こんにちは。
ぽっぽアドベント12月4日担当ゾンビ犬です。
ここはインドネシア映画を見た感想だけをひたすら残しているストイックなブログです。
読み手は主に自分です。
しかし、今回は、ぽっぽアドベント2024。
なんとカレンダーに名前が入っています。
読者として楽しませてもらっていて、今年の発表にも喜んでいたら12月4日だけ空欄で書き手を募集していると知りました。
即、手を挙げた。
いいんだろうかという緊張もあったものの、インドネシアの話がしたい! インドネシアについて聞いてほしい!! という気持ちが抑えきれず、立候補しました。
ここ数年、だいたいいつもこうやってインドネシアに突き動かされている。今年のぽっぽアドベントのテーマは『枠を壊せ!』ですが、絶対やらないと思っていたこと、できるわけないと思っていたことをいつのまにか経験している日々で、ずっと自分が拡大していってる感じがしてます。
やってることは映画を見る、二次創作する、という他ジャンルのおたくと変わらないはずなんですが、なんで枠を壊さないとならなくなるのかというと、そう。
人がいないからです。
もちろん全然いないわけじゃない。インドネシアにずっと詳しい先人たち、インドネシア映画で船出してる人たち、もちろんいます。お世話になってます。
ただ、インドネシア映画、特に、私が三年間喋り続けている『珈琲哲學』をメインとして出航し、二次創作をしたり読んだりするおたく、が、あんまりいなかった。
一度、同じ船に乗ってました! というインドネシアの方から
「初めて仲間に会いました!」
といわれたことがあります。その衝撃たるや。
インドネシアにも当然シッパーはいる。映画ジャンルでは少なめですが、
この2人の船とか結構出てる*1。私も好きです。
でも、私の乗ってる船は本国でもほとんど港を出てないらしい。
なんで?とはなるけど、じゃあ、しょうがない。
そうなると、何もかも自分でやる必要が出てきます。
日本で見られる映画が少ないからインドネシアの動画配信アプリをDLするし、英字幕すらついていない映画を見るためにはインドネシア語を学ぶしかない。ロケ地に行こう!と誘える同じジャンルの友達がいないならひとりでどこにでも行く。3年もやってると、そんな環境にもまあ慣れる。
でも、諦めたわけじゃない。
こんなに面白いんだから、こんなに才能溢れる監督や役者が活躍してるんだから、いつか来る。インド映画や中国ドラマやタイBLのように爆発的な人気を博す日が。その日を座して待つより人事を尽くしたい。
というわけで聞いてほしい、インドネシアの話。
少しでも興味をもってもらえるように、できれば乗船(珈琲哲學号)までこぎつけたいという下心を抑えて今回は去年と今年、2年連続で行ったインドネシア旅行の話をしたいと思います。

