というのも、自分がふと口にした「筑波山 ツク\バサン」のアクセントがすごく珍しいような気がしたからだ。 本当に珍しいんだろうか?多くの山名を集めて「ツク\バサン」の形のアクセントが本当に珍しいのか調査してみようと思った。
方法
まず、調査対象の山の集合を決定する。それらに対して、山名のアクセントを決定する。決定されたアクセントの位置の数に基づき、「ツク\バサン」のアクセント位置が珍しいのかどうかを評価する。
アクセント調査対象の山を選定する
「ツクバサン」とのアクセント位置を比較するという目的に鑑み、山名、また山名の読み方のうち、「-サン」「-ザン」で終わるものに注目する。この3つの読み方の語尾を、本記事では「対象語尾」と呼ぶことにする。
日本国内の登山界隈では、山名のリストのうち最も有名なものは登山家・文筆家の深田久弥選定の「日本百名山」であると考える。したがって、大元のリストは「日本百名山」とする。 そのうち、山名の唯一ないし複数の読み方の中に対象語尾で終わる読み方が存在するもののみを選定する。 ただし、山名は読み方のぶれが大きく、どれを対象語尾で終わる山名であるとみなすかの基準は自明ではない。 今回は、後述の山名アクセントの決定手法による制約により、私個人の読み方を判断基準とする。 また、大山「ダイ\セン」に関しては今回の対象語尾に当てはまらないとみなし、対象には含めない。
山名アクセントを決定する
自分の内省によることとする。
2016年5月26日出版の NHK放送文化研究所『NHK日本語アクセント新辞典』 には、日本百名山のアクセントの記述があるらしい*1が、私の手元には昭和四十一年 日本放送協会編『日本語 発音アクセント辞典』しかなく、そこには百名山のアクセントは網羅されていなかった。
自分の内省により複数アクセント位置がありうる場合には、自分にとってより使用頻度が高いだろうと推測される順に並べる。
結果
調査結果は以下のとおりとなった。
対象の山名とそのアクセント
該当する山は以下の30座である。
| 山名 | 基準に該当する読み方とそのアクセント位置 |
|---|---|
| 大雪山 | タイセツ\ザン |
| 八甲田山 | ハッコーダ\サン |
| 岩手山 | イワテ\サン |
| 早池峰山 | ハヤチネ\サン |
| 鳥海山 | チョーカイ\サン |
| 月山 | ガッサ\ン, ガッ\サン |
| 蔵王山 | ザオー\サン |
| 飯豊山 | イーデ\サン |
| 磐梯山 | バンダイ\サン, バン\ダイサン |
| 至仏山 | シブツ\サン |
| 苗場山 | ナエバ\サン |
| 妙高山 | ミョーコー\サン |
| 男体山 | ナンタイ\サン |
| 白根山*2 | シラネ\サン |
| 皇海山 | スカイ\サン |
| 筑波山 | ツク\バサン, ツクバ\サン |
| 御嶽山 | オンタ\ケサン, オン\タケサン, オンタケ\サン |
| 両神山 | リョーカミ\サン |
| 金峰山 | キンプ\サン |
| 丹沢山 | タンザワ\サン |
| 富士山 | フ\ジサン |
| 天城山 | アマギ\サン |
| 恵那山 | エナ\サン |
| 鳳凰山 | ホーオー\ザン |
| 白山 | ハ\クサン |
| 剣山 | ツルギ\サン |
| 石鎚山 | イシズチ\サン |
| 九重山*3 | クジュー\サン |
| 祖母山 | ソボ\サン |
| 阿蘇山 | アソ\ザン |
分類結果
30座中、 対象語尾の直前にアクセント位置があるものは28座あり、ほとんどの山名にはここにアクセント位置を持つ読み方が存在した。 このアクセント位置の出現数が圧倒していることを考慮し、今後対象語尾直前に核があるアクセントを「標準アクセント」と呼び、それ以外を「非標準アクセント」と呼ぶことにする。 標準アクセントの読み方がない山名は、30座のうち富士山・白山の2座のみで、全体の7%弱だった。 また、非標準アクセントの読み方を持つ山名は、30座のうち月山・磐梯山・筑波山・御嶽山・富士山・白山の6座のみで、全体の2割だった。
分析
「ツクバ\サン」は珍しい
上述の標準アクセントである山名・山名の読みが圧倒しており、それ以外は少数であった。 したがって、「ツクバ\サン」のアクセントが珍しいという直感は正しいと言えるだろう。
非標準アクセントの山名はなぜ非標準的なのかの考察
非標準アクセントの6座の山名(読みを数えると7つ)について、なぜその位置にアクセントがあるのか考察し、大まかに分類した。しかし、考察は推測の域を出ない。
無声化・特殊拍により標準アクセントから変化した可能性があるもの (2つ)
白山 「ハ\クサン」
白山では標準アクセントの位置は無声化している。昭和四十一年 日本放送協会編『日本語 発音アクセント辞典』の中の、「共通語のアクセント」の章の第9章第2節では核が予測される位置が無声化する場合、単純語もしくは複合の度合いの強い複合語においては核の位置は一拍後ろにずれ、複合の度合いの低い複合語においては一拍前にずれるとの記述がある。白山を複合の度合いの低い複合語とみなすのであれば、この記述と整合する。
月山 「ガッサ\ン」
月山では標準アクセントで核がある位置は促音になっている。特殊モーラの影響を疑うが、このような場合は促音の前部が高く、後部が低いのが通例であるから「ガッ\サン」の位置は機械的には導かれない。
頭高アクセント・もしくはが頭高が変化した可能性があるもの (4つ)
上記の項目を除いて、元来非標準的アクセントであったと考えられるの多くが頭高、もしくは頭高から変化したものだとみなせるかもしれない。 しかし、どういう山名が頭高になるのかは不明である。
富士山 「フ\ジサン」
なぜ頭高なのかはわからない。
御嶽山 「オン\タケサン」
おそらく語頭音節にアクセント付与がされた形だと考える。 語頭アクセントであることは、当座が語りなどでよく「木曽・御嶽山」の形で言及されることと関係するのだろうか。
磐梯山「バン\ダイサン」
おそらく語頭音節にアクセント付与がされた形だと考える。 語頭アクセントであることは、当座が語りなどでよく「会津・磐梯山」の形で言及されることが関係するのだろうか。
筑波山「ツク\バサン」
なぜ頭高なのかはわからない。 語頭のアクセント核が、先頭の「ツ」が無声化することにより一拍後ろにずれた形か。
その他 (1つ)
御嶽山 「オンタ\ケサン」
上記の法則から全く説明がつかない。木曽節で「オンタ\ケサン」のように歌われる影響か。 また、さらに木曽節で「オンタ\ケサン」と歌われることが現地の会話文でのアクセントを反映しているのかどうかなどはわからない。