のえびな(やすのり)さんもいらっしゃいましたし、下野さんも番組終わりで駆けつけてくださって。あんなに大勢がそろう音響打ち上げってなかなかないんですよ。狭い居酒屋に20人くらいいました(笑)。
それこそ、7話でトクナナのメンバーが自然に集まってきたベトナム料理店のエピソードみたいですね。
そうそう、本当にそんな雰囲気でしたよ。そういうチーム感ができあがっている時点で、アフレコをしている側からしたら成功だなって。『トクナナ』は食事に行く機会が多くて、輪が広がって、よりみんなと親しくなった現場でした。

下野さん、津田さんともさらに仲良くなりましたし、松岡とも、こんなに話したことってなかったなってくらい話しました。たぶん、松岡は『トクナナ』でいちばん仲良くなった後輩だと思います。信長とか間に入ってくれた人もいて。

(四季彩紅音役の)甲斐田(裕子)さんとは外画(吹き替え)の現場以来だったので、「アニメで会うってまた不思議な感覚だね」って話していました。

平田さんとご一緒することはあまりないんですが、僕がガンガン食いついていったら、めんどくさそうにいろんな話をしてくださって(笑)。シャイな方なのかな?と思いました。この現場じゃなかったら、そういう機会はなかったと思います。
すごく楽しかったんだろうなと伝わってきます。
森川さんとも久しぶりにお会いして、いろんな話をして、刺激を受けました。ここで聞かなきゃ、ほかでは聞けないよなって思いました。ほかの仕事で会ったときにまた楽しそうだなと思える現場でもありましたね。
それだけいい関係が築けたと。
僕らの絆って、ひとつの作品が終わればそこで終わりのようですけど、形を変えて続いていって再集結できるし、そのときにはまた違う力を発揮できると思います。別の現場で会ったときも、これまで培ったものがあるから、「あのとき楽しかったよね」って。

アフレコっていわば“集合芸術”だと思うので、ひとつの作品でしっかりと絆を作り上げていくことには意味があると、僕は常日頃思っています。

二条クジャクの感情が爆発するタイミングを待っていた

『トクナナ』は現在10話まで放送されましたが、収録が始まった頃は、二条クジャクをどんな人物だと思って演じていましたか?
個人的には、冷静でありながらも、もうちょっと人間味あふれるというか、感情が表に出やすい人なのかなと思っていました。兄の死の真相を自分の手で解明するために、真実に向かって突き進んでいくタイプの役なので、ひとつひとつ答えに近づくたびに、二条の感情が出てくるようになるのかなと想像していたんです。
実際の収録では違ったんですか?
意外にも、そこは感情を出さないでほしいと言われました。
たしかに、兄である三潴ルカが生きていることを知ってからも冷静でした。
制作陣からは、より冷静でいてほしい、いずれ感情を爆発させる瞬間を作りたいから、そこまで溜め込んでほしいと言われていました。なので、どうしても許せないことや、感情の琴線に触れることが描かれた場面において、感情の沸騰の仕方みたいなものはすごく考えました。
兄への思いは、アニメ後半のお芝居で出てきましたか?
出てきましたね。(感情を)「ここで出してほしい」というタイミングが監督やスタッフから明確に提示されていたので、「なるほど、だからここまで我慢してほしいのか」とわかりました。

それまでは我慢してくれ、感情を出さないでくれと、収録中ずっと言われていましたね。
感情を出したくなるときもありそうな……。
そうなんです。自分で「(感情を)出したいな」と思って演じてみると、「いや鈴木くん、そこはまだなんだよ」と言われて。そこで自分が感じたことを伝えると、「まさにその通り。君の解釈は間違っていないけど、二条にとっては、まだ真相解明の決定打にはなっていないから」と話してくれて。

二条の中で「よしとする」ときが来るまで待つんだと考えてほしい、と言われました。だからそのときが来るまではずっと、ステイステイステイステイ……でした。

そういう芝居の組み立て方をすることによって、「真相解明までは自分の感情を殺す」という彼の覚悟が見えてきましたし、(真相がわかって)感情が爆発したときに、「それだけ我慢していたんだ」というだけのものを提示できたんじゃないかなと思います。

自分が正義だと押し付け合うことで、争いが起きるのでは

演じていて、二条の好きなところは?
優しさが漏れ出るところがいいなと思いました。今話した通り、二条には(兄の真相解明という)目的があるから、トクナナのみんなとあまり深く関わらないようにと言いつつ……人のよさみたいなものがにじんじゃうんですよね。そして、それがみんなにもバレているという(笑)。

もともとの二条って、回想シーンで兄と話しているときみたいな雰囲気の、勉強ができる明るい子だと思うんです。冷徹な人間じゃなくて、目的を遂行したいだけ。その目的に立ち向かわなければ自分が許せない。そのために自分を律しているだけなので、悪い人にはなりきれない、悪いことができない。そこが彼の魅力だなって、演じていてすごく思いました。

周囲の人間に対して完全にフタをしているわけではないから、苦楽をともにしてきたトクナナの面々といると、彼が本来持っている優しさがにじんでくるような感覚がありました。隙が生まれるというか、演じていても、自然とほころんでくる部分がありましたね。

