
re:Infroceのジャパンツアーの一貫で、Amazonニューヨークオフィスに訪問しました。
そこで、現地スタッフによる特別セッション「Resilience on AWS by NY staff」を聴講したので、その内容を紹介します。
セッション概要
Russell Lewis Principal Compliance Specialist, Worldwide Financial Services
クラウドを活用した金融機関のレジリエンス強化に向けた最新の取り組みや課題、そして今後の展望について、実践的な知見を共有します。
金融業界におけるクラウド活用の意義と実践例を紹介します。

セッション詳細
金融業界におけるクラウド活用の背景とAWS導入の意義
近年、金融業界ではデジタル化の加速に伴い、クラウドサービスの活用が急速に進展しています。
特に、金融庁や日本銀行などの規制当局がオペレーショナルレジリエンス(業務継続性と回復力)を重視する姿勢を強める中で、クラウドの信頼性・柔軟性・拡張性が注目されています。

オペレーショナルレジリエンスとは、システム障害や災害、サイバー攻撃などのリスクに対して、業務を継続し、迅速に回復する能力を指します。
金融機関にとっては、顧客資産の保護、決済の安定性、社会的信頼の維持といった観点から、極めて重要な要素です。
従来のオンプレミス環境では、物理的な冗長化や災害対策に多大なコストと時間がかかってましたが、クラウド環境ではこれらを柔軟かつ効率的に実現できます。
AWSは、世界中に分散されたデータセンターと高度なセキュリティ機能を備えており、金融機関が求める高い可用性と耐障害性を提供します。
金融機関がAWSを導入する要因は以下のようなものです。
- 規制対応の強化:金融庁のガイドラインに準拠した設計が可能
- 障害対応力の向上:自動化された復旧機能と監視体制
- コスト効率の改善:オンプレミスに比べて柔軟なリソース管理
- 技術革新への対応:AIや機械学習との連携が容易

クラウドアーキテクチャによる高可用性と障害対応力の確保
AWSにおけるオペレーショナルレジリエンスの設計は、単なるシステムの冗長化にとどまらず、継続的な改善と自動化による障害対応力の強化を目的としています。
金融機関がAWSを活用する際には、可用性・耐障害性・セキュリティ・コンプライアンスの各要素をバランスよく設計する必要があります。
Well-Architected Frameworkの活用
AWSでは、クラウド設計のベストプラクティスとして「Well-Architected Framework」が提供されています。
このフレームワークは以下の6つの柱から構成されており、金融機関のレジリエンス設計にも広く活用されている:
- 運用上の優秀性(Operational Excellence)
- セキュリティ(Security)
- 信頼性(Reliability)
- パフォーマンス効率(Performance Efficiency)
- コスト最適化(Cost Optimization)
- 持続可能性の柱(Sustainability)
特に「信頼性」と「セキュリティ」の柱が金融機関にとって重要です。
これらの観点から、設計段階でのリスク評価、障害シナリオの想定、復旧手順の自動化が求められます。

マルチリージョン設計とフェイルオーバー戦略
AWSの強みの一つは、グローバルに分散されたリージョンとアベイラビリティゾーン(AZ)の存在です。
金融機関では、東京リージョンを中心に、必要に応じて大阪リージョンや海外リージョンを活用することで、災害時の業務継続性を確保しています。
フェイルオーバー戦略としては、以下のような設計が紹介されました。
- アクティブ-アクティブ構成:複数リージョンで同時稼働し、片方に障害が発生しても即座に切り替え可能
- アクティブ-スタンバイ構成:主要リージョンで稼働し、障害時にスタンバイリージョンへ切り替え
- DNSベースの切り替え:Route 53を用いたヘルスチェックと自動切り替え
これらの設計により、金融機関は数分以内の業務復旧を実現しています。

