(2018年6月)[シンガポール 12日 ロイター] - 米国のトランプ大統領と北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長は12日、朝鮮半島の完全な非核化を目指すことで合意、米政府は北朝鮮に体制保証を与えることを確約した。
今回の米朝署名文書にCVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)が含まれていないことをもって、米側の一方的譲歩に過ぎない、との批判が増えている。気持ちはわかるが、米国の主敵を中国に組み替えるという大きな文脈を意識しなければ、今回の米朝合意は読み解けない。
合意文書の記事を末尾に示すが、2段落目にこうある。ここが今回の取引の肝と見る。(原文と訳文はReuters版)
トランプ大統領は北朝鮮に安全保障を約束し、金委員長は朝鮮半島の完全な非核化への揺るぎない、固い決意を再確認した。
すなわち、今回の取引を意訳するとこうなる。
つまり、北朝鮮の有事には米軍が防衛に参加するから、もはや自前の核兵器は不要でしょう、と。
これは、“米朝軍事同盟”とか“米国の核の傘を提供”に匹敵する、驚天動地の合意。
この話の布石は、実は5月9日のポンペオ国務長官の訪朝時から出ていた。
「北に安全保障提供」米国務長官、非核化の見返りに言及
http://www.afpbb.com/articles/-/3174460
トランプ大統領は以前にはこうも言っていた。
米国はビジネスの国だから、米国企業が儲からない国や地域には安全保障なんて提供しない。つまり、今回の米朝合意の本当の狙いは、北朝鮮の“準西側化”。
http://japanese.joins.com/article/940/241940.html
【米朝首脳会談】“体制保証”解釈にズレ 国民豊かになれば体制揺らぐ? 北の目的は「米軍撤退」 - 産経ニュース
https://www.sankei.com/world/news/180607/wor1806070035-n1.html
そうすると、やはり先日書いたこの記事の話につながる。
北朝鮮情勢の雑読み
https://zfphantom.hatenablog.com/entry/2018/05/19/022815
ということで、これはアナロジー(類推)としていうと、NATOが東欧諸国を飲み込んだような動きをこの北東アジアでやろうという話だと解釈する。
従って、焦るのは習近平とプーチン。ただし、トランプはG7にロシアを復帰させようと言い出したりしてるから、プーチンにはまだ選択肢がある。
ここで思い出すのは、安倍総理のこの言葉。この時点(2017年9月)では奇異に感じた人も多かっただろうが、日米両首脳間で北朝鮮の陣営組み替えの構想ができつつあったのではないかとも感じる。
第72回国連総会における安倍内閣総理大臣一般討論演説
https://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/statement/2017/0920enzetsu.html
だから、以下の話も世間が思ってるのとは意味が違う。中国の同盟国だった北朝鮮を東欧と同様に“準西側”にひっくり返したということを指している。
《トランプ大統領は金委員長と「極めて特別な絆」を築いたと評価し、将来の北朝鮮との関係はこれまでとは全く違ったものになるとも言明。》
《昼食会後には金委員長とホテル周辺を散策し、「誰もが予想したよりはるかに良い成果が得られた」との認識を示した。》
米朝首脳、非核化と北朝鮮の体制保障で合意 具体性に疑問符も
https://reut.rs/2y2FUPZ
また、そうであればこそ、米韓軍事演習の中止や在韓米軍撤退の話が唐突に出てくる理由もわかるというもの。
https://reut.rs/2HKNWNa
ところで、“米朝軍事同盟”成立となれば気になるのは中朝軍事同盟だが、海上自衛隊幹部学校のコラムにはこんな解説もある。中朝軍事同盟などというものは最初から無いのだと。今回の米朝首脳会談でも、おそらくその点について金正恩に直接問いただす場面があったのだろうと推測する。
海洋安全保障雑感~米国東海岸便り(No.6)~
-中国と北朝鮮と選択肢-
http://www.mod.go.jp/msdf/navcol/SSG/topics-column/col-094.html
