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トヨタ新型「アクア」の駆動用バッテリ、バイポーラ型ニッケル水素電池とリチウムイオン電池による燃費の違いはどこから来るのか?

豊田自動織機とトヨタが共同開発した新型バッテリ「バイポーラ型ニッケル水素電池」。コネクタ類を通さずにセルを接続できるため大電流を流しやすくなっている

トヨタが駆動用バッテリとして世界初搭載した「バイポーラ型ニッケル水素電池」

 7月19日、トヨタ自動車のHEV(ハイブリッド)専用車種である「アクア」の新型が発表・発売された。2代目となる新型アクアは、ヤリスハイブリッドと同様、直列3気筒M15A-FXE型1.5リッター ダイナミックフォースエンジンにリダクション機構付きのTHS IIハイブリッドシステムをパワートレーンとして搭載して登場した。M15A-FXEは熱効率40%を超える高効率エンジンで、それをトヨタならではの高電圧ハイブリッドシステムと組み合わせている。

 新型アクアは、ある意味ヤリスハイブリッドと同様のパワートレーンなのだが、ベーシックグレード以外の上位グレードは豊田自動織機とトヨタが共同開発した新型バッテリである「バイポーラ型ニッケル水素電池」を量産として世界で初めて駆動用バッテリに搭載してきたのが大きな違いとなっている。

 このバイポーラ型ニッケル水素電池は、バイポーラ(双極)と名付けられているように、従来のニッケル水素電池のようにセル間をコネクタなどで接続するのではなく、セル同士を直接接続していくものだ。そのため、コネクタによる電流・電圧の絞り込みなどをする必要がなく、大電力をセルモジュール内に一気に流せるという特性を持つ。

 セルモジュールの大きさを小さくすることができ、部品点数を削減、さらに大電力も扱えるようになるという革新的な駆動用バッテリだ。

 先代アクアでは一般的なニッケル水素電池を使っていたが、新型アクアでは、この新開発のバイポーラ型ニッケル水素電池の量産技術を確立、トヨタを代表する量販車種であるアクアに搭載してきた。

約10年ぶりにモデルチェンジした新型アクア

バイポーラ型ニッケル水素電池とリチウムイオン電池はどちらが優れているのか?

バイポーラ型ニッケル水素電池

 新型アクアのZ、G、Xグレードに搭載されるバイポーラ型ニッケル水素電池は、先代アクアに搭載されていたニッケル水素電池と比べると、セル当り出力で約1.5倍、コンパクト化で約1.4倍のセルを搭載している。先代が120セルに対し、新型バイポーラが168セルとなっており、多くのセルが詰め込まれているのが分かる。

 ちなみに、先代アクアのバッテリまわりの基本仕様は、120セルで144V(つまり、1セル1.2V)/6.5Ah。1モジュールあたりのセル数は20セル(つまり、6モジュール構成)。144Vのバッテリ電圧を最大520Vに昇圧してTHS IIに送り込んでいる。

 これに比べて新型アクアのバイポーラは、168セルで201.6V(つまり、1セル1.2V)/5.0Ah。1モジュール辺りのセル数は24セル(つまり、7モジュール構成)。201.6Vのバッテリ電圧を最大580Vに昇圧してTHS IIに送り込んでいる。

 トヨタは、従来型ニッケル水素電池に比べ、セル当り出力で約1.5倍、コンパクト化により同じスペース内に1.4倍のセルを搭載した結果、約2倍の高出力を達成したという。バッテリにおける出力はエネルギーと思われるので、時間軸方向のエネルギー量も高まっているということを伝えているのだろう。

 バッテリの革命的な進化はなかなか起きるものではなく、数年来の航続距離の延長などは、主にバッテリマネジメントの分野で達成されていることが多い。10年ぶりのモデルチェンジとはいえ、トヨタと豊田自動織機は新型アクア(の上3つのグレード)に大きな進化をもたらした。

 このバイポーラ型ニッケル水素電池は、確かに通常のニッケル水素電池に比べて大きな進化を成し遂げているが、ユーザーからすると「え、でも比べるべきは10年前のニッケル水素ではなく、今は主流のリチウムイオン電池では?」となる。

 新型アクアは、このリチウムイオン電池を駆動用バッテリに使うグレードもベーシックグレードに用意していて、その比較がしやすいようになっているのも興味深い。このリチウムイオン電池搭載のBグレードの電池容量は4.3Ah。ヤリスハイブリッドと同じものを使用している。

