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中編 神々の宿る山 10、母の死の真相を語るバアバ

 9、バアバ、コウスケの手を握る より

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10、母の死の真相を語るバアバ

 

私は、冷静になろうと自分に言い聞かせるように、

「えー突然何の話 」

とちょっとふざけるように答えた。

「では山小屋の遭難死ではなかったの」と続けた。

バアバは、言葉を選んでいるようで、次の言葉がなかなか出てこなかった。

しばらく目を伏せていたが、頭を上げて、私の方を向き、やっと、意を決したように語り始めた。

「コウスケは、三歳でまだ幼児だった。コウスケは、お母さんと一緒に前の日からこの山荘に、泊まり込んでいた。季節は10月初旬で、その日、朝早くから、お母さんは近くの知り合いの山小屋の手伝いに出かけていた。その山小屋で、秋のイベントの一つのライチョウ観察説明会が催されることになっていたの。人出が足りないということでヘルプで。知り合いの山小屋は、ミクリガ池の近くにあったの。ミクリガ池の初氷も9月末には張っていた。山荘の朝は早いので、コウスケが目覚めた時は、お母さんは出かけた後だった。コウスケも、初めのうちは、居間で遊んでいた。そのうち飽きてきたのだと思う。


ママ、ドコ

ママ、アイタイ

と言って居間の中をスキップしながら歩き回っていた。

コウスケは歩き出すのも早い方で、すでにスキップも出来るほどだった。

お母さんの前で、よくスキップをして、上手と褒められいた。

コウスケは気をよくして何時までもスキップを辞めないこともあったくらいだった。

バアバは、ママは午前中には帰るからね、もう少しのガマンだよとか声掛けしたり、あやしたりして気持ちを紛らわそうとしていた。」

ここまで一気に話してバアバは一息入れた。

次に進むには、また、気持ちの立て直しが必要なように、軽く深呼吸をして、再び話し始めた。

「バアバ達は、登山者が出かけた後の部屋などの掃除を始めていたの。その時、外で、ボーンという大きな音がしたの。ちょっとびっくりした。それが2回、3回と続いたの。何だろうと思って私たちは外に出た。するとトロンボーンを演奏するメンバーが3人ほど練習をしていたの。近くの山荘で開催するミニコンサートの出演者達だった。音の原因を確認した私たちは急いで山荘に帰った。ほんの一瞬、コウスケから目を離してしまった。」

「その隙にコウスケが居間から消えていた。じいちゃん、お父さんと3人で山小屋中を探したがいない。外にも出たのかも知れないと思い山荘の周りも見たが見つからない」

「これは後からの推測なのだけれど、付いて来ていたコウスケは、お母さんに会いたいので、私たちが一瞬目を離した隙に外に出たの。コウスケは、直感でお母さんの居る場所の方向を知ったのだと思う。」

「それで」

「コウスケは、ミクリガ池の方に行った。池は、すでに凍結していたが、一部、まだ緩いところもあった」

「お母さんが手伝い先の山荘からの帰り道で、ミクリガ池を歩いていたコウスケを見かけた。このままでは氷の緩いところに行く。お母さんは、コウスケと叫びながら、連れ戻すために池の氷の上を駆けた。その時、氷が割れた」

「お母さんが池に沈んだということ」

「それでも母さんは、必死に、コウスケを助けようとして、氷の固いところまで押して行った。しかし、コウスケを押し上げて、力尽きた。お母さんは、池に沈んでしまった」


私は、それを聞いた時、突然、思い出した。「コウスケ」という母の叫び声を。そして、目の前で見た記憶のあるフードのついた青い防寒着のことを。母が着ていたものだった。何だったのか今分かった。母が必死で自分を助けてくれた最後の姿だったのだと。

「私達もコウスケを探してミクリガ池の方に行った。時間にして10分からい経っていたとと思う。ミクリガ池までは雄山山荘から500mほどだった。氷の上で泣き叫ぶコウスケを見つけた時、起きたことを理解した。割れた氷水の下に沈んでいる青い色の塊が見えた。お父さんもすぐに池に潜って助けようとしたが、お爺ちゃんが必死で抱きとめた。この温度では直ぐに体が動かなくなり、今入ったら二人とも死んでしまう。道具が無ければ無理だと言って」

「そうだったの」

「そして、近所の人も駆け付けてくれたが、水の冷たさと水深十メートルに阻まれて時間がかかった。引き上げた時には、お母さんの息はなく、肌は透き通るように真白だった」

「なんということ。冷たかったろうに」

「お母さんが犠牲になって、コウスケを助けてくれたの」

「そうだったのか」

バアバは、ベッドに伏せて、

「コウスケ、ごめんよ。バアバが目を離さなければ」

「ごめんよ」「ごめんよ」と何回も口ずさんだ。

私は、バアバの背中に手をやって

「バアバは、何も悪くないよ。仕方がないことだったと思うよ。どうしようもない偶然が重なった事故だと思うよ」

しばらく何も言えずうつむいていた。写真で見た笑っている母の顔が、目の前に広がった。

「コウスケ」

母の声がはっきりと聞こえた。涙が幾筋か頬を伝わった。

 

11、空襲の記憶を語るバアバと死 へ続く

 




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