おいしくて通い詰めた定食屋でミルクチョコレートを頼んだらパンが載っていた時の写真
記事が長いです。映画の説明・ロケ地巡り・推しに会った話の3つに分かれていますので、目次から選択してください。
<自ジャンルは画面の外側に存在する>
去年の夏、初めてジャカルタに行きました。ひとりで。
海外一人旅は二十年前に一度やったきり、インドネシア語はまだ勉強していると言えるレベルではなく英語だってイミグレーションでの質問すら聞き取れない、そんな状況でよく思い切ったな。でも、行かねばならない理由があった。
それを説明するのにちょっとだけ『珈琲哲學』の話をさせてください。
そもそもインドネシア映画というジャンルに参入することになったのは、2020年公開の『グンダラ』という映画がきっかけでした。インドネシアのコミックヒーロー映画で、オープニングが主人公のホットなお父さん率いる労働争議から始まるクールすぎるお話なんですが、面白すぎてこの日から私はインドネシア映画に興味をもつようになります。
だから確かにこれが入り口で、出会いの一本ではあるのですがこの段階ではまだ「インドネシア映画、すごく好きだな」程度でした。この一年と少し後に、
『珈琲哲學』を見るまで。
AmazonprimeまたはU-NEXTで簡単に見られる数少ないインドネシア映画なのに(念のため最後にリンクを貼っておきます)なかなか食指が伸びず『グンダラ』から『珈琲哲學』に辿り着くまでだいぶ間が空いているのですが、主にこのポスターのせいです。
ヘテロの恋愛ものだと思うじゃん?
ヘテロラブロマンス、個人的にあまり見ないジャンルで、だから後回しにしていたのですがいよいよ普通に見られるインドネシア映画がなくなってきて、現地で評判もいいし、人気だし、とそう期待せずに再生ボタンを押しました。
人生が変わった。
大袈裟ではなくこの第二の出会いで歩むはずだった人生のルートが変わった。
いや、恋愛ものではあると思います。でもそれは長髪の男とカップを持ってる女性の間じゃなくて、長髪の男と真ん中の眼鏡の男の間にある(と思った)んです。
幼馴染で親友のベンとジョディ、2人が営むカフェ「Filosofi Kopi」を舞台に、世界一美味しい珈琲を淹れることに没頭する我儘天才バリスタのベン(髪の長い方)と、そのベンの願いを叶えるために文句言いつつ珈琲以外の全部を世話して生きているジョディ(眼鏡の方)が珈琲を通じて自分と互いの人生を見つめ直すことになる……というストーリーなんですが、普通に生きて普通に仕事や人間関係に悩んでいる彼らの“普通の”人生には政府の奮う暴力や民族間の格差、差別関係が“普通に”関わっているということが描かれます。
政治や社会問題はインドネシアで作られる物語の必須要素に近く、ホラーだろうと不倫ものだろうと、関わってこない方が少ないくらいですが『珈琲哲學』のアンガ監督は特に政治、社会問題を意図的にエンタメに織り込んで見せる作家です。緻密に構成された映画は何もかも唸るほど巧みで、どれだけの思索を重ねて創り上げているのかと毎回感嘆します。
そんな、念入りに作り込むタイプの監督によって描かれた、ベンとジョディの関係がすごい。
ベンとジョディの見分け方、ジョディが眼鏡、で覚えられると思うのですが、このミニドラマを1分20秒だけ見てもらえると、違いも関係性もよくわかると思います。
1:08まで飛ばしてもらってもいいから正直見てほしい。
ベン(30歳)はジョディが女と話すだけで机を叩き珈琲をストローでぶくぶくさせ、彼氏はいる? とジョディが聞いた瞬間、机を叩いて外に出る。
ベンがいなくなったらジョディは体育座りして「俺とお前の幼少期ビデオ」を再生して、迎えにいって「バラバラじゃ生きられない」っていう。
なぜ船を出さないんですか?
っていうか、もう出てる。出てるよ、公式の船。
そして『珈琲哲學』の本当の深さはここじゃない。こんなもんじゃない。『珈琲哲學』は三部作であり、先があるんです。それがこれ。
ヤヤン・ルヒアン?
三部作三作目『ベン&ジョディ』(こっちはNETFLIX。配信先を揃えてほしい)のポスターです。シリーズ変わってません。同じ話です。香港映画によくある続編だけど全部違う、ではなく、珈琲を淹れてたシティボーイの2人が3になるとジャングルに突っ込まれて戦ったり銃で人を撃ったりするようになる。そういうこともあるんです。
この『ベン&ジョディ』ですが、最初から最後まですごい音で汽笛が鳴りまくっている。
なぜか日本で見る術がない2作目*2は「20年の間依存し合い、寄り掛かりきっていた2人の自立と別離」が描かれているのですが、その上で『ベン&ジョディ』では「バラバラじゃ生きていけない」ことを確認します。そのためのジャングルです。
○○しないと出られない部屋、それがジャングルなのです。
こうしてベンとジョディのことを考える日々が始まり、気付けば書いた二次創作も10万字を超えていました。見てほしいだけで作った44頁の宣伝本を無料配布したりもしました。いまはなぜか神戸の珈琲屋さん*3で珈琲と一緒に売られています。珈琲とてもおいしいのでよかったら是非!
そうやって宣伝活動に勤しむ中で、何をしていても頭から離れないことがひとつあった。
珈琲哲學(Filosofi Kopi)に行きたい。
やっと本題に戻りました。
あるんです、ジャカルタに。コラボカフェではなく、映画で使われたのと同じ場所に同じ内装で、本物さながらというより本物が存在しているんです。経営者はベンとジョディの中の人と監督です。初めて知ったときにはそんなことある? と思いました。ありました。
ベンが珈琲を淹れていたカウンターが、ジョディが座ってパソコンを開いていた椅子が、そのまま存在する。
しかも、作中で重要な役割を果たす愛の珈琲豆「ティウス」もベンのブレンドした豆「ペルフェクト」も飲むことができる。
そんな幸福な運命、めったに出会えない。
だから、行くしかありませんでした。
るるぶだのことりっぷだの、バリなら山ほどあるのにそれ以外のインドネシア旅行ガイドは『地球の歩き方』1冊しかなくて下調べはろくにできず、マレーシア乗り継ぎにしたものの出発が45分遅れ1時間しかない乗り継ぎ時間に間に合うか不安で眠れず、ゲートに向かうバスが合っているかもわからず、とにかく全力疾走して、結局乗継便も一時間遅れだったからなんとかなったものの緊張と疲れで頭痛を起こして「こんな体調で大丈夫だろうか」と不安を感じながらのフライト、だったのに、丸くて四角い飛行機の窓からジャカルタの夜景が見えた瞬間
びっくりするくらい元気になりました。
興奮という脳の働きは全てを凌駕するんだなと思った。想像以上に自分がインドネシアに魅せられていることにも気づいた。ジャカルタの上空で。