 トヨタによると、容量エネルギー密度がリチウムイオン電池の740Wh/Lに対し、バイポーラ型ニッケル水素電池では1000Wh/Lになっているという。バッテリでは重量エネルギー密度も大切な要素だが、そちらについては非公開。しかしながら、バイポーラ型ニッケル水素電池ではセルごとのコネクタ類が減っているため、完成したユニット単位では重量でも有利な部分があるかもしれない。

 その2つの異なる駆動用バッテリを搭載した新型アクアは先代に比べて20%の燃費改善をしているとトヨタはいう。この燃費改善にはバッテリだけでなく、熱効率40%以上のダイナミックフォースエンジンが大きく貢献しており、エンジンとバッテリの2つの駆動力をスムーズにミックスするTHS IIの仕組みを活かしたものとなっている。

燃費一覧

グレードZGXB
WLTCモード(km/L)33.6[30.0]33.6[30.0]34.6[30.0]35.8[30.1]
市街地モード(km/L)33.8[30.6]33.8[30.6]35.4[30.6]36.5[30.4]
郊外モード(km/L)36.0[31.7]36.0[31.7]37.5[31.7]39.5[32.6]
高速道路モード(km/L)32.0[28.7]32.0[28.7]32.6[28.7]33.5[28.3]

[ ]内はE-Four

 トヨタが新型アクアで発表している燃費値は、WLTCモードでバイポーラ型ニッケル水素搭載グレードの最良値がXグレードの34.6km/L、リチウムイオン電池搭載グレードであるBが35.8km/L。「えっ、リチウムイオンのほうがいいの?」という値になっている。各モードを見ると、3%程度(郊外では5%)の差が出ており、WLTCモードにおけるBグレードの優位性は明らかだ。

 これについてトヨタに確認したところ、「主に車両重量の差によるもの」との答え。車両重量は、ZグレードとGグレードが1130kg、Xグレードが1120kg、Bグレードが1080kg。ZとXでの10kgの差が33.6km/L、34.6km/Lと2.9%の差になっており、WLTCモードでは10kgで3%程度の差が出ていることが読み取れる。XとBでは40kgの差ということになり、40kgで3%の差であれば、バイポーラ型ニッケル水素電池の優秀さが分かる部分だ。

 とはいえクルマを買うときは電池を買っているわけではなく、クルマというパッケージでの商品を買っている。普通に使えば、装備はシンプルだがBグレードの燃費の優秀性は魅力的な部分だ。

バイポーラ型ニッケル水素電池搭載車に加わった魅力

実EV走行可能速度の拡大

 もちろんトヨタもそのような商品力の差は分かっており、バイポーラ型ニッケル水素電池搭載車には、通常の走行モードのほか“快感ペダル”と呼ぶ「POWER+」モードが用意されている。リチウムイオン電池搭載車にも通常の走行モードのほかに「POWERモード」が用意されているが、トヨタの説明を見る限り、ワンペダルと同様の動きをする快感ペダルはニッケル水素電池搭載車ならでの運転モードになっている。

 この快感ペダルでは、アクセルペダルだけで速度の調整がしやすくなるよう、減速時の回生量も大きくなっている。完全ゼロ停止までではないものの、バッテリのエネルギーの出し入れがしやすくなっている。

 また、ニッケル水素電池搭載車では「市街地走行の多くのシーンをモーターだけで走行可能に」というように、EV走行領域が広がっている。トヨタのグラフを見ると倍以上に広がっており、「市街地走行の多くのシーン」ということであれば50km/hくらいまでは対応できるように受け取れる。

ペダルの踏み替え頻度の減少

 実際、先代のアクアでも緩やかな下り坂であれば結構な速度でEV走行できるし、下り坂の後であれば上り坂でもそこそこのスピードでEV走行を期待できる。ただ、その領域が狭いためにすぐにエンジンが始動しがちだった。そこも改善されるということだろう。

 個人的には、道の先を読みながら狭い領域を活かして運動エネルギーと位置エネルギーを丁寧にマネジメントしながら走るのは先代アクアの楽しみでもあったのだが、その領域が広がるのは素直にうれしいことと言える。

 これらはトヨタがバイポーラ型ニッケル水素電池搭載車に用意した商品力であり、このような機能を実現できる背景には大出力のエネルギーの出し入れが容易になっていることがあるのだろう。

 WLTCモードの燃費値ではBグレードが優れているが、EV走行領域が広がっていることを考えると、Z、X、Gグレードの実燃費にも期待できる。ただ、燃費を考えると重量が10kgで3%の差が出るのは結構大きく、クルマに意味なく荷物を積みっぱなしにするのは無駄なことだなと、改めて思った次第だ。

もちろんクルマとしてのパッケージも進化している。ホイールベースの拡大などでリアシートと荷室空間の余裕を増やしている
コクピットも魅力的&機能的に