障害対応・インシデント管理の実例
過去に発生したAWSの障害事例として、S3のパケット損失やEC2の一部インスタンス障害などが挙げられ、これらに対して以下のような対応が取られています。
- CloudWatchによるリアルタイム監視
- Lambdaによる自動復旧処理
- SNSによるアラート通知と関係者への即時連絡
- 障害後のポストモーテム分析と改善策の実施
また、AWS側でも「GuardDuty」や「Config」などのサービスを活用し、セキュリティインシデントの検知と対応を強化しています。


AWSと金融機関の役割分担によるレジリエンスの確保
クラウドサービスの活用において、セキュリティや可用性、コンプライアンスの責任がどこにあるのかを明確にすることは、金融機関にとって極めて重要です。
AWSでは、Shared Responsibility Model(責任共有モデル)を採用しており、クラウドの運用における責任範囲を、AWSと顧客(金融機関)で明確に分担しています。

Shared Responsibility Modelの概要
AWSの責任共有モデルは、以下のように大別されます。
- インフラストラクチャの保護(データセンター、ネットワーク、ハードウェア)
- サービスの可用性と冗長性の設計
- 基盤となるOSや仮想化レイヤーの管理
- リージョン間の障害対策と復旧能力の提供
顧客の責任(クラウド内の「セキュリティ」)
このモデルにより、金融機関はAWSが提供する堅牢なインフラを活用しつつ、自らの業務に関わる部分のセキュリティとレジリエンスを確保する責任を負います。

金融機関が担うべきレジリエンス対策
金融機関が自ら担うべきレジリエンス対策として、以下のようなポイントがあります。
業務継続計画(BCP)の策定と検証
AWSのインフラに依存するだけでなく、自社の業務プロセスに即したBCPを設計し、定期的にテストを行うことが求められる。
セキュリティ設定の最適化
IAMポリシーの厳格な管理、CloudTrailによる監査ログの取得、GuardDutyによる脅威検知など、AWSの機能を活用しつつ、設定ミスや過剰な権限付与を防ぐ。
コンプライアンス対応の明確化
金融庁のガイドラインや国際的な規制(PCI DSS、ISO 27001など)に準拠するため、AWSの提供する証明書や監査レポートを活用し、内部監査や外部監査に備える。
人的体制の整備と教育
クラウド運用に関する知識を持つ人材の育成と、インシデント対応訓練の実施が不可欠である。
責任分界の明確化による信頼性向上
Shared Responsibility Modelは、単なる責任の分担ではなく、信頼性と透明性の向上を目的としています。
金融機関がAWSの責任範囲を正しく理解し、自らの責任を果たすことで、クラウド環境におけるリスクを最小化し、レジリエンスを高めることが可能となります。
講演では、「AWSに任せきりにするのではなく、顧客自身が主体的に設計・運用に関与することが、真のレジリエンスにつながる」とのメッセージが繰り返し強調されました。
金融機関によるAWS活用と継続的改善の取り組み
AWSのオペレーショナルレジリエンス設計は、理論だけでなく、実際の金融機関による導入事例を通じてその有効性が証明されています。
以下に具体的な活用事例と、それを支える運用体制の構築について解説します。
金融機関によるAWS活用事例
講演では、国内外の金融機関がAWSを活用している事例が複数紹介されました。
特に注目されたのは、以下のような取り組みです。
- Amazon S3の活用:バックアップやログ保存に加え、災害時のデータ保全にも利用。2023年5月〜2024年4月の期間において、240億件以上のオブジェクトが処理された事例が紹介された。
- Amazon EC2の活用:2.6億件以上のトランザクション処理に対応。一部の金融機関では、EC2を用いた高可用性アーキテクチャを構築し、障害時にも業務継続が可能な体制を整えている。
- GuardDutyやConfigの導入:セキュリティ監視と設定変更の追跡を自動化し、インシデント対応の迅速化を実現。
これらの事例は、AWSのスケーラビリティと柔軟性を活かしながら、金融機関が自らの責任範囲を適切に管理していることを示しています。
DevOps・CI/CDによる継続的改善
金融機関では、クラウド環境における運用の効率化と品質向上を目的として、DevOpsやCI/CD(継続的インテグレーション/継続的デリバリー)の導入が進んでいます。
例えば、Infrastructure as Code(IaC)の活用により、設定の変更履歴を管理し、変更の影響を事前に検証可能になります。
自動テストとデプロイにより、変更の反映を迅速かつ安全に実施、GitHubやCodePipelineの連携による開発・運用の一体化ができるようになり、金融機関は変更に強いシステムを構築し、障害発生時にも迅速な復旧と再発防止が可能となっています。
モニタリングと教育体制の整備
AWSの運用においては、リアルタイムの監視と人的体制の強化が不可欠です。
以下のような体制の整備が重要です。
- CloudWatchによるメトリクス監視とアラート通知
- Security Hubによるセキュリティ状況の統合管理
- 社内教育プログラムの実施:AWS認定資格の取得支援、ハンズオン研修、障害対応訓練など
これらの取り組みにより、金融機関は技術的な対応力だけでなく、組織的なレジリエンスを高めることができます。