到着翌日。店から徒歩10分の場所にとったホテルを出て、初めてのジャカルタの道を歩いて。そして。


言葉にならない現実が待っていた。
ある。
存在する。
店の実在は、そのままベンとジョディの実在でした。ここはベンとジョディ、二人の店だから、店があるならベンもジョディもいるんです。
夜は歩道に置いたテーブルも全部埋まるほど賑わうFilosofi Kopi、でも朝はたいてい空いていて、初めて訪れたこの日も他に客はいなくて、私はジョディのいた椅子に座り、ベンと同じ位置で珈琲を淹れるバリスタを眺め、珈琲「ティウス」を映画と同じ淹れ方で注文して、現実と夢のあわいを漂いました。全部奇跡みたいだった。

ジョディがパソコンを開いていた席で飲むティウス(V60で)
2度目の訪問になった今年も、去年と同じようにベンとジョディにまた“会えた”と感じられました。たくさんの人がお喋りしながら珈琲を飲む、この街の一部になっているような店を見るのも、その一部になるのも大好きなんだけど、朝の、静かで、スピーカーから流れる映画のサントラにのんびりしたバリスタの鼻歌や楽しそうな話し声が時々混って、そんな空気の中にいると、
ここはベンとジョディの作った店なんだな。
という気がします。いまは店にいないけどこの国のどこかに一緒にいて、喧嘩したり歌ったり、それからもちろんベンの珈琲をジョディが飲んでいるんだろうって、想像というよりは自然にそれを感じられる。繁華街にあって、渋谷の朝みたいに道路は昨夜の喧騒の残りだらけで綺麗じゃないんだけど、でもそういう中で開いている店が、ベンとジョディの暮らしそのままという感じがする。
情熱のまま赴いた2023年から1年が経ったけれど、今年も変わらず胸がいっぱいになって、ティウスを飲みながら私は自分の「好き」に感心していました。まだこんなに何かが好きになれるの、結構すごいんじゃない? と思う。いいぞ、自分。
ところで Filosofi Kopi はテイクアウトもやっているので、専用の紙カップがあるのですが、ここでそのデザインを見てもらいます。