そういう意味では、(7話などの)過去パートを録っているときのほうがいくぶんラクでした。
まだ感情をおさえる前の二条ですね。
そう。感情を素直に出せるし、大好きな兄としゃべっていられるから。
兄の元相棒であった一ノ瀬に対しては、同じトクナナの仲間でも、ほかのメンバーとは違う複雑な感情がありましたよね。
一ノ瀬に対しては(兄の死にまつわる)疑念が払拭できていないので、常にその意識はありました。疑念が先走って、そこにある本質も見失っているんだろうなと。

でも本来の二条は冷静に物事を分析する人間なので、自分が見失っていることにも気がついていると思うんです。そういう感情の揺らぎがありながらも、疑念のほうが勝ってしまう。だからどうしても一ノ瀬に対して業務的になってしまうというのはありました。
作品全体を通して、鈴木さんが共感したエピソードは?
共感とはまた違うかもしれないですけど、個人的には、終盤に、ウォーロックによって各々の考え方の違いが明白になっていくところです。トクナナの考えとウォーロックの考えをお互いにぶつけ合うところが好きでしたね。

(ドラゴンをモチーフにした)ファンタジックな設定だから、あまりリアリティを出さない演出にはなっているけど……戦争の理由ってこういうところにあるんだろうなと。

どちらか一方の意見が正しいのではなく、自分が正義だと押しつけ合う者同士が存在すると、ケンカや争い、諍いになり、行きすぎるとテロ行為のようなものに発展していくんじゃないかって、すごく思いました。

『トクナナ』って、じつは非常にデリケートな問題を扱っていて、それをファニーな世界観で描いている。それがこの作品の魅力でもあると思います。

とことん感情と向き合ってきた、声優としての人生があるから

鈴木さんがボーカルを務める音楽ユニット・OLDCODEXによるオープニング主題歌『Take On Fever』は、どんな思いを込めて作られたのでしょうか?
『トクナナ』の主題歌としての面で言うと、これまでにもいろんな作品で主題歌を担当してきたうえで、オープニングとしてのひとつの答えを出したいと思いました。

もともと、制作陣から「攻撃的なナンバーが欲しい」というオーダーがあったんです。そのなかにOLDCODEXのメッセージとしての攻撃性も入れつつ、もう一歩進んで、アニメーションとコラボレーションしているけど、アニメの主題歌を作っているだけじゃないよという、クリエイターとしての意地を見せたかった。オープニング90秒に対するひとつの答えを出したいと。

今回、90秒のオープニングバージョンは、じつはCDバージョンとMIXを変えているんですよ。
どんな違いがあるのでしょうか?
オープニングバージョンは、テレビ放送のときにかかるラウドネス(テレビ放送における、音量・音質をコントロールする運用規準)を想定しました。

OLDCODEXっていつも、出せる音域の最大限ローなところから、最大限ハイなところまで出しているんです。つまりどの曲も自分たちが出せる音域がまんべんなく出ているバンドなので、テレビ放送ではラウドネスに引っかかって、音が小さく圧縮されてしまうんです。

それを避けるために、『Take On Fever』はあえてローの音を全部カットしました。ベースやドラムの音も小さくして、そのうえで、中音域のギターの音やボーカルやコーラスがもっと前に出るMIXにしました。

だから音としては、本編の劇伴やセリフとあまり差異がないんです。オープニング主題歌に入った瞬間に音が下がるようなMIXには、あえてしませんでした。そのへんは、そこいらのラウドバンドでは絶対にできないことをやっているという自負はありますね。
今作に限らず、曲作りをするうえで大事にしていることを教えてください。
自分の感情を疎かにしないことですね。

曲作りのとき、ウソで作っているとどうしても納得できないし、ピンと来ないんです。そこはお芝居と同じで、感情ありきでないと、“本物”ではないんですよね。自分が表現したいから音楽をやっているわけで、誰かにオーダーされた通りに作るのだったら、作家の方にお願いすればいいし、機械でいいと思っちゃいます。

自分が歌う、自分が表現するのなら、オーダーを踏まえたうえで、自分の感情としては何を乗せたいかを考えますね。僕には、とことん感情と向き合ってきた声優としての人生があって、自分のなかでいちばんウソをついてはいけないのは感情だなと思っているところがあるので。曲を作るうえでも、いちばん大切にしています。
鈴木達央(すずき・たつひさ)
11月11日生まれ。愛知県出身。O型。主な出演作に、『ケンガンアシュラ』(十鬼蛇王馬役)、『七つの大罪』シリーズ(バン役)、『魔王学院』(アノス・ヴォルディゴード役)、『ぼくらの7日間戦争』(緒方壮馬役)、『うたの☆プリンスさまっ♪』シリーズ(黒崎蘭丸役)など。

出演作品

TVアニメ『警視庁 特務部 特殊凶悪犯対策室 第七課 -トクナナ-』
AT-X、TOKYO MX、サンテレビほかにて放送中!
https://www.tokunana.jp/

©特殊凶悪犯対策室 第七課

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2019年12月18日(水)12:00〜12月24日(火)12:00
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