クラウド活用による金融機関のレジリエンス強化と未来への提言
AWSを活用した金融機関のオペレーショナルレジリエンス強化の取り組みが、技術的・組織的・制度的な観点から多角的に紹介されました。
クラウドの導入は単なるITインフラの刷新ではなく、金融サービスの持続可能性と信頼性を高める戦略的な選択です。
オペレーショナルレジリエンスの実現に向けた要点
講演で繰り返し強調されたのは、AWSの技術力と金融機関の主体的な取り組みの両輪によって、真のレジリエンスが実現するという点です。
以下の要点が、今後のクラウド活用において重要となります。
- 設計段階でのリスク評価と冗長化の徹底
- Shared Responsibility Modelの理解と責任遂行
- インシデント対応力の強化と自動化の推進
- 継続的改善(DevOps・CI/CD)の文化の定着
- 人的体制の整備と教育の継続
これらを総合的に実施することで、金融機関は予期せぬ障害や外部リスクに対しても、迅速かつ柔軟に対応できる体制を構築できます。

技術革新と規制対応の両立
クラウド技術は日々進化しており、AI、機械学習、量子コンピューティングなどの新技術が金融業務に組み込まれる可能性も高まっています。
一方で、金融業界は厳格な規制と監督の下にあるため、技術革新と規制対応のバランスを取ることが求められます。
AWSが提供する監査証跡、コンプライアンスレポート、セキュリティサービスが、金融庁のガイドラインに準拠するための有力な支援ツールです。
これにより、金融機関は革新を追求しながらも、規制に適合した運用が可能となります。
クラウドネイティブ金融の未来像
今後、クラウドを前提とした「クラウドネイティブな金融」が主流となると考えられます。
その特徴としていかがあげられます。
- オンデマンドでスケーラブルな金融サービス
- API連携によるオープンバンキングの実現
- AIによるリスク予測と自動対応
- グローバルな災害対応力と業務継続性
これらは、従来の金融システムでは実現が難しかったが、AWSのようなクラウドプラットフォームの活用により、現実的な選択肢として浮上しています。
おわりに
講演の締めくくりとして、以下のような提言を行いました。
このメッセージは、クラウド活用における本質的な価値を示しており、金融機関が今後の変化に対応するための指針となるものです。

まとめ
単なる技術紹介ではなく、金融機関がAWSを活用することで、いかにして社会的責任を果たし、未来の金融サービスを支えるかという本質的な問いに向き合った内容でした。
特に印象的だったのは、金融機関自身が主体的にレジリエンスを設計・運用する姿勢が強調されていた点です。
AWSと金融機関の相互の責任ある取り組みにより、金融サービスの品質向上と顧客信頼の獲得につながるものだと感じました。