カップル営業?
ちなみにこれは公式映像にも出てくるカップです。
なので、このカップは「俺らの店のカップには、バイクに2ケツしてる俺らを描いとくのがいいよな」と思って2人がデザインしたカップです。
どうですか? もう、ちょっと面白くなってきませんか?
どうしても綺麗な状態で欲しくて、伝わらない英語で「飲み物代を払うから中身なしでこれが欲しい」ということを伝えたら、その前に大量の珈琲豆や服やフィギュアを買っていたせいか
「いくつ欲しいの?」
と優しく聞いてくれて、無事に貰うことができました。
2023年に話を戻すと、この初めてのインドネシア旅行にはジャカルタに行く!に加えてもうひとつ、ジョグジャカルタに行くという大きな目的がありました。
なぜジョグジャカルタか。
『珈琲哲學』シリーズの2で、作中ベンとジョディはジョグジャカルタに支店を出すのですが、それもそのまま店として存在するからです。
なにもかもが現実すぎるこのジャンル。
ジャカルタからジョグジャカルタは577キロ。東京からちょうど青森までくらいですがこれでもジャワ島の半分程度です。インドネシアは広い。
首都(旧)中心地にあるジャカルタの店と全く雰囲気が違い、こちらはジョグジャ風の建築でオープンカフェスタイルです。でも、やっぱり全部、映画のまま!
2ではいちから支店を作る様子が描かれるのですが、何もかもベンが選んだものでできた店は悔しくも(こいつ……!となることの多い男、ベン)素晴らしく居心地がよくて、どこに座っても風が頬を撫で太陽の匂いを運んでくる、何時間でもいられるような空間でした。珈琲を飲みながら通りを眺め
あそこで抱き合ってたな、2人。
など、あの場面、というよりあの日、と言った方がしっくりきてしまう“記憶”を思い出し、本店と支店両方に行くことで重ねられてきた2人の歴史を追体験することができてしまう『珈琲哲學』。もはや4DXです。

そして最重要情報なんですが、ジョグジャカルタ店にはWi-Fiがあります。本店にはありません。なぜなら俺(ベン)の珈琲を飲むのにWi-Fiは必要ないからです。でもWi-Fiないと客が帰るのでジョディはWi-Fiをこっそり入れたりしていた。この話を踏まえて、ジョグジャカルタのWi-FiのIDとパスワードを見てください。

WIFI: cuma buat jody(ジョディのためだけに)
PASSWORD: kopitiwus(作中で愛の珈琲であると明言されている珈琲豆の名前)
二次創作の答え合わせかな……?
このように2023年は『珈琲哲學』のロケ地をひたすら巡り、滞在期間中に本店支店合わせて5つを訪れたのですが、今年は他の映画のロケ地にも行くことができました。
『悪魔の奴隷』と『呪餐(悪魔の奴隷2)』のロケ地です。
飛ぶ鳥落とすジョコ・アンワル監督作品!
『呪餐』の方はもともと予定していたのですが『悪魔の奴隷』のロケ地が現存して、しかもちゃんと観光地化されているというのはTwitterで知りました。ありがたい。
『悪魔の奴隷』ロケ地ポストに反応いただいたので補足します。
— どくどく (@doc_doc_C) 2024年6月15日
- 帰りの足が捕まえづらいので終日の自動車チャーターが必須
- フツーの一軒家でフォトスポット的に占領されてる部屋もあるので現地滞在2時間あれば充分なくらい
- とはいえ季節を選べば気候もいい土地なのでゆっくり過ごすのがオススメ https://t.co/hzgoPE5Swd
郊外の森で暮らす一家、かつて歌手として一世を風靡した母の死後、家にはおかしなことが起こり始める。祖母も命を落とし、弟の様子もおかしくなっていく中、母の恐ろしい秘密を知ることになる……そんな『悪魔の奴隷』はインドネシアの政治、社会、文化を基盤としたトリッキーで美しいホラー映画です。
このお家に行けるなんて思わなかった。
少しジャカルタから離れて、学問と芸術の都市バンドゥンへ。高速鉄道Wooshのおかげでジャカルタから150キロの距離がたったの36分でした。しかしお家まではここからが遠い。車で山を登って3時間かけ辿り着きました。
ちゃんと入口に「悪魔の奴隷のロケ地ですよ」の幕がかかっている。

今年はインドネシア語が少し読めるようになっていたので色々下調べしたのですが、絶対に知りたかった休館日については、どのサイトにも365日24時間営業と書いてあり、困惑しました。
100歩譲って365日はあるかもしれない、でも、24時間はやらなくない? 久里浜花の国くらいだよ24時間営業してる観光施設。
なので着いたら実は休館日だったというのを心配していたのですがちゃんとやってました。聞いたら本当に24時間営業だった。夜の方がいいよといわれた。怖いよ。



かつて植民者オランダ人一家の所有物だった一軒家、そして映画では悪魔に脅かされた家がそのまま残っています。暖炉も大きな井戸もそのまま。至る所朽ち果ててるのがまた怖い。ポーチの前にはおあつらえ向きの黒猫が待っていて、人懐こすぎて家を見て回る間ずっと足に纏わりついているというサービス付き。連れて帰ろうかと思った。

