10、母の死の真相を語るバアバ より
11、空襲の記憶を語るバアバと死
しばらく頭を垂れていたが、
「もっと早く言ってくれてもよかった」
と声を押し出した。
「もっと大きくなって理解できる歳になって、と思っているうちに機会を失ったの。
それに」
「それに、どうしたの」
「バアバの子供時の記憶も重なっていたの」
「何なの」
「バアバが、子供の時、富山を米軍が空襲したの。大勢が一夜で死んだ。目の前で、多くの子供と母親が燃え落ちる家の下敷きになって亡くなった。皆な母親が子供を庇って死んでいった。幸いバアバは助かったけれど、もう二度と目にしたくない惨状だった」

「そうだったの。母の話をするとそのことも思い出す…」
バアバは、涙目を拭こうともせず静かに、
「これで思い残しは無いよ。聞いてくれて有難う。長いこと黙っていてごめんなさい」
閉じた目尻から、涙が頬を伝わって枕に落ちた。
私は、今聞いた話を心の中で反芻していた。
母のいないことを忘れさせるほど私を慈しんでくれたバアバも祖父も父も重い記憶を抱えていたことを初めて知った。一方、母の本当の最後を知ることができ、今までのもやもやが少しずつ晴れていくのを感じていた。
疲れからか、少し眠った。気がついて、バアバのベットの方を見た。静かだ。寝息がない。私は、はっとして立ち上がり、バアバを覗き込んだ。顔は、安らかだった。
「バアバ、バアバ」
何度も何度も声をかけた。その声を聞いて、家族が寝室に駆け付けた。レイカが持参していた聴診器で鼓動を聞いた。
「大変だわ。心音が…。急いで救急車を呼んで」
レイカが叫んだ。
救急車を待つ間、家族は無言だった。レイカが一人、主治医に頼まなければ、と繰り返し嘆き涙ぐんでいた。
「絶対、レイカの責任ではないよ。主治医も許可したし、家族も同意した。何よりもバアバには、立山を見る最後のチャンスだった。バアバにとっても本望だから」
レイカの肩を強く抱き寄せた。
救急車が到着して、私とレイカが乗り込んだ。残りの家族は、自家用車で追いかけることにした。病院についても、バアバの意識は戻ることはなかった。バアバは、山荘を出る時の安らかな顔のままで、永眠していた。急性心臓死であった。

12、倶会一処(くえいっしょ)最終章へ続く