以上の読みが正しいとすると、シンガポールに来た金正恩が妙に余裕の行動を取っていた理由もわかる。彼は敵対国の国家元首(=トランプ大統領)と対峙するために来たのではなく、これまでの敵対関係を解消し、準同盟国あるいは庇護国としての立場を得るためにやって来たのだ。
また、今回の米朝首脳会談で撮影された金正恩の表情がどれも非常に柔和で安堵感に浸っている雰囲気だったことも理解できる。
さて、あまり先読みしすぎるとアレだが、、、北朝鮮が準西側になったら何が起きるか。日本国内でも、想像以上に天地がひっくり返る可能性もある。夢を見過ぎるのも良くないが。
(追記)
戦略学博士の奥山真司さんは、こう書いている。
【脱ハウツー本!本当の人生戦略】戦略の階層 上位が下位を決定する原則 - 政治・社会 - ZAKZAK
https://www.zakzak.co.jp/society/politics/news/20121113/plt1211130709000-n1.htm
今回の米朝合意をこれに当てはめると、おそらく次のようになる。
したがって、政策レベル(=米国の主敵をロシアから中国に切り替える)の構想に基づいて、大戦略(=北朝鮮の準西側化)を米朝首脳会談で合意したという話に、作戦レベルの『CVID(完全かつ検証可能で不可逆的な非核化)が含まれてないのはダメだ』と非難することに終始するのは、それこそ「戦略の階層」がわかっていないのである。
そんなことは、米朝署名文書にあるように、ポンペオ国務長官ら実務者レベルの仕事であって、大統領の仕事ではない。
(追記2)
トランプ大統領が、米朝首脳会談の際に金正恩に見せたというビデオ。
「米国と戦争するよりは、西側諸国の一角として経済発展する未来を選びなさい」と誘っているようだ。
Here is the video, “A Story of Opportunity” that I shared with Kim Jong-un at the #SingaporeSummit➡️https://t.co/43oOci4jvo pic.twitter.com/xBKFkDLtj7
— Donald J. Trump (@realDonaldTrump) 2018年6月12日
(追記3)
米国ワシントンの複数の研究機関が結成した「ビヨンド・パラレル(境界線を越えて)」という民間組織の2017年の調査によれば、北朝鮮の住民の68%は米国を敵とみなしていない、とのことである。北朝鮮の“準西側化”を模索するにあたっての下調べ(身体検査)のようにも見える。
本当は米国を敵視していなかった北朝鮮国民
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/53307
A View Inside North Korea
https://beyondparallel.csis.org/a-view-inside-north-korea/
(余談)
前から思ってたのだが、金正恩って映画『レッド・オクトーバーを追え!』の可能性も10%くらいあるんじゃないかとずっと疑ってた。(ストーリーはググってちょうだい)
その場合、誰かが「CIAアナリストのジャック・ライアン」役をしないといけない。つまり、敵の真意の推測と確認。前CIA長官のポンペオ国務長官がその役だろうか。事実、上記のように5月9日に訪朝し、金正恩に会っている。
(余談2)
金正恩レッドオクトーバー説に私が気づいたのは、おそらくこの記事のあたり。2016年。北朝鮮お抱えの料理人・藤本氏の話として次のように書かれている。
「金正恩の料理人」藤本健二氏がもらした“将軍様”の胸の内
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/49855
(余談3)
2017年に発射した弾道ミサイルの飛翔コースも、もしミサイルにトラブルがあっても日本への被害が出にくいように津軽海峡を通るコースを選んだのではないかとの観測も流れた。この時も、飛翔コース選定から“日本への配慮”を感じた。
米朝署名文書の全文:
Trump and Kim's joint statement
https://reut.rs/2l1Q5e6
情報BOX:米朝首脳会談、共同声明の全文
https://jp.reuters.com/article/us-nk-summit-joint-statement-idJPKBN1J80RF
以上。