そして、サービスがいいのは猫だけじゃない。
ロケ地はお家だけですが敷地はかなり広く、中にホラー風味な色々が置いてあります。そしてそのほとんどが『悪魔の奴隷』と関係ない。関係あっても映画のイメージと合ってない。でも、ホラーで楽しませよう!の気持ちは伝わってくるので良かったです。

インドネシア映画を100本以上見てるけどなんなのかわからない。

みんな大好きポチョン!(死体に白布を巻いて縛ったもの。ぴょんぴょん動く。インドネシアホラー映画にかなりの確率で登場する)この隣に入るように言われて一緒に写真を撮りました。

集合写真を撮れる場所まで用意されている
そしてなんとバンドゥンにも Filosofi kopi 出店しています。もう Filosofi Kopi の話はしないと思いましたか?まだ全然足りてませんよ。
Filosofi kopi 、とても愛されているので、支店は全部で10件あります。多分。公式HPには全部載っていなかったので私の把握している限りですが、10件はある。まだ6店舗しか行けてません。制覇への道は長い。
バンドゥン、正確にはブラガ店の特徴は「プリクラがある」です。ベンとジョディのスペシャル背景つきで。じゃあ、
撮らないわけにはいかない。ひとりだけど。

あとで自分が入る必要のないことに気が付いて撮り直しましたが初回は1人で撮りました。ジャカルタでもプリクラ機いくつか見かけましたが1人の人はいなかった。ベンとジョディのためならなんでもやる。
『悪魔の奴隷』に戻ります。『呪餐(悪魔の奴隷2)』ロケ地へ。ジャカルタの外れにあり、今度は観光地ではなく建築途中で放置されたアパートです。壊されないからまだそこに建っている、というだけの場所。

映画で見たままの外側までは行ける。でもここはただの廃墟。中に入るのは勇気がいる。バンドゥンのロケ地と違って入館料もないし管理人もいない。1階ではなんか木を切ってる人たちもいる。どうすればいいのか。
正解は、すぐ近くの小さな市の警備員のおじさん達が詰めている小部屋でおじさんたちに煙草代を払って案内を頼む、です。
難易度が高い。
ジャカルタの人から「行くとその辺りにいる人が案内してくれるよ」と聞いてたんですが、本当だった。
『呪餐』は世界的にヒットしていることもあり、インドネシアはもちろん中国や韓国からも結構ロケ地訪問に来るということでした。やっぱりこっちも24時間営業(警備員のおじさんたちの営業時間)で、夜でもお客さんが来るらしいんですが、電気もなく床は廃材やゴミだらけ、エレベーターを設置するつもりだったのだろう場所は奈落の穴、という環境なので、夜入るのは勇気がありすぎる。写真はiPhoneの機能により明るく見えているけれど実際は昼でもかなり暗いです。


