以下の内容はhttps://gigazine.net/news/20210129-report-scientific-misconduct/より取得しました。



2021年、イリノイ州立大学に勤めるジョー・ヒルガード助教授が、自らが行った論文の不正に対する抗議とその結果について報告しています。

Crystal Prison Zone: I tried to report scientific misconduct. How did it go?
https://crystalprisonzone.blogspot.com/2021/01/i-tried-to-report-scientific-misconduct.html

Journal retracts two papers linking exposure to violence to aggressive behavior – Retraction Watch
https://retractionwatch.com/2019/12/06/journal-retracts-two-papers-linking-exposure-to-violence-to-aggressive-behavior/

2018年の初め、ヒルガード氏は中国にある西南大学教育学部のチエン・チャン氏らによって執筆された論文「暴力的なゲームが青年期の攻撃性に与えるプライミング効果」について疑問を抱き、独自に査読を行いました。ヒルガード氏は論文に記載された分散分析の結果の数値が何の意味も持たないことに気付き、論文の筆頭筆者であるチャン氏に報告。チャン氏から「修正する」との回答をもらい、その後2018年5月に論文は修正されますが、ヒルガード氏は論文をさらに読み進める内に、統計上あり得ない数値がデータとして表れているなど、不可解な点が他にもいくつかあることに気づきます。

ヒルガード氏は、「チャン氏の論文はしばしば不可解な統計データを示している」と述べており、チャン氏が過去に執筆した論文でも同じような不可解な統計データが散見できると指摘しています。ヒルガード氏はチャン氏が2013年に発表した「攻撃的な言葉や暴力的な映画が与えるプライミング効果」、「青年期の攻撃的な態度に与えるメディアの暴力描写の影響」、2018年に発表した「青年期に短期間触れる映画の暴力と潜在的な攻撃性」の3つの論文から表を抜き出し比較、それぞれの論文で使用されたサンプルデータの母集団が全く異なっているにもかかわらず、算出された数値は驚くほど似通っていたとのこと。ヒルガード氏は「全く同じ実験を二度繰り返したとしてもこのように似通った数値が出る可能性は低い」と考え、チャン氏は論文のデータを使い回しているのではないかと疑問を抱きます。


ヒルガード氏がいくつかの論文を調査している間にもチャン氏は過去の論文について次々に正誤表を掲載しますが、その訂正はデータが統計的に有利になるようF値に整数を加算するだけであるなど、信ぴょう性に疑いがあるものも含まれていたとのこと。重要なのはこれらの訂正によりチャン氏の他の論文の統計データにも影響が現れることなのですが、ヒルガード氏は「統計データの有意水準とF値が一致するよう訂正を加えればいいだけなのだろう」と語ります。


チャン氏はさらに新たな論文の執筆を続けますが、膨大な割に大ざっぱな論文のデータ量が与える影響を懸念したヒルガード氏はチャン氏に生のデータを要求。しかしチャン氏は「研究チームだけがデータを閲覧可能だ」とこれを拒否します。ヒルガード氏はチャン氏の論文の共著者である何人かのアメリカ人に「論文の生データを見たのか」と尋ねると、共著者ですら「見ていない」と回答。ヒルガード氏はチャン氏にデータを要求してはどうかと共著者らに提案したものの、実際に要求した結果チャン氏から拒否されたといい、ヒルガード氏はそれを奇妙だと思わないのかと共著者らに尋ねると「中国のことだから」と答えたとのこと。

ヒルガード氏はチャン氏の研究には研究不正の疑いがあると判断し、2019年5月に西南大学学術委員会の委員長宛てに報告を行います。その1カ月後にヒルガード氏はチャン氏からメールを受け取りますが、統計データの生データが含まれているのを見てヒルガード氏は驚いたとのこと。ヒルガード氏は生データをもとに分析を行った結果、チャン氏らが発表したデータとは全く異なる結果を算出します。左の画像はヒルガード氏の結果で右の画像はチャン氏の結果。ヒルガード氏は「チャン氏が算出したデータに相関関係はまったくなく、一般的な正規分布や対数正規分布には見られない奇妙な箱形をしている」と述べています。

I asked his institution to investigate. He sent me his raw data.

I knew what data on this task was supposed to look like (left panel). His data looked nothing like it (right panel). pic.twitter.com/ROO2j2OcKb

— Joe Hilgard, that psych prof we all know and love. (@JoeHilgard)


ヒルガード氏はこの結果をもとに改めて西南大学に報告を行いますが、西南大学からの回答は「チャン氏には統計および調査手法についての知識が不足しているが、データが不正なものだとするには証拠不足である」というもの。研究手順やデータの不一致は認めたものの、研究不正の証拠として最も疑わしいデータの使い回しや生データに統計上あり得ない数値が表記されていることについてのコメントは無かったとのこと。ヒルガード氏は委員長にさらなる回答を求めた4カ月後、委員長が相談したという2人の専門家から「これは学術的紛争に関わる問題である」との返信があります。しかしその専門家に詳しい報告を求めるも、2021年1月時点でいまだ返信がないとのことです。

研究機関は何も修正を行わないだろうと判断したヒルガード氏は学術誌に記事の掲載を取りやめるようアプローチを行います。Youth and Societyなどのいくつかの機関は迅速に記事を撤回しますが、全く取り合わない機関や、肝心の生データの信ぴょう性については言及せずに「実験として説明されていたものが実験ではなかった」として修正をおこなった機関もあったとのこと。ヒルガード氏は「編集者と出版社の力関係や編集者の経験の浅さから取り扱いに差が出ているのだろう」と語っています。

この一連の問題に言及しているのはヒルガード氏だけではなく、心理学者のジェームズ・ベンジャミン氏やメルボルン大学のシミン・ヴァジール氏らもSNS上で問題提起を行っています。

1. Also in Youth and Society, there is a Zhang, Espelage, Zhang article that is "in press" (first published online) that has some serious issues. https://t.co/UgRTlQh9I1

Watch this space. I will catalog those as well.

— James Benjamin (@AJBenjaminJr)


“I was not prepared to be resisted and hindered by the self-correcting institutions of science itself”

This is bullshit

Craig Anderson & Duncan Lindsey, and the journals they edit, ‘Aggressive Behavior’ & ‘Children & Youth Services Review’ can’t be trusted & are harming science https://t.co/oG2Nl9MsYn

— simine vazire (@siminevazire)


2020年2月に中国政府は論文発表に対する現金報酬の支払いを禁止すると発表。これにより、発表する論文や引用文献の数を主な指標とし資金割り当てやランク付けを行っていたそれまでの慣習が取りやめられ、論文の質をもとに評価される体制へと変化することが期待されています。また2021年1月に中国における技術分野の最高研究機関である中国工程院に所属する著名な研究者が研究不正の疑いで調査を受けたことなどから、中国国内の論文に対する価値観が変化していくのではと考えられています。

ヒルガード氏は「科学の分野では不正な、または非常に誤った研究を行っている人間が何人か存在し、欠陥のある研究データも政策やメタアナリシスに使われる可能性があることを理解する必要がある」とし、「信頼性の低い論文を生成することは非常に簡単だが、これらの論文を撤回させることは非常に困難で、やりがいのないものだ」と締めくくっています。




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