幼少期から神童といわれ順風満帆の生活を送っていたが、中学2年の夏、とあるできごとをきっかけに、引きこもってしまう。
「学校ではじめて失敗をしてしまったのですが、それまでのデキるイメージがあるから誰もつっこめず、僕が耐えきれなくなって家に帰ったんですね。その後すぐに夏休みに突入し、9月の始業式の朝、ベッドから出られなかった。それから、20歳で大検を受けるまで引きこもってましたね。“やめなきゃ”、という気持ちは常々あるんです。でも、自分で作った檻に自分を閉じ込めているようなものなので、打破したいけど自分に都合のいい言い訳をつけては先延ばしにするんですよ」
引きこもりの一因には、厳しい親のしつけがあったという。
「ストイックな親で、見ていいテレビはNHKか時代劇。“バウムクーヘンは薬”だと教えられ、ジュースも飲んじゃいけないカタい家庭でした。信じられないでしょ? だから紙パックのジュースに錐で穴をあけてストローを差し込み、バレないように飲んでましたね(笑)。その影響で、親の期待に応えたいとか、優秀な自分を保とうと頑張っていたと思います。親の締め付けが強いと子どもは無理をするのかもしれない」
でも、厳格な父親の浮気が発覚!
「衝撃でしたね(笑)。“この人も人間なんだ”という好意的な気持ちになったし、弱点を見つけたようで気持ちがラクになった」
ではもし、自身の娘さんもそうなってしまったら?
「“学校へ行きたくない”と言われたら、行かなくていいよと言いますよ。引きこもる精神状態のときは、無理しないほうがいい。みんな、“道が断たれた”と思い込みすぎなんです。学校へ行かずとも人生が終わるわけじゃない。思い詰めないのがいちばん。僕、ポジティブの押し売りが苦手なんです。J‐POPの“希望を持て”系の歌とか聴くと苦痛でしょうがない(笑)。“朝起きたらカーテンを開けて、さあ、街へ飛び出そう!”みたいなの無理ですよ。前向きカロリーが高すぎます。だからこの本も極力メッセージ性は抑えました。引きこもり体験者の1ケースとして、粛々と綴ったつもりです。“引きこもっていても髭男爵くらいにはなれるんだ”と、軽い気持ちになってもらえたら嬉しいです」
◇やまだ・るい53せい 貴族キャラで人気に。『土曜の午後は♪ヒゲとノブコのWEEKEND JUKEBOX』(文化放送)に出演中。9月には髭男爵単独舞踏会「貴族のあきらめ」を予定。
◇『ヒキコモリ漂流記』中学受験合格から一転、引きこもり生活を送ることとなった10代のエピソードを中心に、大学受験から芸人まで、著者の紆余曲折した半生を綴った自叙伝。マガジンハウス 1300円
※『anan』2015年9月2日号より。写真・中島慶子 インタビュー、文・重信 綾 《anan編集部》