警備員のおじさん曰く、このアパートは映画を撮る前から心霊現象が起こる場所として有名だったらしいです。実際今でも警備員のおじさんたちは何人も“見てる”らしい。夜中に走り回るこどもとか、膝から下のない髪の長い誰かとか。インドネシアの人たち、ホラーも大好きだし心霊話も大好きで生活にそういうものが根付いている。私はそういう力がまるでないのですが、上階に行けば行くほど嫌な感じがするといわれて上を見上げたときはちょっとぞっとしました。映画も、あまり上の方では撮影してないそうです。怖いね。
<ジャカルタでクラブデビューして推しに会う>
既に1万字近い文章を書いてしまいました。インドネシアのことになるといつまでも喋ってしまう。人の解釈や創作に共感したり感銘受けたりしてると自然に満足していく経験、おたくをやっているとあることかと思うんですが、人が少ないがために“聞く”ことが不足していていつまでも喋り続けてしまう。早く黙りたい。
更に脱線してしまいましたが、一番面白い話はここから始まるので読んでほしい。
実は2023年のインドネシア旅行、推しに会うという、いきなりのミラクルを起こしていました。
ジョディ役のリオ・デワント。3年間最も推している役者です。
推しに会ったことがある、というのはいまならそう珍しくもない話です。アイドルならグリーティング、俳優なら舞台挨拶や撮影・サイン会があります。私も今年はインドネシアで別の役者の舞台挨拶に参加してきました。一緒に写真も撮った。
でも、リオ・デワントとの遭遇、そういうんじゃなかった。
私もできればそういうので会いたいし、この先チャンスがあれば絶対行くんですが、去年、ジャカルタで会ったのは、俳優としての仕事の場ではありませんでした。もちろん押しかけたのでも出待ちをしたのでもありません。
本人経営のクラブで、本人がDJやってるところを見に行った
んです。推し、ジャカルタに、それも Filosofi Kopi から徒歩5分の場所にクラブを経営してて、去年は2週に1回ペースで自らDJやってました。インスタに毎週スケジュールまで上げていた。指を咥えて眺めながらいつも不思議でした。
インドネシアの第一線で活躍する人気役者で、若手ではないとはいえ今年も「出演者全員に性的ファンタジーを押し付けられるスーパーホットな夫役」として不倫ドラマに出ていました。未だにホットなイメージは健在で、なのに、全世界に公開する形で毎週DJをしている。行けば会えるということです。ジャカルタに住んでたら月に2回会える。
正確に言うと面倒なおたくの性分として、俳優の仕事ではない場所にいちファンが行っていいのか?という葛藤もあり、行きたい!とひとことで言えなかったのですが、でも、ジャカルタに行くタイミングで、ホテルから徒歩10分の場所でDJやってて、入るのに特に制限もなくて、という条件が揃ったら、ひと目見たい、という欲望が勝ってしまった。
しかし、日本ですらクラブに行ったことがない、酒も飲めない、煙草もやらない、音楽にも詳しくない。
という、ジャカルタでひとりクラブデビューするにはハードルの高すぎる状況。ひとりは厳しいと判断し、人を雇うことに決めます。海外在住日本人に観光案内や通訳などの依頼をするサービスを見つけました。仕事内容は相談次第。そこで口コミの評判が良く、ジャカルタ観光がサービス内容として提示されている方に連絡を取りました。クラブへの同行をお願いしたいと。わかりやすいようにリオ・デワントの経営しているクラブです、と説明して。
来た返事がこちらです。

