今解き明かされるマルタン・マルジェラの謎 映画『We Margielaマルジェラと私たち』journal by 林央子
今解き明かされるマルタン・マルジェラの謎 映画『We Margielaマルジェラと私たち』journal by 林央子
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1990年代のマルタン・マルジェラはファッション界で、数々の革命的なアクションを起こし続けた存在だった。その革命の裏側にあるミステリーに着目し、関係者への綿密な取材により映画化したのが、本作『We Margielaマルジェラと私たち』だ。ここに登場するたくさんの「もと」スタッフが、情熱的に、献身的に、マルタン・マルジェラという「人物」を語るうちに、不在の人物でありつづけるマルタン・マルジェラのイメージが次第に像を結んでいく。映画を見終わるころには、観客一人ひとりの「マルタン・マルジェラ像」がくっきりと心の中に浮かび上がっているだろう。
90年代半ば、ファッション・ショーを開催しないマルタン・マルジェラからの招待状を持って、私が彼らの事務所を訪ねた時の衝撃は忘れない。中心から少し外れたエリアの建物の一角は、その中に入ればすべてが白で覆い尽くされていて、なんともいえない格好良さだった。「世界中で、今この空間が、一番素敵な場所だ」と直観で感じ取ったが、そうした「すべてを白く塗る」ことはマルタン本人のアイデアによるもので、ベルギー産の白のペンキが使われていたと映画は明かす。それは90年代にその場を訪れた時に私が、感激のあまりスタッフに尋ねた時に教えてくれた事実と、まったく同じ内容だ。
今いる自分の場所で、手に入るものを使って、なにか別の新しいことをする。そうした行為が一番の「批評」になることをマルタン・マルジェラは自身の行動で示した。この映画は、過去にあった謎めいた革命の正体を、今そのものが顕したいと思う姿のままに記録している。暴こうとするのではなく、魅惑しようとするのでもなく。そのように淡々とした姿勢でカメラを回す行為からつくられた映像は、ファッション界の枠組みと限界を同時に示しているように思われる。この映画を体験することによって私たちは、既存の枠組みに頼ることなく、今いる自分たちの場所から新しいことに向かう勇気を得られるのではないだろうか。
文/Nakako Hayashi『We Margiela マルジェラと私たち』
監督:メンナ・ラウラ・メイール
出演:ジェニー・メイレンス(声のみ出演)、ディアナ・フェレッティ・ヴェローニ(ミス・ディアナ)ほか
2017|オランダ|オランダ語・イタリア語・英語|アメリカンビスタ|カラー|5.1ch|103分原題:We Margiela|日本語字幕:渡邉貴子
後援:オランダ大使館
配給・宣伝:エスパース・サロウ
(C)2017 mint film office / AVROTROS
2019年2月8日(金)、Bunkamuraル・シネマほか全国順次公開-
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