技術書典18にあわせて初めて同人誌を作ったのでその振り返りなどをしたいと思います。 今回作った同人誌「LR parser入門」の詳しい話などは前回のブログにまとまっています。
技術同人誌をつくることになったきっかけ
今年の2月上旬に友人から誘われたのがきっかけで同人誌を書くことになりました。 「今回自分が当選するかわからないから、かねこも申し込みをしてくれると安心」という話から、「かねこが申し込まない場合、自分のブースをかねこの本を出すスペースにする。そこに本がなかったら空のスペースが爆誕する」という流れになって、あまりにも怖いので技術書典18に申し込みをすることになりました。
LR parserに関する技術同人誌は作ってみたいと思っていたし、ちょうどIELR parserについてまとまった文書を書いておかないとなと思っていたのでいい機会ではあったのですが、この友人の場合は本当にやりかねないという恐怖もありました。
そんなこんなで技術書典にブース申し込みをしたところ、無事に自分も友人も当選したのでめでたしめでたしとなりました。 ところで自分はいままで同人誌を作ったことがないので、当日までになにかしら本を完成させないとブースに並べるものがないということにこのとき気がついたのです。 レッツ背水の陣。
原稿編
文章を書く
なにはともあれ文書を書く必要があります。 すでにある文書を入れ替えたり消したりすることはできても、その逆はできないので心を無にしてとにかく文章を書きます。 このあたり自分は文書を書きながら文章の校正をしてしまう癖があるので、あまり効率よく書けていないなと思っています。
今回つくった同人誌では図表を多めにいれるようにしています。 これは適度に図表があったほうが視覚的に飽きないことと、文書と図表の両方があったほうが読み手が理解を検証しやすくなると思っているためです。 またスライド作りのときもそうですが、図表を作るとそれをもとに文章を書くことができるので手が止まったときや文章の構成がしっくりこないときは一度文書を書くのをやめて図表の作成に集中することようにしています。
途中で大きく方向転換をした
当初はIELR parserに関する本にしようとおもっていて途中までその方向で書き進めていました。 具体的には70ページ分くらいは原稿を書きました。
ところが書いている最中にあまりにも内容がニッチなことが気になりはじめ、途中でLR parser一般の話に方向転換をすることにしました。 実際にブースを出すことを考えたときに、みんなが手に取ってくれる本(「LR parser入門」)とニッチで一部の人に刺さる本(IELR parser)があったほうがいいと思い、初回である今回はみんなが手に取ってくれる本を優先することになりました。 ページ数が増えると印刷料金も増えてお値段も上がるので、入門書としてほどほどのページ数に抑えたいということも考えていました。 とかいいながら入稿1週間前に第1章の「LR parser概論」だけだと寂しいので、第2章の「効率的なLookaheadの計算」を追加しようと思い立ったりするので本作りは難しいですね。
ちなみに「効率的なLookaheadの計算」という話を「LR parser入門」に収録したのにはちゃんと理由があります。 最近数名からLALR parser generatorを実装したという話を聞いていて、そうすると実用的なparser generatorのためには効率的なLookaheadの計算が欠かせないためです。
入稿編
印刷所を決める
原稿を書くと同時に印刷所を決めていく必要があります。 今回の技術書典18であれば日光企画さんとねこのしっぽさんの二社がバックアップ印刷所になっていました。 はじめての技術同人誌づくりで右も左もわからないので、バックアップ印刷所のねこのしっぽさんにお願いすることにしました。
印刷所を決めたらイベント合わせの〆切表を眺めて入稿日を決めます。 今回は通常〆切で入稿できるように頑張ることにしました。 印刷の種類や綴じ方、ページ数によっても〆切が変わってくるのでこの辺から物理的な書籍というものを意識することになりました。 ページ数を決めるということは書籍のサイズや構成(目次や索引)についても考える必要があります。 書籍のサイズについては手元にある技術書を眺めてA5にしました。 用紙については文フリなどの即売会にいくと印刷所のブースで用紙見本帳を配布・販売していたりするのでそれを参考にしました。
入稿準備
原稿を書き、目次と奥付をつくり、表紙と本文のデータをつくったら入稿します。 本文については自分で校正をしたので、入稿2日前くらいの段階で一度全文を紙に印刷して目を通しました。 誤字脱字もそうですが、図表のレイアウトなども一度印刷してみることで改善点がみえてくるので紙に印刷して一度読んでみるとよいです。
ブース準備編
入稿をすませたら当日のブースに向けて準備をします。 「同人誌 即売会 ブース レイアウト」などで検索するとわかるのですが、どうも本だけがあればいいというものではないようです。
設営完了です。#技術書典 pic.twitter.com/FqmcoOqftZ
— kaneko.y (@spikeolaf) June 1, 2025
ざっとまとめると以下のアイテムがあるとよさそうです。
- 卓上ポスターおよびポスターを展示するためのあれこれ
- 見本誌用のあれこれ
- お品書き
- 値札
- テーブルクロス
- 台
卓上ポスターはオプション(追加料金あり)でねこのしっぽさんで印刷してもらえるのでそれをお願いしました。 今回は新刊1冊のみなので表紙をそのままB4の卓上ポスターとして印刷しました。 卓上ポスターは100均で買ったB4のクリアケースにいれてイーゼルに立てかけておきました。