「何度か一緒に飲んだことがあります」
いきなり奇跡が起きてる。
想像も予想もしてなかった、というかするわけない。ただクラブに同行してくれる人が欲しかっただけなのに一緒に飲んだことのある人が現れてしまった。ジャカルタは人口1100万人の大都市です。30人くらいしかいないわけじゃない。衝撃過ぎて何回も読み返したし、どう返信すればいいかわからなかった。この後「リオくん」と呼んでるのも聞いて、もはや何が起きてるのかわからなくなりました。
残念ながら日程が合わなくて同行は叶わず、他のサービス提供者何人かにも断られてしまい、ひとりで行くしかなくなったのだけれど、この方(Aさんとします)は最後までとてつもなく親切でした。というか未だに親切です。
ひとりで行くしかなくなった私はクラブの場所を下見しにいきます。Googleマップに載っていたので安心しきっていたのですが現地に行ってみるとどう見ても工事中。夜になったら見えない入口が出てくるのか……? と再び見に行っても変わらず周辺を探してみても見つけられず。公式も再確認したけれど
somewhereinJAKARTA
とめちゃくちゃにかっこいいことしか書いてない。
途方に暮れて再度Aさんに連絡をして場所を聞きました。Aさんは快く謝礼もいらないと無料で詳しい場所を教えてくれ、無事に発見することができました。普通に何度も前を歩いていたところにあった。クラブってそういうものなんだと思うけど、扉が閉まってるから外から見ても全然わからない。
そして同行者が見つからないままの出演前日23時、小さな、けれど個人的には忘れられない事件が起きます。
もうシャワーも済ませてあとは明日に備えて寝るだけ、とベッドで明くる日の予定を立てていたところ推しのストーリーが更新されたと通知が来ました。何の気なしに開いて息を呑む。背景が、クラブの中だった。
明日だよね?!
と跳ね起き確認するもスケジュールは変わってない、でも明らかにクラブにいる。飛び入り?タイムラグがある可能性はゼロではないものの、
いま、徒歩10分のところに、ほぼ確実に、推しがいる。
半ばパニックになり「いや」「え?」「待って」などとひとりごとをいいながらパジャマがわりのTシャツとジャージを脱ぎ捨て着替え落としたばかりのメイクをもう一度塗りたくって取る物も取り敢えず夜更けのジャカルタの街へと走り出しました。バイクタクシーの運転手たちがしゃがんで注文を待つ横を通り過ぎ、所狭しと車が停まる大通りに出て、カラオケの声が響く中、クラブの前に立ちました。扉の目の前まで足を進めて、
でももう動けなかった。
人間、あんなに動けないことってあるんですね。どうしても扉に手をかけられなかった。分厚くて何も見えず聞こえない扉は壁のようで、多分数分も経たない内に私は隣のコンビニに飛び込んでいました。小さなコンビニで買うものなど何もない棚の前でここにもそう長くいられないことを悟り、そして逃げ帰ります。
情けなかったです。
ホテルでもう一回シャワーを浴びながら、悔しさに身もだえてました。数メートル向こうに推しがいたのに何もできずただ帰ってきてしまった。せめてもっとちゃんと英語を勉強していれば。東京でクラブでもなんでも経験しておけば。やっておけばよかったことが次から次に頭に浮かび、こんなことで明日行けるのか?と不安で眠れなくなりました。
でも、この日の後悔で腹を括りました。このままでは日本に帰れない。自分に本気を知らしめるためにDMで出演順を問い合わせます。順番は教えてくれたものの、時間は書いていなくて、出演を逃さないためには早めに行くしかないけどできるならなるべく滞在時間は短くしたい。
再びAさんの力を借りました。
また謝礼を断られ、申し訳ないと思いつつも電話で聞いてもらいました。が、繋がらないです、すみません、と返事が。謝るのはこっちの方なので、もう早めに行って待つしかない、そう思っていたらAさんから二度目の返信。
自分のところの従業員を店に行かせて直接聞いてくれてた。
いやもう本当にありがとうございます。従業員の方にもすみません、でもありがとうございます……!!!これでもう絶対に日和ることはできなくなった。Aさんの好意を無駄にはできない。
が、しかし、冷や汗が止まらない。まだホテルなのに既に心臓が口から出そうになっている。そうしたら今度は友達が力を貸してくれた。出演は1時。現時刻は11時半。2時間の時差のある日本では既に日を回っている時刻です。が、日本からわざわざ通話して落ち着かせてくれて、時間になっても通話を切る勇気なくホテルを出て昨日と同じ風景の街へ出る間も付き合ってくれました。怖い、無理、と呟き続ける私を応援する友達に励まされてクラブの前に着いたところ、偶然にもちょうど入店する客が!!連れですと言わんばかりの勢いで一緒に入り、入ってすぐのカウンターでモクテルを頼んで中央当たりの席を確保。
とりあえず入店成功です。
既にパニックになっていました。インスタで見ていたそのままの空間、つまりは推しがDJする空間にいる、その事実だけでももう受け止めきれない緊張感。決して広くはない店で、座った席からDJブースまでは4メートル程度。ここで推しが……?と思うと混乱は加速し、横の壁際にいるフードを被った客を推しではないかと友達に伝えた。
脹脛のタトゥーが同じだと思う!
とほぼ確信したようなことを言ったが別人でした。
1時を過ぎても推しの前のDJは終わらず、クライマックス的に盛り上がっても終わらず、他の客に「日本人?」と話しかけられたりしてこの時間が永遠に続きそうな気がし始めた頃、突如店内に現れました。
さっき見間違えたけど推しを見つけるのに「かもしれない」はないですね。一瞬で理解してしまう。
リオ・デワントが1メートルもない距離にいた。
ブースにすぐ入るわけではなく店内を歩き回り目の前で客とハグしすぐ後ろすぐ隣に、いる。DJブースに入ってくれないと見ることが不可能(DJは一応仕事だから見ても良いという判断)なので目を逸らしながらオーラで存在を感じとっていました。あの距離ならオーラでもわかる。
友だち中心のクラブで新規自体が珍しく、しかも明らかにジャカルタ慣れしてない日本人で浮いているのにどうしてもファンだと看破されたくない私は無駄な足掻きを始めます。まだ前のDJが回しているブース近くで踊り始める。後で推しが上げたストーリーに私が若干映っているんですが、あまりにも踊れてなくてびっくりしました。どう見てもクラブ初体験。でも私の中では「ちょっといいクラブを見かけたから寄ってみたバックパッカー。え、あのDJ芸能人なの?」という設定でした。解像度が浅すぎる。
そうこうしていると、30センチの距離で推しが前を通りました。30センチ……?

