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「愚かさ」への怒り

新年あけましておめでとうございます

突然のウルトラソウルの余韻が冷めやらぬまま就寝、からのうっすら微妙な初夢をみての起床、からのお雑煮&きな粉もち粒あんトッピングを食べて満腹、からの新年お昼寝タイムを過ごしています。今年も怠惰に頑張ります。

さて大晦日はテレビジョンから流れてくる音を聞きながら、桐野夏生さんの「奴隷小説」(文春文庫)を読み進めていました。「何かに囚われた状況」を軸に、作者の想像力が炸裂する異色の短編集です。

各短編の初出は、2000年代後半から2010年代前半に発行された文芸誌。2015年に単行本化され、文庫版の第一刷は2017年です。リーマンショック後の世界同時不況、東京一極集中と地方都市の衰退、格差社会の顕在化と、非正規雇用の増加による若年層の深刻な貧困。そして2014年の、テロ組織ボコ・ハラムによるナイジェリア生徒拉致事件。作品が発表された時代の背景や事件を下敷きにして読むと、より理解が深まります。

 

実は10年前に「奴隷小説」の単行本が出版された際に一度読んでいるのですが、書店で文庫版を見つけたので再読することにしました。

長老との結婚を拒んで舌を抜かれた女。武装集団によって拉致された女子高生たち。夢の奴隷となったアイドル志望の少女。死と紙一重の刑務所の少年……人間社会に現出する抑圧と奴隷状態。それは「かつて」の「遠い場所」ではなく「今」「ここ」にある。何かに囚われた状況を炸裂する想像力と感応力で描いた異色短編集。

(文春文庫「奴隷小説」裏表紙より引用)

 

小説に限らず絵画でも漫画でもブログでも、惹きつけられる発信者の根底には何かしらの「怒り」があって、それはコンテンツの力の源泉です。優れた作品の奥底には深くて強い「怒り」がある。逆にいえば、根底に「怒り」を持たないコンテンツに私は魅力を感じません。

そういう意味で、再読した「奴隷小説」は改めてとても魅力的な短編集でした。

 

巻末に収められた政治学者の白井聡さんによる解説が端的で分かりやすく、「奴隷小説」に込められた作者の「怒り」を読み解くガイドとなっています。

現代作家のうち、桐野氏こそ「階級」に、「搾取」に、より一般的な言い方をすれば「構造的な支配」に、もっとも強くこだわっている書き手ではないだろうか

(文春文庫「奴隷小説」解説179ページより引用)

こうした前提を述べた上で、

桐野氏は何に憤っているのか。それは、「愚かさ」に対してである

と指摘します。

例えば、短編「神様男」に登場する、大した素質がない自分を直視せずに母親が必死で貯めた学資を食い潰してドサ回りを続けるアイドル志望の女性の愚かさ。その愚かさを「健気な努力」と取り違える母親の愚かさ。こうした愚行をビジネスとして成り立たせるよすがとなっている「キモヲタ」たちの欲望の愚かさ。

 

白井氏は、こうした愚かさを自己責任ではなく「彼らが置かれた苦境のためなのである」とする「良心的な」社会科学者たちの分析を引き合いに、

それでもなお、桐野氏は、究極的には個人に受肉する「愚かさ」に憤り、それを問い質す。

(略)愚かさとは個人の心と肉体に宿るものである以上、誰がその責任を取ることができるのか。それができるのは、その持ち主のみである。

(文春文庫「奴隷小説」解説186〜187ページより引用)

とし、桐野作品への共感を述べています。

 

文庫版でこの解説を読めたことで、「奴隷小説」の理解が深まりました。

「憤り」そして「怒り」は、他者理解の重要な軸となります。

その人の本質は、「好きなもの」より「嫌いなもの」に、より強く現れると思うから。

 

作品を鑑賞する時、そして日常生活で他者と対峙する時、「この人は、何に怒っているんだろう?」と思考を巡らすのは、他者を知ることに大いに役に立ちます。

 

例えば、昨年ブログで紹介した「少女葬」(櫛木理宇著/新潮文庫)には、

「弱さは罪じゃないっていうけれど、そんなの嘘よ。馬鹿は罪、弱いのも罪」というセリフが出てきます。これもおそらく、他責思考で自分自身の「弱さ」に蓋をする人々に対する作者の「憤り」そして「怒り」が込められているのだと思います▽

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「怒り」はネガティブな感情と捉えられがちですが、そこには個人の本質が現れます。

自身の、そして他者の「怒り」、それらが束になって醸成される社会全体の「怒り」に大いに興味関心があるので、今年は「テキストへの回帰」を心に刻んで、粛々と面白い本を読んで過ごしたいと思っています。

 

遅くなりましたが、今年も「収納しないブログ」をよろしくお願いいたします。




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