見本誌関連のアイテムとして透明カバー(伊東屋で購入)とブックスタンド(100均で購入)を用意しました。 "見本"と書かれた札は技術書典の完全手ぶらセットに含まれているものを使いました。
値札とテーブルクロスについても完全手ぶらセットのものを利用しました。 初めてブースを出すにあたって、完全手ぶらセットはかなり便利です。 今後目が肥えてああしたいこうしたいというのが出てきたら徐々にいろいろ揃えていけばいいのですから。
今回は用意しなかったのですが、机の上に台をおくといいというアドバイスをもらいました。 台があるとその裏側や台の下に雑多なものを置いたりできて便利だと教わりました。
また今回は新刊1冊だけの頒布だったのでお品書きは作りませんでした。 初めてなので極力小さく始めるのが良いと思っています。
当日の様子
印刷した同人誌は会場に搬送してもらっていたので、当日は時間に間に合うように会場にいくだけでした。 はじめてだったので印刷する部数を抑えており、そのため開始1時間で完売となりました。 技術書典18では1時間ごとにまとめて入場するという仕組みだったため、2回目以降のバッチで入場した人は手に取ることができなかったということですね。 売れ行きは事前によめるものでもないので在庫数をどうするかは本当に難しいです。
感想
文書を書くこと、本をつくること、ブースを出すこと
今回やってみておもったのはこの3つは全く違うもので、求められるスキルも全然違うということです。 普段ブログにまとまった文章を書くことがあるので、文書を書くことについてはそこまで苦労しませんでした(いや、苦労はしています)。
文書を書くことと本をつくることの間には結構なギャップがありました。 とくに紙という物理的な制約があるというのが大きいと思います。
たとえば図表。 ブログであればページという概念がないので文章と図表の配置をそこまで意識しませんが、書籍の場合は図表が連続すると全体としてページがスカスカな印象になったりします。そのため図表間の文章量を意識して調整することがありました。 またブログであれば拡大縮小を読み手ができるのである程度密度の高い図表を入れることができますが、書籍の場合はブログよりもシンプルな図表にします。
また奥付やノンブル、柱といった書籍独自の要素もあります。 普段書籍を読んでいるときはあまりにも自然すぎて意識していなかったのですが、今回あたらめて様々な技術書のレイアウトなどを調べてみて、それぞれの工夫について気がつきました。
これらの2つとまったく異なるのがブースを出すということです。 遠目からみたときにどのように目立たせるか、自分のブースの情報をどう伝えるかなどいろいろなポイントがあります。 今後も様々なイベントにいってアイデアを仕入れていきたいところです。
データの取り回し
表紙にせよ本文にせよオリジナルのデータを加工して使うことが何度かありました。
まず原稿の入稿の際には表紙と本文を別々のデータとして入稿しました。 次に電子版のデータを作成するときには表紙と本文をまとめて1つのPDFにしました。 技術書典のサイトで見本ページを設定するときや、webで告知をするときにはいくつかのページを抜粋して画像データにする必要がありました。
当然といえば当然なのですが、表紙と本文のデータを一度作ったら終わりということではないというのが今回学んだことの1つです。
本という物理的なものを扱うということ
普段なにか発表するというとそれは登壇という形式であることがほとんどで、自分の場合は登壇というのはパソコンで資料をつくって持っていくだけです。 ところが即売会ではそれなりの量の紙を扱うことになります。 会場にどのようにもっていくか、ダンボールなどをどうするか、残った書籍をどうやって持ち帰るかなど、いろいろと考える項目があるのです。 技術書典18では会場へ直接搬入し、印刷した分は全て捌けたので行き帰りのことは考える必要がありませんでした。 またダンボールなども全て会場で回収してもらったので家に持ち帰る必要はありませんでした。
一方で関西Ruby会議08で頒布した際には自宅から京都まで書籍を持って移動する必要がありました。 みんながキャリーケースを引いて会場へ行く理由がようやく身に染みてわかったのでした。
感想を得ることの難しさ
普段の登壇であれば発表後の廊下や懇親会などでいろいろな人から感想をもらうことができます。 一方で書籍の場合は会場で感想をもらえることはほとんどありません(会場で書籍を読むことがほとんどないので、それはそう)。 このことに気がついて以降、自分が読んだものについては可能な限り作者に感想を伝えるようにしています。
今後の予定
本作りは苦しいけど面白い。そんな気持ちになってしまったというのが正直な感想です。 今回頒布した「LR parser入門」については適宜増刷して各種Rubyのイベントなどに持っていこうと思っています。 即売会という点では一度コミケに出てみたいなと思っています。おそらく次回の冬コミに申し込むのではないでしょうか。
今回「LR parser入門」という間口の広い本を作ったので次回以降はもう少しニッチな本を書いてみたいと思っています。
- 今回途中まで書いたIELRに関する本
- 属性文法という途絶えてしまった論理についてもう一度整理をして構文解析の文脈でそれがどのように有効かを説明した本
- 演算子の優先順位に関する話や、BNFとparserの状態に関する記述方式に関する話などいくつかの雑多な話題をまとめた本
- LR parserの動作原理をテーマにした物語調の読み物
例えばこのようなアイデアがあります。 あとは本を書かないといけないという差し迫った状態さえあれば...