この黒い影全部推し
DJが交代になり、あとはひたすら網膜に焼き付けるのとカメラを構える時間です。踊りつつね!ファンだってばれたくないからね!周りの常連たちも録画してたので撮ってもファンだとばれない、と思っていた。
しかし、推し、常々美しい人だなとは思っていたのですが、2メートルない至近距離で見ると
沈魚落雁 羞花閉月 傾国傾城
と、使ったことのない言葉でしか表現できない美でした。画面を介さないで見てしまうと造形の整い方も色気も何もかもが段違いで直視ができない。メドゥーサを目の前にしている状態。カメラを通して見る休憩タイムを入れないとその場にいられないという、何しにここまで来たのか、な動きをしていました。
しかも美しいだけではなく時々DJ仲間と笑い合ってくしゃっと顔を崩して愛らしさを出されたりもして、私は意識を保つのが大変だった。お酒をブースに持ち込んで、DJやりつつ器用に片手でカクテル作ったり煙草に火をつけたり、役者の仕事の場では見られないだろう顔を覗かせてもらって、無表情で音に合わないリズムで揺れながら脳内はめちゃくちゃでした。
ブースから2メートル弱の位置にある柱のそばで見ていたのですが、更に1メートルほど前に飲物をおけるようなちょっとした台があり、そこに行くまでに45分かかりました。分速2センチ。あまりにも近すぎて10分くらいで退散した。

気づけば時刻は3時。実はこの日、6時のフライトでジョグジャカルタに行く日でした。
3時に予約していたタクシーを既に30分延期していたので閉店まではいられず店を出ましたが、ドリンクカウンターにいたスタッフに「ありがとねーーー!」と日本語でいわれました。何もかもばれている。
そのまま飛んで8時からボロブドゥールとプランバナンの世界遺産を巡りましたが、全然眠くなかったです。

でも、ジョグジャカルタに着いてもまだ終わらない奇跡。ボロブドゥール観光が終わってプランバナンに移動している最中、Aさんから連絡が来ました。
「リオくんと一緒にクラブを経営している友人に伝えたら、ひとりで来てた日本人の女の人だよね?知ってたら話ができるように紹介したのに!と言われました。チャンスを逃してしまってすみません」
と。
いやいやいやいや本当にもうお世話になるだけでお礼もできず謝るのはこちらの方です、と、あの状況でそんなことになっていたら倒れていたので大丈夫です本当に無理です、と、バックパッカーに見えるはずもなく全てわかられていた、で、世界遺産を眺めながらまた混乱していました。
5778キロの遠さの推し、知り合いの知り合いくらいの距離感で話される。
そんなAさんには今年もお世話になりました。今年もジャカルタに行くので是非昨年のお礼をさせてくださいと連絡したところ、快諾いただいたのですが、その30分後に、もう一度メッセージが来て、リクルートされました。
「突然ですが、ジャカルタで仕事しませんか?」
自ジャンル、予想外が多い。
もったいない気はしましたが移住を予定していなかったので断ってしまいました。ここで「はい」と言えたら枠は完全に破壊できたのだろうと思うのですが、この先そんな人生もあるのかもしれないな……?と考えてもみなかった選択肢は増えたので、またひとつ、壊せたものもあったんじゃないかと思います。
Aさんのお友達の会社での募集だったのですが、ジャカルタでAさんの話を聞いてる間にも目の前の電話で条件が釣り上がっていくので若干心揺れました。給料30万円がいきなり35万円になってた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
長くなりましたが、実はまだまだ語り切れていません。旅行の話も、映画の話も、小さな奇跡の積み重ねもまだまだあるインドネシア映画というジャンル、ご興味もっていただけたら幸いです!そしてはとさん、ぽっぽアドベント、参加させていただけてとても楽しかったです!ありがとうございました。
明日の担当はふじおさん。旅行の話ということで、偶然ですが連続したテーマになってて楽しみです!インドネシアから次の旅先へ!
🎬珈琲哲學(U-NEXT)
🎬珈琲哲學(Amazon prime 500円かかります)
🎬ベン&ジョディ
https://www.netflix.com/jp/title/81597206?s=i&trkid=254567369&vlang=ja


