11、空襲の記憶を語るバアバと死 より
12、倶会一処(くえいっしょ)
私は、一週間の忌引き休暇をとった。
バアバの葬式を終えて、いっぺんに二人の母を亡くしたような思いに囚われた。
母の死の真相を知り、育ての母であるバアバを亡くしたからだ。
しかし、バアバの長い悲しみ、苦しみに比べれば、私のこの思いは、比較にならないほどのことだ。
勿論、仕事は待ってくれないので感傷に浸れるほどの余裕も無い。
バアバの遺骨は、倶会一処と刻まれた中村家の墓に埋葬された。
墓誌にはバアバが生前から望んでいた―神々の宿る山に眠る―との文字を刻むことにした。
バアバも母もレイカの父も、この地で極楽地獄に遭遇した多くの人びとと同じように立山の大自然の一部となった。

一週間後、一つの結論を持って、アパートに帰った。
レイカに連絡を取り、夕食に誘った。
今度は、二人だけで話せる個室のある料理屋にした。
向かい合い、少し改まって、正座した。
レイカも神妙な私の態度に何かを感じたらしく、真剣な表情になった。
「コウスケ。話というのは、何」
「まずは、二人のこと。僕を伴侶と認めて欲しい。つまり正式に結婚を申し込みたいと思う。但し、条件があるんだ」
「結婚の申し込みは嬉しい。でも条件というのは」
レイカが、口元を引き締めた。
「一つは、レイカは仕事を続けて欲しい。もう一つは、僕は県庁を辞めて山荘を継ごうと思う」
私は、手を膝につけたまま話した。
「予想はしていたわ。おばあちゃんの話を聞いた後のコウスケの態度。また実際伺ってみて、改めて山荘の持つ重みを理解できた気がする。それにコウスケは、富山、立山が好きなのよ」
「ありがとう。そうだと思う」
「私の仕事のことも心配してくれて。考えていたのだけれど、山岳医療に関わる看護師を目指そうと思っているの」
「本当か」
思わず声が上ずった。
「富山にきたのも父が呼んでくれたような気がするの。大げさに言えば、父の敵を討ちたい気持ちもある」
レイカがはにかんで言った。
「だから、勤務先も将来は立山の近くに行きたいの。実は、おばあちゃんがお世話になった病院の院長からもお誘いがあるのよ」
「それなら、結婚しても近くで住めるね」
「お母さんのもやもやした思いは整理できた」
とレイカは顔の表情を変えずに少し声を落として聞いてきた。
「ありがとう。今度は、バアバが命と引き替えに伝えてくれたような気はする」
「それでは、気持ちの負担にならないの」
「いや。むしろバアバの気持ちを正面から受け止めようと思う」
「そー。それならいいけれど」
レイカの顔に少し安どの色が漂ったが、すぐに表情を引き締めて、
「ところで山荘の運営は大丈夫なの。世界ブランド化が実現すると両刃の剣と言っていたけれど」
二人の未来に関わることを話題にした。
「立山黒部の本当の良さ怖さを知っているのは先祖代々生きてきた僕たちだ。誰にも真似のできない山荘を実現する自信はあるよ」
「それを聞いて少しは安心だわ。人手は」
「なんとかなるよ。まだ、祖父も父も元気だし、近くには、叔母もいる。人手は、アルバイトなどを雇えば、十分可能だ。アルバイトは、学生に結構人気があるんだ。レイカが時々参加してくれれば、ますます学生が増えるかもしれない」
「もう。コウスケ。人を何だと思っているの。私は人寄せパンダなの。ちょっと古いけど」「いやいや。美人の若女将見習いということにしておくよ」
職場へは、年度末で退職する願いを出した。
貴重なAIの技術者ということで、慰留が続いた。
しかし、祖母、母の思いを継いで、立山と共に生きるという私の決意は変わらなかった。
ただ、システム開発という仕事は、ネット回線の整備ができれば、どこでも可能な時代になった。
冬場を中心に、在宅勤務の嘱託職員として仕事を続けることにした。
アパートに帰り南東の空を見た。立山は晴れの天気予報だ。明日のご来光が楽しみだ。 (了)

長い間、お付き合いいただきまして誠に有難うございます。