今こそ読みたい、脳科学者・中野信子さんの著書「シャーデンフロイデ」(幻冬舎新書)。
副題は「他人を引きずり下ろす快感」。なかなか刺激的な、そして人間ならば誰しも心当たりがあるだろうタイトルです。
2018年の初版発行時にも読んだ記憶があり、昨今のメディアをめぐる諸々の騒動を目の当たりにして無性に読み返したくなって本棚を探したものの見当たらず(おそらくブックオフへ持って行った)、ジュンク堂で買い直してきました▽

タイトルの「シャーデンフロイデ」とは、
誰かが失敗した時に、思わず沸き起こってしまう喜びの感情のこと
(「シャーデンフロイデ」15頁より引用)
興味深いのは、この「誰かの失敗を喜ぶ」という美しくない感情が、愛情ホルモンや幸せホルモンとして知られる「オキシトシン」という物質と深い関わりがあるという点。
オキシトシンは、仲間を大切にする気持ちや安心感、幸福感をもたらしたり、身体組織の修復・成長を促すなど精神面・肉体的に好ましい影響があります。
一方で、同時に「妬み感情も強めてしまう働きを持つこと」がわかってきているそう。
恐るべきオキシトシン。私たちは脳内物質の奴隷。
第1章では、「ある人が一人だけ得をしている状態から、みんなと同じか、あるいはそれよりも低い状態に引きずり下ろされたときに喜びを感じる、シャーデンフロイデという感情」(同著57頁より)について説明されています。
この感情は個人間でも生じますが、集団にとって都合の悪い個体を標的として「発見」し、「排除」するためにも使われるといいます。その対象者がズルや悪いことをしているわけでなくても、ただ「目立っている人」にもアンテナは反応するそう。そして、「目立っている人」を排除しようという感情は、既存の集団や社会を守る働きがあるそう。中野氏は第1章を次のように結んでいます。
ほとんどすべての人間は、目立つ人が失敗することを、社会正義だと信じているのです。
(「シャーデンフロイデ」60頁より引用)
「偉そうな成功者の失脚」はエンタメの王道です。水戸黄門をはじめとした「勧善懲悪もの」は大衆の支持を集めてきました。この感情があるからこそスキャンダルを扱う週刊誌が売れます。 腹立つ権力者のサプライズ失脚を期待して春の人事にWAKUWAKUしますでしょう。
私たちは「なんか偉そうなヤツ」が基本的に嫌い。彼ら彼女らが失敗したりちょっと不幸な目にあったり困ったりしていると喜びを感じますよね。‥感じますよね?
他者の幸福と娯楽のために消費される人生は避けたいから、「偉そうに見せない」ことが大事ですね。成功を目指すビジネスパーソンも、「強く賢く金持ちな自分」を過度にアッピールすることは大きなリスクを伴います。暖かい部屋でキムチ鍋を囲みながら、あるいは銀のスプーンでハーゲンダッツを掬いながら、「なんか偉そうなヤツの失脚」という他力本願な娯楽を心待ちにしている大衆がたくさんいます。偉い人は偉い人だからこそ、「偉そうに見せない」戦略が重要になってくるでしょう。
中野信子さんの著作は大ベストセラー「科学がつきとめた運のいい人」もオススメです▽
実るほどこうべを垂れ、偉くても偉そうに見せないスキルを備えた「普通の人(に見える人)」が出世していく時代の幕開けでしょうか。この時流に乗って私も偉くなり隊。
明日も愉快な人生を〜